「第6回日米欧東京フォーラム(TFT)」は、日米欧だけでなく豪州とインドの代表者も参加してインド太平洋地域における課題について議論が行われたという点で画期的だった。TFTが「QUADプラス(日米豪印の4カ国とその他の国・地域)」というユニークなプラットフォームになったのだ。欧州は往々にしてインド太平洋の地政学と無関係だと思われがちだが、今回のTFTで価値観を共有する国々が直面している共通の課題が明確になり、その概念は覆された。加えて、欧州の安全保障と繁栄はインド太平洋地域の情勢に大きく影響されること、欧州、日本、その他のアジア諸国の連携分野も明示された。
今回のフォーラムの主なテーマは、中国の地域戦略とインド太平洋におけるパワーバランスの変化だった。欧州の政策立案者の口からはいまだに「インド太平洋」という言葉が聞かれないが、政府と市民は、欧州とアジアでの中国の挑戦に気づきつつある。中国が国際的な規範やルールを破り続ける中、TFTは中国の台頭によってもたらされた課題を見極める機会を提供したのだ。
TFTの重要な成果の一つは、そうした課題に対し、日米豪印と欧州がいかに連携を強化していくかという点について実際的な議論ができたことだろう。南シナ海は引き続き重要な連携分野だが、インド洋地域の重要性も確認された。そもそも、中国の一帯一路構想に起因する多くの動き、すなわち中国の資本と投資の流入、債務のわな、財政の不安定化、内政に対する中国の影響力の増大、中国人民解放軍海軍の勢力の拡大などが最初に顕在化したのは、インド洋地域なのだ。
こうした動きはパキスタンやスリランカをはじめ、多くの東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国で見られ、日米豪印は、欧州がインド洋で一層大きな役割を果たすことを期待している。欧州の貿易の大半はインド洋を通って行われており、インド洋は広い意味で欧州の「隣人」と言えるからだ。TFTでは、欧州がアジアのパートナーに対して貢献できる分野として、安全保障面、特にインド洋の重要なシーレーンとチョークポイントの保護に関する負担の分担が挙げられた。
地域の「連結性」もまた、日米欧の連携の成果である。インフラ投資と聞いて一帯一路を連想する人は多いだろうが、連結性は連結性は中国が発案したわけではない。長年この分野に取り組んできたのは日本と欧州だ。日本は東南アジアで重要な役割を果たし、欧州は近隣諸国との間にインフラのネットワークを構築してきた。
9月27日、安倍首相とユンカー欧州委員会委員長はブリュッセルにおいて、「持続可能性、質の高いインフラ及び対等な競争条件がもたらす利益に対する確信」[1]に基づき、日EUの連結性パートナーシップに関する文書に署名した。この文書においてEUと日本は、「パートナーのニーズと需要を十分に考慮し」[2]、「その財政能力及び債務持続可能性」に留意しながら、第三国での共同プロジェクトで協調することを確認した。文書中に中国や一帯一路構想への言及は一切ない。しかし財政と環境における持続可能性、地域のニーズ、質の高いインフラの提供を重視していることから、このパートナーシップが一帯一路に代わる枠組みの提供を目指していることは明らかだ。
経済規模で一帯一路に匹敵するイニシアチブは存在しないが、代替の枠組みがあることは極めて重要である。規模の小さな国々に選択肢を与えるだけでなく、それらの国々の交渉能力を高め、一帯一路のプロジェクトや契約において、よりよい条件を勝ち取ることを可能にするかもしれないからだ。その意味で、日EUの連結性パートナーシップには大きな可能性がある。日本と欧州は、西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋、アフリカにおいて協調し、国際的な規範と基準を強化するという重要な役割を果たすことになるのだから。
さらにTFTでは、まだ協力体制が整っていない新たな課題、特に中国の政治的な影響力への対応とテクノロジーをめぐる地政学的競争に関する議論が促された。これは間違いなく今回のTFTの最大の成果と言えるだろう。政治的な影響力を強めようとする中国にどう対処するかという経験や、ファーウェイなどの政府と密接な関係のある企業が中国の影響力の拡大に果たす役割について、豪州からの参加者と共有できたことは非常によかった。また、各地域から参加したジャーナリストや政策立案者も、中国による組織的な世界各地での世論形成活動を見抜いた経験をシェアしてくれた。より効果的な対応を検討するには、私たちはこれらの分野に対する理解を深めていく必要がある。
結局、2日間にわたる集中的な議論と意見交換によって明確になったのは、インド太平洋と欧州は決して遠く離れた地域ではない、ということだった。日本、欧州、米国の一層の連携と協力が必要とされる場所は数多く存在する。過去のTFTでは、各地域における安全保障上の課題をめぐって日米欧の意見の不一致や優先順位の相違が見られたが、今回は多くの点で三者が一致した。欧州は今後、アジアでより大きな役割を果たしていくだろう。そのことは、欧州が中国に対する見方を変え、「中国は制度面においても経済面においても欧州のライバルである」と認識を改めたことからも明らかだ。加えてEUは、インドを「多極的なアジアにおける重要な柱」と位置付ける新たな戦略を策定[3]、実現可能かつ持続可能な質の高いインフラを提供するという画期的な連結性パートナーシップを日本と締結したことに加え、アジアの安全保障に関してより大きな役割を担おうという決意[4]も表明している。
こうした行動はすべて、欧州のインド太平洋地域へのアプローチの礎石となる。インド太平洋での欧州の役割の増大を同地域のパートナーと日本が歓迎していることを明確にしたという点で、第6回TFTが果たした役割は大きい。
[1] 「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EU パートナーシップ」第1段落
[2] 前掲文書、第2段落
[3] “India: Council adopts conclusions on a new EU strategy”(英語)参照
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2018/12/10/india-council-adopts-conclusions-on-a-new-eu-strategy/
[4] “Deepening EU security cooperation with Asian partners: council adopts conclusions” (英語)参照
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2018/05/28/deepening-eu-security-cooperation-with-asian-partners-council-adopts-conclusions/
ガリマ・モハン博士
ジャーマン・マーシャル基金アジアプログラムのフェロー。ベルリンを拠点に、欧州のアジア政策、インドの外交・安全保障政策、インド太平洋における海上安全保障を研究している。EUのアジア太平洋問題に関する政策立案者をサポートするアジア太平洋研究助言ネットワーク(APRAN)にてチームリーダー代理兼コーディネーター、ベルリンのグローバル公共政策研究所にて国際秩序プログラムのリーダーを務めた経験を持つ。