米山秀隆
富士通総研経済研究所主席研究員
マンションの終末期問題
空き家問題が深刻化している。2015年に施行された空家対策特別措置法に基づき助言・指導が多数行われ、中には行政代執行で解体される物件も出ている。代執行に際しては、費用を回収できないという問題も発生している。今は戸建てを中心に起きているこうした問題も、近い将来、分譲マンション(以下、マンション)に波及していく可能性が高い。
マンションは、築40年を超えると空室化、賃貸化が目立つようになり、管理機能が低下していく。老朽化の進展とともに相続が進み、区分所有者を特定しにくい物件も出てくる。築40年超の物件は、2037年には2017年の4.8倍にも達する。
マンションを長く使うためには大規模修繕を定期的に実施していく必要があるが、こうした基本的なことも、必ずしも容易ではない。
一方、建て替えという選択肢は、ディベロッパーと協力し、容積率や敷地の余剰部分などを利用して余計に造った住戸を市場で売却して、建て替え費用の多くとディベロッパーの利益を賄う枠組みを構築できなければ採りづらい。
修繕や建て替えが困難だとすると、区分所有権を解消して売却するという、いわば、マンション解散の選択が視野に入る。建て替えが区分所有者および議決権の5分の4の賛成でできるのに対し、これについては従来、全員一致が必要であった。しかし、現在の仕組みでは、被災マンションや耐震不足と診断された物件については5分の4の賛成でできるようになっている(被災マンション法による被災建物・敷地売却制度、マンション建替え等円滑化法によるマンション敷地売却制度)。ただ、被災マンションの場合は解体に公費が投入されることになるが、耐震不足のマンションの場合は、解体費用が敷地の価値を上回るようであれば買い手にとってメリットはなく、議決によって売却を決めるという自主的な解消は進みそうにない。
修繕、建て替え、自主的な解消のいずれも困難だとすると、老朽化が進み朽ち果てたマンションが放置されたままになるという、現在、戸建ての空き家で生じている問題がマンションでも発生することになる。空家対策特別措置法では、共同住宅については、全室が空室になった場合、法を適用して代執行までできる。とはいえ、マンションの場合は解体に巨額の費用が必要になるため、自治体はそうした選択を行いにくい。
以下では、ここまで述べてきたマンションが老朽化しその終末期に直面する問題について、まず所有者不明・不在物件が増えてきた場合の対処、次いで最終的に区分所有権を解消して建物を解体する方策について検討していく。
マンションにおける所有者不明・不在物件
近年はマンションでも、相続未登記や相続放棄によって、所有者不明・不在になる物件が増えつつある。国土交通省が2016年から17年にかけて管理組合に対して行った調査(「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」、回収数639件)によれば、「連絡先不通または所有者不明」の物件があるマンションは全体の13.6パーセント(87件)存在した。連絡先不通・所有者不明物件のあるマンションの内訳は、築40年以上が29パーセント、築30年以上40年未満が24パーセントと、古い物件が多くを占めている。
所有者不明・不在物件が増えることの問題点としては、①管理費や修繕積立金が徴収できなくなること、②管理が行われないことで劣化が進んだり周囲に悪影響を及ぼしたりすること、③多数決による決議が困難になることなどがあげられる。つまりはマンション管理上のさまざまな支障を来すということである。③については、同じ調査で、今後は建て替え決議などの成立が困難になると考える割合が7割に達している。
財産管理人による処分の可能性
管理組合は、所有者不明・不在となった場合は不在者財産管理制度、相続放棄された場合は相続財産管理制度によって、物件を処分することができる。
ただし、財産管理人の選任は家庭裁判所に申し立てることによって行われ、その際、数十万~100万円程度の予納金の支払いが必要になる。それでも、物件を売却できれば予納金や管理費滞納分などに充当できる。しかし、そもそも所有者不明・不在となる物件は、価値がないためにそうなってしまった可能性が高く、たとえ売れたとしても予納金や滞納分を賄うのに十分な値段に達しない場合が多いと考えられる。その場合、滞納分は新たな区分所有者が引き継がなければならなくなり、ますます買い手を見つけるのが難しくなる。
所有者不明・不在となった土地の場合は、市場で価値がなくても、隣の人にとっては敷地拡張のために価値があり、買い取ってもらえる場合がある。マンションの場合も、市場で売れなくとも、従前からの区分所有者に買い増し需要があれば、引き取ってもらえる可能性はある。しかし、建物が老朽化するとともに区分所有者も高齢化しているマンションにおいては、そのような需要はあまり期待できそうにない。
