制約条件から導くエネルギー像と取り組むべき中長期的課題への提言
要旨
◆福島第一原子力発電所の事故により浮上した原子力発電に係わる様々な課題が解決しない限り、原子力発電にこれまで同様に依存したエネルギー政策の再構築は現状不可能。
◆全発電力量中およそ3割を占めていた原子力発電に大きく頼ることが出来ないという制約条件を考慮すると、現実への対処法として、3割を占めていた原子力発電の不稼働相当部分を火力(化石燃料)、および自然(再生可能)エネルギーで代替しつつ、エネルギー需要を技術革新やライフスタイルの転換、人口減などにより中長期的に現状より減らした姿にしていくというのが制約条件を考慮した現実的なエネルギー像の大枠となる。
◆上記のエネルギー像を目指すうえで重要となるのが、・化石燃料の確保、・再生可能エネルギーの普及、の2点になる。
◆化石燃料の確保では天然ガスの確保、再生可能エネルギーの普及では洋上風力をどこまで活用出来るのかが鍵となる。
【天然ガス確保への提言】
(1)天然ガスの供給源並びに供給形式の多角化により、安定調達と調達コストの抑制を同時に目指せ
天然ガスの調達コストの増大による貿易収支への悪影響や中東地域の不安定化の懸念の両方をヘッジする必要がある。
(2)北米シェールガスとサハリン産天然ガスを組み合わせた調達戦略を構築せよ
北米シェールガスとサハリン産天然ガスを組み合わせることで、安定調達と調達コストの抑制を同時に達成する調達戦略を構築すべき。
(3)サハリン産天然ガスの調達では、パイプライン敷設の可能性も再検討すべき
サハリンからの天然ガスパイプライン敷設により、LNG と比較して天然ガスの調達価格が大幅に下がる可能性がある。
【洋上風力の活用についての提言】
(1)浮体式洋上風力発電の実証研究を急げ
再生可能エネルギーの中で圧倒的にポテンシャルが高い洋上風力を活用するには浮体式洋上風力発電が主体となると見込まれる。
産業として日本の技術も活かせる浮体式洋上風力発電の分野であるが、現状開発段階であり実証データーが無いためコストや課題の把握が十分でなく検討材料に乏しい。
早急に実証研究を進め必要なデーターを把握することが必要。
(2)実証研究は国際標準化のスケジュールを考慮せよ
世界的に見て開発段階にある浮体式洋上風力発電であるが既に国際標準化の議論が進められている。国際標準化で他国に遅れをとることで自国の技術が活かせず普及が進まないという事態が起こらないよう国際標準化のスケジュールを考慮する必要がある。
(3)漁業関係者を浮体式洋上風力発電の担い手の一員とするモデルを構築せよ
再生可能エネルギーはその地域の風況、日射、地熱、水流などからエネルギーを得る地域密着型のエネルギー。地域の理解を得るためにも洋上風力発電は“海でエネルギーを養殖する新しい漁業”という視点で漁業者を担い手の一員に。