久保文明+松岡泰+西山隆行+東京財団「現代アメリカ」プロジェクト編著(NTT出版、2012年10月)
東京財団 「現代アメリカ」 プロジェクトは、このたび研究成果の一つとして標記の書籍を刊行しました。11月6日に迫った2012年大統領選挙においても、オバマ大統領、ロムニー前マサチューセッツ州知事の両陣営は、ヒスパニックを中心とするマイノリティの意向に配慮しながら選挙戦を戦うなど、アメリカ政治におけるマイノリティの存在は重要性を増しています。
2010年の国勢調査では、アメリカのマイノリティは全人口の36パーセント、2050年にはマイノリティが50パーセントを超えると予想されています。そこで、当プロジェクトでは世界最大の移民国家であるアメリカで近年増加を続けるマイノリティが、アメリカ政治をどのように変えてきたかを分析し、アメリカ社会の将来像を展望しようという問題意識から研究を行い、書籍として成果をまとめました。
本書は、アメリカ移民政策の変遷と現状、マイノリティの社会統合、マイノリティと社会福祉政策といった三つの柱を中心に、アメリカ社会が抱えるマイノリティの問題を多角的に論じています。それぞれ興味深い研究ですが、とりわけ黒人社会の多元化の現実は日本ではほとんど知られておらず、アメリカにおけるマイノリティ問題を理解する上で重要な視点を提供してくれます。
さらに、そもそも移民国家として成立したアメリカが、深刻なアイデンティティの危機を迎えている現状は、ハンチントンが「分断されるアメリカ」で指摘しているとおりです。一方、日本は社会の成り立ちからして異なりますが、近年、産業界を中心に移民受け入れの議論が行われるようになりました。日本がこうした移民政策を考える際にも、本書は、貴重な情報と示唆を与えてくれると確信します。
( 片山正一 研究員兼政策プロデューサー)