結局のところ、所有者不明・不在となると、管理組合はその物件の処分に窮することになる。
相続放棄には遺産すべての放棄が必要で、マンションだけを選択的に放棄できないが、今後、ほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えれば、マンションの相続放棄が増加していく可能性がある。将来的には、市場価値のないマンションの大半が相続放棄されるといった事態も起こりかねない。放棄しないまでも、相続未登記が増え、権利者に連絡を取るのが難しくなるケースが増えていくことも考えられる。
利用権設定のアイディア
所有者不明・不在の物件が増えてその期間も長引くと、荒廃してマンション全体に悪影響を及ぼす可能性も出てくる。
こうした所有者不明・不在物件が放置され、管理が行き届かなくなる事態を避けるため、長期間空室になっているマンションについて、裁定によって利用権や所有権を設定できるようにするアイディアも提起されている[1]。管理組合が、将来所有者が現れた場合に支払う補償金を供託した上で権利を得て、利用または処分するというものである。管理組合はこれを賃貸物件として貸し出せば賃料収入が得られ、管理費や修繕積立金に充てられるようになるかもしれない。
所有者不明の土地については、都道府県知事の裁定により利用権を設定し、補償金を供託した上で公共性を持つ事業に使えるようにする仕組みが新たに創設された(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)。利用権の設定は、将来的にはマンションについても検討課題の一つになると考えられる。
放棄の一般ルールの必要性
所有者不明・不在のマンションについては、マンションという共同住宅の仕組み自体が新しいため、土地のように所有者を探索するために何代も遡らなくてならないようなケースは存在せず、仮に未登記の場合でも、所有者にたどりつける可能性は高い。
問題は相続放棄である。これは認められている権利とはいえ、残された区分所有者が負担を押し付けられる結果になっている。相続放棄物件の処理コストが嵩むことを考慮すれば、最初から放棄できる一般ルールを定めておいた方が望ましいとの考え方に立つことも可能である。
民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」との規定があり、登記に放棄の手続きを設ければ、所有権の放棄が一般に可能になる。国の負担が増すが、放棄時に費用負担を求める仕組みにすればよい。その後、物件と放棄料は管理組合に移し、管理や処分を行えるようにするのである。求める費用負担額としては、例えば、管理費、修繕積立金、固定資産税などの何年か分という設定が考えられる。
放棄の一般ルールを設けるメリットとしては、相続放棄のように一方的に放棄されるわけではなく、放棄される管理組合の側は放棄料を得て、その後の管理や処分費用に充てられることがある。この仕組みでは、マンションの区分所有者は、いわば放棄料支払いというマイナス価格で管理組合に物件を引き取ってもらう形になる。
この仕組みのデメリットとしては、放棄料が安すぎると簡単に放棄できるため、放棄が爆発的に増えてしまう可能性があるという点であろう。現在の相続放棄の仕組みでは、相続財産すべてを放棄しなければならないことが一定のハードルになっている。しかし、これには対策を講じることもできる。必要な財産を遺言書で遺贈したり、生前贈与したりしておけば、必要な財産を確保した上、不要な不動産のみを相続放棄して手放すことも不可能ではない。なし崩し的に相続放棄が増えていく可能性を考慮すれば、放棄の一般ルールを定めた方が、まだましだとも考えられる。
もちろん、先に紹介したような、所有者不明・不在となって長期間経過した後で、利用権や所有権を設定する仕組みも悪くはないが、それには時間を要する。不要なものは最初から放棄料を支払う条件で放棄を認め、管理組合がその後の利用や処理を早期に考える方が合理的であろう。
なお、ここまで述べてきたことは、マンションの管理組合が機能していることを前提にしている。管理組合が機能していない場合は、放棄物件の管理、処分を担う受け皿機関のようなものも必要になるかもしれない。
強制解体と解体費用積み立ての仕組み
次に、区分所有権解消の問題に移る。
