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人口減少社会における不動産税制のあり方――コンパクトシティと不動産税制
ナカドマ(屋根付き広場)を中心に、アリーナ、市民交流ホール、市役所、議会が一体となったシティーホールプラザ「アオーレ長岡」(筆者撮影)

人口減少社会における不動産税制のあり方――コンパクトシティと不動産税制

October 23, 2019

倉橋 透
獨協大学経済学部教授

1.はじめに――新たな時代の土地を考える上で必要な視点

わが国社会は明治以来長期にわたり人口増加を経験した。巨視的に見て、人工的な土地利用面積が増加し、土地所有に対する選好が強まった。しかし、平成以来、トレンドが変わってきた。人口が減少をはじめ、土地所有に対する意識も大きく変わってきている。今後の人口減少社会に適合する都市政策や国土政策、さらにはこれと連携した税制改正を進める必要がある。本稿では、人口減少社会における不動産税制(土地・家屋税制)のあり方を検討する。不動産税制を検討するにあたり、今後の土地利用や土地所有をどうしていくべきかを考えることが重要である。本稿では以下三つの視点から不動産税制を考える。紙幅の関係から、おもにコンパクトシティと不動産税制について論ずることとしたい。

1)コンパクトシティ(コンパクト・プラス・ネットワーク)

平成以来、郊外部に大型スーパーマーケットが建設され、公的機関(県庁、市役所)や病院、大学が移転し、住宅地が開発されてきた。これは地方都市で顕著にみられ、クルマ社会の進展と軌を一にしている。それに伴い郊外に整備したインフラの運営(学校の先生の給与、道路の除雪等)・維持・更新の負担は大きい。しかも今後は、人口減少、少子・高齢化により、そうしたインフラの利用効率が悪くなる一方で、税収は減少してくるものと思われる。一方で、改正中心市街地活性化法の認定中心市街地活性化基本計画や改正都市再生特別措置法の立地適正化計画があり、コンパクトシティ、あるいはコンパクト・プラス・ネットワーク[1]に向けた取り組みがなされている。前段の理由から、こうした取り組みを進めるべきではないか。

2)土地所有のトレーサビリティ

土地所有権の相続登記が任意であるため、登記を行わない事例が多く、公共事業等に際し土地所有者を確定することが困難に、あるいは多大の労力を要するようになっており、社会問題化している。いま、登記の義務化が検討されている[2]一方で、実効性の観点から登録免許税の減免措置の必要性も指摘されており[3]、筆者も同感である。

3)土地所有のあり方

わが国では私権が強く、既存不適格建築物も建替えまでそのままであり、都市再開発に長い時間を要することもあるため、土地所有権の放棄を認めることについても議論が進んでいる[4]。さらに、相続税の物納を認めるケースを増やし、公的団体が土地を所有し定期借地で貸し出すことも検討すべきである。そうすることで、都市計画制度だけでなく、土地の賃貸借を通じた良好なまちづくりが期待される。公的団体が土地を所有することで、所有者不明土地化も防げる。 

2.コンパクトシティ(コンパクト・プラス・ネットワーク)と不動産税制

まず、コンパクトシティ、あるいはコンパクト・プラス・ネットワークの取り組みについてである。本項では、不動産税制の面からこうした取り組みを推進するための施策を提言する。具体的には、第一に、認定中心市街地活性化基本計画の中心市街地、および立地適正化計画で指定された居住誘導区域や都市機能誘導区域への居住や立地を推進するため、これらの地域での不動産の保有に対する税の減免を行うこと、第二に、空き家や空き店舗に代表される中心市街地の遊休不動産については課税を強化することである。

(1) 中心市街地における利用されている不動産についての税の減免

第一の提言は、中心市街地における住宅や商業施設などに対する税(おもに保有税が考えられる)を軽減し、居住や立地を促進しようというものである。

ここでは、新潟県長岡市における施策を検討してみる。長岡市は、2000年代より、中心市街地の活性化に向けた取り組みが行われており、2012年には、市役所の中心市街地への移転と併せ、ナカドマ(屋根付き広場)を中心に、アリーナ、市民交流ホール、市役所、議会が一体となったシティーホールプラザ「アオーレ長岡」がJR長岡駅前に整備された[5]。アオーレ長岡では年間450件を超える市民イベントが行われ、年間100万人を超える市民が利用し、中心市街地活性化のシンボルとなっている。

