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サイモン・ローゼンバーグ氏を迎えての研究会(2009年12月4日)

February 9, 2010

2009年12月4日に、NDN会長のSimon Rosenberg氏を迎えて、現在のアメリカの政治環境に生じている二つの巨大な変化と、今後の民主党と共和党の戦略についての報告をしていただきました。ローゼンバーグ氏は、アメリカ民主党系シンクタンクNDNの会長を務めており、NDNはとくにヒスパニック政策とメディア戦略に特化したシンクタンクとして知られています。

1.現代アメリカ政治をとりまく環境に生じている巨大な変化

1-1 メディアの変化

1980年には5000万のアメリカ人が、3大ネットワーク(ABC, CBS, NBC)のニュースを視聴していた。2005年には、ケーブルテレビの契約者数の増加に呼応するように、3大ネットワークの視聴者数は2700万人にまで低下している。

さらに今日では、60%の家庭にデジタル・ビデオ・レコーダーがあり、テレビ番組は一度記録されてから視聴されることが普通になってきており、CMはスキップされるようになってきている。多チャンネル化がすすみ、さらにレコーダーの発達によって、CMによって政治的メッセージを有権者に届けることが、難しい時代になっているのである。

新聞の購読者数も減少の一途をたどっており、今日では約3000万人が購読しているにすぎない。3大ネットワークも、紙媒体の新聞も、人口の10%程度しかカバーしていないのである。

テレビやラジオのような「古いメディア」にかわって台頭してきているのが、インターネット上の「新しいメディア」である。2006年にはYoutube上で1日あたり1億もの動画が視聴されていたし、Googleが稼いだ広告費はCBSを上回っていた。

ブログの影響力も増大しており、2009年にはリベラル系のブログ・メディアであるThe Huffington Postの読者数がNew York Timesの購読者を上回っていた。2009年には、Twitterも「新しいメディア」として急速に成長している。人々は自宅のPCから、あるいは携帯電話からこれらのインターネット上の「新しいメディア」にアクセスするようになっている。

メディアのテクノロジーの発達は、人々の毎日のコミュニケーションの様態を変化させるだけではなく、有権者と政治の関係も変化させる。「新しいメディア」によって、人々は自由に情報を発信し、つながりを作るようになっている。人々の中に多数派を作り上げることが政治と選挙の核であるのだから、政治家はこのような新しい状況に対応しなければならない。

1-2 有権者の変化:Millennial Generation(2000年世代)とヒスパニック系

Millennial Generation

アメリカの有権者には、二つの大きな変化が生じている。一つは、2000年世代と呼ばれる新しい世代の登場であり、もう一つはヒスパニック系の人々の増加である。

2000年世代とは、1982年から2003年に生まれた世代を指し、2010年では7才から28才であり、およそ半数程度が既に有権者となっている。アメリカの世代を概観しておくと、1901年から1924年に生まれたGI Generation、1925年から1942年に生まれたSilent Generation、1943年から1960年に生まれたBaby Boomers、1961年から1981年に生まれたGeneration Xがおり、MillennialsはBaby Boomersの子供が形成する世代である。

Millennialsは、人種的に最も多様な世代である。アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系は、Baby BoomersとGeneration Xでは25%程度だったが、Millennialsでは40%を占めている。

Millennialsは、政治に対する態度において、一つ前の世代であるGeneration Xと際だって異なっている。Millennialは、Generation Xが共通して持っていた政治に対するシニシズムを共有していない。

2006年のハーバード大学の調査によると、Millennial世代の71%が「政治は自分の生活に何の関係もない」という考えに反対し、84%が「誰が大統領であっても大して違いはない」という考えに反対した。さらに、59%が「政治に参加することは何も結果をもたらさない」という考え方を否定したのである。

政党帰属意識の傾向も異なっている。Generation Xの55%が共和党に、33%が民主党に帰属意識を持っているのに対して、Millennialsでは35%が共和党に、50%が民主党に政党帰属意識を抱いており、その傾向は逆転している。

また、Millennialsは、政策についてもリベラルな傾向を持つ。例えば、2004年のNESの調査によれば、94%が「貧富の格差の増大は悪いことである」と答えている。この数値は、他のどの世代よりも高い。

再配分以外の政策分野についてもMillennialsはリベラルな傾向を示す。2005年のGallupでは、58%が「経済発展を減退させるリスクをとってでも、環境保護を進めるべきだ」と答えている。

Millennialsは、ジェンダー、人種、性的な傾向について、どの世代よりも寛容である。2007年のPewの調査によれば、世論全体では37%が同性婚に賛成している中で、Millennialsでは56%が同性婚に賛成している。この世代のもう一つの特徴は、上述した「新しいメディア」とともに育った最初の世代であるということである。

ヒスパニック系

ヒスパニック系の人々は、伝統的には、マイノリティからの支持を集めるのを得意とする民主党を支持してきた。それにもかかわらず、1996年から2004年の間に、共和党の大統領候補はヒスパニック系からの支持を伸ばすことに成功した。

1996年には共和党大統領候補ボブ・ドールはヒスパニック系の20%の票しか集めることができなかったが、2004年にはジョージ・W・ブッシュは40%の票を集めたのである。共和党は、フロリダ州知事であったジェブ・P・ブッシュらによる努力によって、ヒスパニック系の人々の心をつかみ、固い支持基盤にすることに成功しつつあるように思われた。