前述のように、現状では被災マンションや耐震不足のマンションについては、区分所有者および議決権の5分の4の賛成で区分所有権を解消できるが、将来的にはその仕組みだけでは十分ではないと考えられる。まずは、すべてのマンションが5分の4の賛成で区分所有権を解消できるようハードルを下げる必要がある。
次いで、空家対策特別措置法のマンション版といった法律を作る必要がある。マンションについては、全室が空室にならなくとも、建物の危険度合いの判定によって、最終的に代執行できるような仕組みが妥当であろう。実務については自治体が担うのは難しいため、例えば都市再生機構が担うことが考えられる。その際、都市再生機構は、放棄物件の受け皿機関としての役割も果たすのも一案である。
マンションも戸建ての場合と同じように、代執行しても費用が回収できない可能性は残る。その際、マンションの解体に多額の公費が投入されることになりかねない。この問題に対処する一つの方法は、区分所有者があらかじめ将来必要になる解体費用を積み立てておく仕組みを作ることである。
定期借地権の期間(50年以上)を満了すると地主に土地を返さなければならない定借マンションでは積み立ての仕組みが設けられている。一般のマンションでも計画的に積み立てておけば、仮にその後、所有者不明・不在の物件が増えていったとしても、解体費用を心配する必要はなくなる。必要な積み立て額の目安としては、仮に解体費用を坪8万円と想定すれば、例えば75平方メートルのマンションの場合、180万円ほどとなる。
このように、今後、マンションの老朽化が進展していくにつれ所有者不明・不在のマンションが増える可能性を考えて、放棄された物件を抱える管理組合の側が過度に不利益を被らないような放棄の一般ルールの仕組み、そして最終的に解体しなければならないことを考えて、当初から解体費用を積み立てておく仕組みの必要性が高まっていくと考えられる。
戸建ての空き家との比較
以上二つの仕組みをマンションについて提案したが、戸建ての場合も必要と考えられる。
筆者はかねてから、戸建ての解体費用を事前徴収する仕組みとして、一度に支払う形や一定期間(例えば10年程度)、税で徴収する形を提案してきた。徴収方法としては、供託や固定資産税への上乗せやなどが考えられる。
戸建てについては、マンションの管理組合に相当する機関はないため、強制的に徴収する仕組みを提案した。一方、マンションについては、定借マンションの仕組みにならって積み立てる仕組みを提案した。これを共通の仕組みとして設計する場合、戸建ての強制徴収の仕組みに合わせることも考えられる。現在のマンション管理組合の実態は、修繕積立金すら十分な額が積み立てられておらず、解体費用の積み立ても望みにくいと思われるからである。
放棄の一般ルールも、戸建てでも必要である。相続放棄によってなし崩し的に放棄された状態になり、管理責任も果たされなくなっていくのは、国土の管理という意味でも望ましい状態ではない。費用負担を求めた上で放棄を認める仕組みを設けるのは、国土管理を適正に行っていくという意味でも正当化できる。
また、所有者不明となった後、利用するために所有者の探索に多大なコストを投入するよりは、最初から放棄を認め、国の所有に移しておいた方が、その後の利用がしやすくなるメリットもある。戸建ての場合、実際の管理は自治体が担うことが考えられる。
今後の議論活発化に期待
本稿では、マンションが老朽化し、終末期に直面する可能性が高い所有者不明・不在問題と解体の問題について、今後、必要になると考えられる具体的な仕組みを提案した。解体費用を事前徴収しておき、また、仮に区分所有者が放棄したくなった場合は、相続放棄によってなし崩し的に放棄するのではなく、放棄料を支払った上で放棄する仕組みにすれば、管理組合や清算機関がその後の管理や解体において、費用面の心配をする必要はなくなる。戸建てについても、解体費用を事前徴収しておいた上、放棄は有料にすれば、更地にする費用とその後の管理に充てる費用を賄える。ここで述べた案は一つの考え方に過ぎないが、今後議論が活発化していくことを期待したい。
[1] 土地総合研究所「人口減少下における土地の所有と管理に係る今後の制度のあり方に関する研究会 平成28年度とりまとめ」『土地総合研究』25巻2号(2017年春号)。
米山秀隆(よねやま ひでたか)
1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て富士通総研入社。2007~2010年慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣)、『限界マンション』『空き家急増の真実』(以上、日本経済新聞出版社)など。
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