         アオーレ長岡(筆者撮影)


長岡市における税の減免措置に、まちなか居住区域定住促進事業、および高度利用地区内における一定の耐火建築物に対する不均一課税がある。

1)まちなか居住区域定住促進事業

まちなか居住区域定住促進事業は、長岡市外の居住者が、長岡市立地適正化計画で定めた「まちなか居住区域」(またはその一部)に、住宅を購入するなどして後に居住した場合、この住宅の固定資産税を3年間(子育て世帯は5年間)、1/2に免除するものである(上限あり[6])。国の「新築住宅に係る固定資産税の減額措置」と併用でき、固定資産税が免除される場合もある。なお、まちなか居住区域は、改正都市再生特別措置法の居住誘導区域にあたる。長岡市は独自の取り組みとして、本制度を2018(平成30)年度からスタートさせた。利用開始世帯数は、20184月から20197月までで17世帯。うち、2018年度は、13世帯で、これにともなう減収額は約86万円である。本制度は、転入者に対し、まちなか居住をアピールするものとして評価することができよう。

2)高度利用地区内における一定の耐火建築物に対する不均一課税

都市再開発法は、高度利用地区内における一定の耐火建築物の固定資産税については、不均一課税ができることとしている(正確には、地方税法の不均一課税の規定の適用がある、としている)。長岡市の市税条例では、これを受けて、高度利用地区内における一定の耐火建築物の固定資産税の税率を5年度分0.98%(本則1.4%)としている。具体的な対象としては、新築住宅軽減など他の軽減措置の対象にならないものである。本年度は、5件に適用されており、減収額は86万円程度である。なお、2014年度は、適用件数10件、減収額320万円程度であった。この不均一課税は、中心市街地の活性化を目的とするものではないが、高度利用地区が中心市街地に位置していることから、結果的に中心市街地の活性化に寄与しているものといえよう。全国的に見た場合、不動産税制を用いて中心市街地活性化、居住誘導区域や都市機能誘導区域への居住や立地の誘導を図る余地は、質的にも、量的にもまだまだあるものと思われる。国、地方による施策の推進に期待したい。

(2) 中心市街地における遊休不動産に対する課税強化

第二の提言は、中心市街地にある空き家の課税を強化し、利活用を促進することである。わが国では、空家等対策の推進に関する特別措置法が2014(平成26)年に制定され、「倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」などと認められる特定空家等に対し、市町村長は、助言、指導、勧告、命令、行政代執行等ができるようになった。なお、同法でいう「空家」とは、住宅の「空き家」以外に空き店舗なども含まれる。2015(平成27)年度税制改正により、勧告がされた特定空家等の敷地は住宅用地特例の対象から除外されることとなった。これにより、土地の固定資産税が6倍あるいは3倍になる。2018(平成30)年度時点で、除外された土地(正確にいうと、「住宅用地以外の宅地[個人]の計および住宅用地以外の宅地[法人]のうち、勧告がされた特定空家等の敷地の用に供されている旧住宅用地」)は納税義務者数で87人、土地の筆数で115筆である[7]2017(平成29)年度の45人、58筆よりは増えているものの、2018年度中の勧告件数はフローで370件、うち住宅は337[8]であり、これに比べて少ない。

