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【経済学者による緊急提言】新型コロナウイルス対策をどのように進めるか? ―株価対策、生活支援の給付・融資、社会のオンライン化による感染抑止―
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【経済学者による緊急提言】新型コロナウイルス対策をどのように進めるか? ―株価対策、生活支援の給付・融資、社会のオンライン化による感染抑止―

March 17, 2020

<発起人>
            小林慶一郎
佐藤主光

<賛同者(五十音順・2020年4月12日現在)>

青木玲子 / 井伊雅子*1, 3 / 池尾和人*5  / 伊藤元重 / 乾友彦 / 岩井克*8 / 大垣昌夫*5 / 大津敬介 / 崎哲二*5 /  小川 一夫 / 奥野正寛*5 /  小黒一正*5 /  小塩隆士 / 嘉治佐保子/ 神谷和也 / 川口大司 / 木村福成 / 清滝信宏 / 工藤教孝*1, 5 /  グレーヴァ香子/ 黒田祥子 / 小峰隆夫*5   小西秀男 / 西條辰義  / 齊藤誠*5, 8 / 佐藤泰裕 / 清水順子 / 瀬古美喜 / 田近栄治 / 田渕隆俊 / 釣雅雄*3, 5 /土居丈朗 / 八田達夫*5, 9 / 原田喜美枝*5 / 星岳雄 / 松山公紀 /三浦功 / 三重野文晴*1, 3, 4/ 三野和雄 / 宮川努*5  桃田朗*5 / 森信茂樹*5 / 家森信善*5 / 渡辺智之

*1 提言1を除く
*3 提言3を除く
*4 提言4を除く
*5 提言5を除く
*8 提言8を除く
*9 序文を除く  

賛同者からのコメントはこちら

緊急提言の本文(全文)はこちら

[2020 年3月 18 日更新]

現状

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている。国内の感染者は202031418時現在において777人(クルーズ船乗客・乗務員の感染者を除く)を越え、死者は22人(同前)に達した。検査体制が整っていないことから実際の感染者は更に多いことが見込まれる。世界保健機関(WHO)は311日、新型コロナウイルス感染拡大は「パンデミック(世界的な大流行)」に相当すると表明した。新型コロナウイルスは国内外の経済の先行きも不透明にしている。感染拡大を抑制するために、小中高等学校の休校、スポーツや芸能文化関連の大規模イベントの自粛、テーマパーク等の休業など様々な社会的な活動が停止または縮小させられ、急激な消費の落ち込みによる景気の後退が深刻化している。株式市場では日経平均株価が暴落し、昨年12月末から313日までの間に約3割も下落した。日本銀行は316日、各国の中央銀行と足並みをそろえる形で上場投資信託(ETF)の買い入れを倍増させるなど追加の金融緩和と決定したが、当日の日経平均株価は終値で430円近く値下がりした。政府は「雇用調整助成金」の特例措置や無利子の貸付、休業に対する助成金など家計や企業への支援を拡充してきた。景気を底支えするべく、消費税の減税や超大型(15兆円~20兆円規模)の財政出動を求める議論もある。総理は「機動的に必要かつ十分な経済対策を間髪入れずに講じる」とした。

「今、そこにある危機」(=パンデミック)に対してあらゆる政策手段を総動員しなければならない。合わせて医療提供体制を含めて現行の制度や規制を見直すことで、新型コロナウイルスに対する経済・社会の強靭性を強化する。今、我々の叡智が問われている。 

経済政策の原則

新型コロナウイルス感染症に対する経済政策的な対応について、いま求められる基本的な原則は「1.感染拡大の抑止」と「2.短期的な経済的インパクト(所得の減少と流動性の不足)の軽減」と「3.長期的な産業構造変化の促進」である。

その第一義的な目的は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対して耐性の強い社会を作ることである。二つ目の目的は経済の安定化だが、ここで我々が強調したい点は、消費や投資を無差別に刺激する景気対策を目的とはしない、ということである。人と人との接触を促す種類の消費や投資が増えれば、新型コロナウイルスの感染拡大のリスクが高まる。それではまったく本末転倒である。感染拡大の抑止が最優先であり、景気は二番目の目的である。つまり、感染拡大を助長しないタイプの消費や投資までもができなくなるような事態(感染を抑止する上で不必要な経済の収縮)を避けることが二つ目の目的である。

