社会保障制度、特に医療・介護制度とは本来、私達の生活に密着する政策分野です。私たちはどう生きて、どう死にたいのか、それを社会としてどのように支え合うのか。医療・介護政策の根底にはそうした問いが横たわっています。その方向性を決定するには国民各層の幅広い参加と合意形成、ビジョンの共有が求められます。
このような問題意識に立ち、今回の提言は主に医療保険制度に力点を置き、ありたい姿、あるべき姿を示しました。
日本の医療保険制度は1961年に国民皆保険を完成させました。これは世界で4番目とされ、サラリーマンが加入する被用者保険と、自営業者らが加入する市町村国民健康保険という分立した体制は高度成長期に有効に機能したと言えます。しかし、半世紀以上の時が流れる中、平均寿命の延長や雇用形態の多様化、グローバル経済の進展など社会経済情勢は大きく変化しました。人口の4人に1人が65歳以上を迎える超高齢化社会を迎える中、医療・介護の費用も増加し続けており、一層の高齢化の進展を考えると、制度の持続可能性が問われます。
提言は以下の4点を指摘しています。
提言(1):保険制度の地域一元化
年齢、職業で細分化されている医療保険制度を地域に一元化する。被用者保険と地域保険に分立した現行システムではリスクの分散が社会全体で適切に行われておらず、保険料の負担が不公平となっているため、コミュニティに基盤を置いた医療制度に改革する。
保険の財政運営単位は都道府県とし、市町村も保険料徴収、医療・介護の連携、予防・保健などで医療政策に関与する。このことを通じて、地域特性に応じた医療・介護のベストミックスを進め、医療費の節約につなげる。
提言(2):財政制度の簡素化
負担と給付(受益)の関係が分かりやすい簡素な財政制度を創設する。公費(税金)で負担する部分を一定割合に限定し、他の地域に比べて医療サービスを多く利用している部分については、地域住民の保険料または窓口負担に反映されるシステムにする。被保険者である住民が負担と給付(受益)の水準を理解しつつ、医療費や保険料の水準を考えられる基盤を整備する。
提言(3):住民自治の強化
医療・介護政策における住民参加、住民自治を強化する方策として、住民代表や議会代表、診療団体の代表などで構成する「地域医療介護会議」(仮称)を都道府県単位に、「市町村医療介護会議」(仮称)を市町村単位に常設する。住民参加、住民自治の下、医療費の規模や保険料率の決定を含めて、地域特性に応じた医療・介護政策を展開できるようにする。
提言(4):保険者に対する権限移譲
プライマリ・ケアの制度化に向けて、保険者が地域の医療体制に関与できるよう診療報酬の分配や施設・人員基準の決定権限などを保険者に移譲する。財政運営に対する保険者の関与を強化するため、保険給付と保険料をリンクさせる新たな計画制度を創設するほか、無計画な公費(税金)投入を制限するための「医療財政安定化基金」(仮称)を都道府県単位に設置する。