一方、範囲が異なるが、住宅の空き家についての統計を見てみる。2019930日に公表された「2018(平成30)年住宅・土地統計調査」では、一戸建ての空き家総数が3183,800戸、うち「その他の住宅」(別荘等二次的住宅、賃貸用の空き家、分譲用の空き家を除いたもの。いわゆる「その他の空き家」。所有者の入院、施設入居、相続人が賃貸、売却せずまた使用もしない住宅などと考えられる)は2518,500戸である。腐朽・破損のある住宅に限ってみると、一戸建ての空き家総数が939,500戸、うち「その他の空き家」は799,900戸ある。わが国の場合、利用されなくなった建物等が周辺に危険を及ぼすことなどを防止する観点で制度が作られているので、空き家戸数と住宅用地の特例から除外されている筆数とのギャップが大きい。一方、住宅を市場に戻すことを念頭に施策を行っているのが、英国イングランドである。イングランドは移民の流入もあり、住宅不足が大きな問題となっている。英国政府のホームページによれば、イングランドにおける2018年の長期空き家戸数は216,186戸である[9]

英国議会下院図書館資料「空き家(イングランド)」(2017年)および政府の自治体向けガイドラインによれば、201341日から、自治体は長期の空き家に対し、地方自治体税(カウンシル・タックス)を重課することができるようになった。すなわち、2年以上占有されておらず、家具もほとんどない住宅には、通常のカウンシル・タックスの150%まで課税することができる。重課制度を自治体として導入するか、どの住宅に重課するかは自治体の裁量である(エムプティ・ホームズ・プレミアム)[10]

この制度に基づき、エンプティ・ホームズ・プレミアムの対象になっている住宅は、201762,419戸、うち50%の重課(最大)となっているものは61,718戸である[11]

さらに、重課の限度を50%から100%に拡充する法案が提案され、昨秋英国議会で審議された。議会で修正があり、重課の限度を以下にすることで成立した。

20194月より  重課の限度                   100%

20204月より  重課の限度  空き家期間  2-5年未満    100%

                                                                       少なくとも5年       200%   

20214月より  重課の限度  空き家期間  2-5年未満    100%

                                                                        5-10年未満    200%

                                                                        少なくとも10年  300%

法律名は、"Rating (Property in Common Occupation) and Council Tax (Empty Dwellings) Act 2018"で、2018111日に成立している[12]。空き家期間とともに重課の限度が変わってくる点、重課の限度を50%から300%に一気に引き上げた点が特徴的である。実際の適用は、自治体により裁量がなされる。英国の空き家は特定地域に集中しており、空き家対策は、地域政策の意味がある。
 

         イングランド北部リバプールの空き家街(筆者撮影)

わが国においても、2014年の都市再生特別措置法改正による立地適正化計画の居住誘導区域の空き家には、利用を促すために、特定空家等にかかるものとは別の重課制度があっていいのではなかろうか。 

おわりに

ほかにも不動産税制については論ずべき点が多々ある。紙幅の都合上、以下に土地税制に関する論点をあげるにとどめる。 

1)固定資産税の評価は、「資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存在する受益関係に着目」[13]している。これは、収益価格としての地価という考え方に基づくものと思われる。一方、固定資産評価額は「公示価格の7割」とされているが、妥当であろうか。 

2)相続税評価については「相続税納付のため仮に売り急いだとしても売買価格が相続税評価額を下回らない」[14]という考え方があり、相続税評価額は「公示価格の8割」とされている。しかし、売買による土地所有権移転登記の件数は地域によって差がある。例えば、2018年の函館法務局管内は4,532件、鳥取法務局管内は5,841件である一方、東京法務局管内は136,896件である[15]。そもそもの市場規模の違いはあるにしても、需要の多寡による売却のしやすさは地域により異なる面があろう。割合は地域ごとに決めるべきではないか。 

3)所有者不明土地が社会問題となっており、その背景として相続による所有権移転の登記が行われていないことが指摘されている。法制的な検討が現在行われているが、税制においても相続発生後一定期間内の登記であれば、登録免許税を免税ないし軽減することは検討できないか。ちなみに、相続による不動産取得については、不動産取得税は課せられない。 

4)一般的に私有地には、所有者不明土地になるリスクが、多かれ少なかれ存在する。また、所有権の強さから空き地や空き家になり管理が十分行われない場合でも行政が介入しづらい。だからこそ、空家等特別措置法ができたわけである。所有者としても高齢であったり、所有地が遠隔地である場合には、管理が大変である。土地による相続税の物納をより多くの場合に認め、そうした土地を国が定期借地として貸し出し、地主として適正な利用や管理が行われるように配慮し、今後のまちづくりを進めていくことは考えられないか。 