本文の8つの提言はおおむね着手すべき時間的順序に沿って掲げてあるが、ここではそれらを政策の原則に沿って整理する。

1.感染拡大の抑止

まず、短期的な感染抑止の課題として医療のデジタル化がある(提言1)。感染リスクのある対面の診療を減らし、オンラインの遠隔診療を増やせるよう早急に制度整備をする必要がある。新型コロナはこれから数年あるいは恒久的に人間社会を脅かし続ける存在になる可能性が高い。経済社会を構造的に変えて、長期的に感染を抑止できる社会にすることが必要である。そのためには経済活動をはじめ人間の社会的活動のあらゆる面でデジタル化を進展させることが求められる(提言2)。さらに、これから長期的に、新型コロナ感染症の流行状況を常時モニターしエビデンスにもとづいた対策を立てられるよう、検査体制を充実することが必要である(提言3)。

さらに、この数週間、政府が国民に経済活動の自粛や学校の休校などの甚大なコストを負担させて新型コロナ感染症の流行を遅らせようとした理由は、時間を稼いでいる間に医療提供体制の能力を増強し、今後の死亡者数を減らすためである、というのが政府の説明(約束)であった。医療提供体制の拡充にあたっては、一時的な必要のために恒久的に病床を増加させるような非効率は避けるべきである。感染者の8割と言われる軽症者・無症状感染者は高度な治療を必要としないのであるから、彼らの入院施設は設備の整った病院である必要はない。全国各地で旅館・ホテルを政府が臨時に借り上げ、軽症・無症状者を隔離するための入院施設とすれば旅館・ホテル業界に対する強力な支援策ともなり一石二鳥である(提言4)。

2.経済的インパクトの軽減

外出やイベントの自粛などによって経済活動が停止し、多くの人が所得の急減や手元資金(流動性)の枯渇に直面している。経済活動の停滞が株価暴落を引き起こし、それがさらなる経済活動の停滞を引き起こすという悪循環が発生しつつある。

悪循環のもっとも大きな動因は株式市場の混乱である。株価の暴落が長期化すれば、金融システム全体の危機につながりかねない。経済全体への波及を防ぐために日本銀行などによる株価の下支えは正当化される(提言5)。株価下落の原因が市場参加者の投機行動ではなく、まったく市場と無関係な感染症であることも、公的資金による株価対策を道義的に正当化する。市場の信頼(コンフィデンス)を回復するために、政策当局が100兆円程度の介入上限額を表明すればメッセージ性は高い。

家計への支援として消費税の減税を主張する向きがある。しかし、緊急時において重視すべきは(不要不急なものを含む)消費への補助ではなく、最低限の生活が確保できるような収入への支援であろう。家計の所得の急減を補償するためには選択的な現金給付が望ましい(提言6)。しかし、緊急時には、現金給付の必要な家計とそうでない家計を政策当局が見分けることは困難である。また、所得の急減が一時的であれば、必要な支援は現金を贈与することではなく、一時的に現金を融通すること(流動性不足を融資で解消すること)である。そのためには家計に無差別・無条件の公的緊急融資を行うことが適切である(提言7)。事後的に生涯所得の少ない人は返済減免するルールにすれば、緊急融資は公正な現金給付に近いものになる。

3.長期的な産業構造変化の促進

新型コロナウイルス感染症は、これから非常に長期的に人間社会を脅かし続ける感染症として定着する可能性が高い。その場合、観光、外食、レジャーなど多くの産業で需要のレベルが恒久的に低下する。一方、マスクや消毒薬、オンラインの会議サービスなど、需要が激増するセクターもある。大きく急速な産業構造変化が起きると予想されるが、それには企業の退出(廃業、倒産)と新規参入による新陳代謝が不可欠である。いま新型コロナ問題で急激な業績悪化に苦しむ中小企業を支援すべきことは言うまでもないが、それとともに適正なスピードでの企業の新陳代謝を促す政策も組み合わせることが必要である(提言8)。合わせて、経済対策として掲げるデジタル化の促進(提言2)でもって生産性を高め、持続的な成長に繋げる。

 

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