しかしながら、共和党とヒスパニック系の有権者との関係は2006年に決定的に悪化した。共和党は、2006年に移民法の改正を試みたのである。この政策は、メキシコとの国境におけるフェンスの設置、不法移民のみならず使用者やブローカーへの処罰、不法滞在を民事法違反ではなく刑事法違反として扱うなど、移民に厳しい内容であった。

これ以降、ヒスパニック系の人々は共和党を見限った。彼らは、2004年の下院議員選挙では55%しか民主党に票を投じていなかったが、2006年の中間選挙では、70%が民主党に票を投じた。連邦レベルでのヒスパニック系有権者の支持の変化が生じたのである。

この変化を州ごとに見るならば、ヒスパニック系の有権者の占める割合はカリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州やテキサス州といった国境沿いの州において年々増加している。カリフォルニア州は大統領選挙において民主党の牙城であるが、アリゾナ州やテキサス州は長く共和党の地盤である。このような州において、民主党を支持するヒスパニック系有権者が増加することは、連邦レベルでの再編成を引き起こす可能性がある。

2.今後のありうべき戦略

2-1 民主党

2008年の大統領選挙において、オバマ大統領は、Millenialsとヒスパニック系という、これから増大していく有権者層からの支持を獲得することに成功した。今後の政権運営では、これらの新しい層を民主党の固い地盤としていく必要がある。移民政策の見直しが、ヒスパニック系有権者の心をつかむために必要である。

また、従来の民主党支持者からの支持を失ってもいけない。2009年末の世論調査では、民主党支持者の過半数が、一年目のオバマ政権は大企業と銀行の味方であったと評価した。オバマ政権はすぐにでも、ミドルクラスのアメリカ人の味方であるという政策を全面に押し出す必要がある。

2-2 共和党

共和党を多数党に押し上げたのは、1960年代から続く南部戦略であった。南部戦略は、60年代の公民権法を代表とするようなリベラルな政策に反発した南部の白人有権者を、共和党が取り込もうとした戦略であった。南部の白人有権者は、1930年代から民主党を支えてきた強固な支持基盤であったため、南部をとるということは、連邦政治における民主党の優位を終わらせ、共和党が多数党となる道を切り開くことにつながった。

一般に、南部戦略は、「保守的なイデオロギーを持つ南部白人が民主党のリベラルな政策にうんざりしていたところに、保守的な政策をアピールするという共和党の戦略」と理解されている。共和党はあくまでも、南部白人の持つ保守的なイデオロギーに訴えたにすぎないと説明されることが多い。

ローゼンバーグ氏によれば、たしかに共和党は保守的なイデオロギーに訴えてきたのだが、その背後には、「不寛容の政治(Politics of intolerance)」をことさらに煽るという戦略が隠れている。

例えば、保守的なイデオロギーとして真っ先に思い出されるのは「小さな政府」の主張であるが、これは「政府が市場や市民社会にできるだけ介入しない方がよい」ということ以上の意味を持っている。「小さな政府」と比べて、「大きな政府」が得意とするのは富の再配分である。この再配分を「白人から黒人への富の移転」であると受け取る人々が南部にはおり、共和党が目をつけたのはそのような人々の持つ「不寛容さ」であった。

ここで注意すべき点は、共和党は人種差別に基づいたアピールをしてきたわけではないということである。1964年に公民権法が成立して40年以上がたった現在では、「人種差別的だ」というレッテルを貼られることは政治家にとって、その政治生命の終わりを意味している。共和党はあくまでも「小さな政府」を主張してきたのである。

しかし、「小さな政府」という言葉の裏側には、「不寛容な政治」というメッセージが隠れており、南部の人々にはそのような隠れたメッセージを受け取る能力がある。共和党は「不寛容の政治」によって80年代に多数党となったが、この不寛容さが今後の共和党のとるべき戦略の幅を狭めているとローゼンバーグ氏は主張している。

<質疑応答>

Q. なぜ共和党は2005年から2006年にかけて、ヒスパニック政策を転換したのか?

A. 2006年の中間選挙を前にして、共和党はイラク戦争と経済政策のいずれにおいても行き詰まっていた。そもそも不法移民政策は、共和党にとって重要性が高い問題ではなかったが、選挙で戦うための争点が必要であり、共和党指導部は移民政策を選択した。

不法移民に対して厳しい対策を求めていたのは共和党保守派の少数の人々であった。そのような人々はトーク・ラジオを好んで聴き、彼らの中には、自前の装備をもってメキシコ国境に行き不法移民を見張るという運動をしている者もいる。そのような人々が支持する移民政策を、共和党は選んだ。

結局、2006年には移民法の改正は実現しなかったが、下院では法案が通過した。その中には、不法移民の子供にはアメリカの市民権を与えないという項目が入っていた。アメリカでは不法移民の子供であってもアメリカで誕生していればアメリカ市民となる権利があるが、共和党は法改正によってこの道を閉ざそうとした。

ヒスパニック系の人々は共和党が自分たちを憎んでいるのだと受け取り、怒り、各地でデモを組織した。共和党のヒスパニック政策の転換は、イラク戦争と経済政策に失敗していた共和党が、さらに失敗を積み重ねたのだといえる。

■報告:梅川 健(東京大学法学政治学研究科博士課程)

    • 東京都立大学法学部教授
    • 梅川 健
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