5)相続税は、資産の再分配を図るうえで重要なツールであり、小規模宅地の適用要件の厳格化が図られてきたところである。ただ一方で、資産価値の高い、大都市の低層住宅地では、納税のための土地売却、その際の土地の細分化、建てづまりも起こっている。相続税による資産の再分配とまちなみの保全や防災とのバランスをどう考えるか。 

以上の論点のうち多くは、地域の人口や人口構成の変化などにより、土地の資産としての有利性が地域によって大きく異なる時代になったことに起因している。土地をめぐる状況はバブル経済までとは大きく異なっている。しかしながら、政府税制調査会で土地税制を正面からとりあげた答申は、1990(平成2)年の「土地税制のあり方についての基本答申」が最近のものである[16]。土地法制について、現在、大がかりな検討が行われている。土地税制、さらには家屋まで含んだ不動産税制のあり方も、社会状況の変化を踏まえ、また都市政策との連携を念頭に根本的に考えていくべきではなかろうか。

 


[1] コンパクトシティとは、公共施設や商業施設、住宅などを特定の区域に集めるまちづくりをいい、そうしたまちづくりを公共交通機関と連携して進めることをコンパクト・プラス・ネットワークという。

[2] 2019(平成31)年214日、法制審議会に諮問。

[3] 米山秀隆『捨てられる土地と家』ウェッジ、2018年。

[4] 2019(平成31)年214日、法制審議会に諮問。

[5]新潟県長岡市資料「みんなが創るまちなかの価値~誰もが楽しみ安心できる場所、誰もがつながり育てるまち~」20194月。

[6] 長岡市資料「まちなか居住区域定住促進事業」。

[7] 総務省ホームページ「2018(平成30)年度 固定資産の価格等の概要調書」のⅠ.土地 5.宅地等の負担調整に関する調(法定免税点以上のもの) 全国計(10-3)表。

[8] 国土交通省ホームページ「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」(2019[平成31]年331日時点、国土交通省・総務省調査)の「特定空家等に対する措置状況」。

[9] https://www.gov.uk/government/statistical-data-sets/live-tables-on-dwelling-stock-including-vacants.

[10] 倉橋透「イギリス 行政主導で空き家を市場に戻す」(米山秀隆編著『世界の空き家対策――公民連携による不動産活用とエリア再生』[学芸出版社、2018年]第5章、161頁)を参照。

[11] 英国政府ホームページ; https://www.gov.uk/government/statistics/council-taxbase-2017-in-england.

[12] 英国政府ホームページ; http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2018/25/section/2/enacted.

[13] 税制調査会「土地税制のあり方についての基本答申」(1990〔平成2〕年10月)。日本租税研究協会のウェブサイトに全文が掲載されている。http://www.soken.or.jp/p_document/zeiseishousakai_pdf/h0210_totizeisei.pdf

[14] 脚注13に同じ。

[15] 法務省「登記統計」。

[16] 脚注13に同じ。なお、税制改正自体は、土地税制そのものを表題に冠したものはないにせよ、その後も行われている。

 

 

倉橋 透 (くらはし とおる)
1981年東京大学経済学部卒業。1985年ケンブリッジ大学大学院土地経済研究科修士課程修了。2006年東京大学博士(工学)。1981年建設省入省。経済企画庁総合計画局社会資本班副計画官(経済計画、公共投資基本計画)、海上保安庁海洋情報部企画課長等を経て、2005年に退官。同年より現職。(独)住宅金融支援機構事業運営審議委員、さいたま市空き家等対策協議会長などを兼務。著作に、『サブプライム問題の正しい考え方』(小林正宏と共著、中公新書、2008年)、「イギリス 行政主導で空き家を市場に戻す」(米山秀隆編著『世界の空き家対策――公民連携による不動産活用とエリア再生』[学芸出版社、2018年]第5章、149-176頁)など。

 

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