2010年7月5日に研究会が開催され、プロジェクトメンバーである細野豊樹氏(共立女子大学)、菅原和行氏(釧路公立大学)、中山俊宏氏(青山学院大学)によって、2010年アメリカ中間選挙について、オバマ政権における政治任用の状況について、ティー・パーティー運動についての報告がありました。
第一報告 細野豊樹氏 「2010年アメリカ中間選挙の動向」
オバマ政権下で初めての中間選挙が、2010年11月に実施される。7月現在では、民主党は上院・下院および知事選ともに苦戦が予想されている。逆風が特に強いのが下院であり、例えばある共和党コンサルタントは、共和党が少なくとも30議席以上増やすと予想し、カール・ローヴ(ブッシュ前大統領の選挙参謀)の情勢分析はさらに強気である。
民主党への逆風の原因として、支持政党無し層の民主党離れ、政府による経済への介入に対しての各論では賛成するものの総論では反対するという世論の構造、オバマ大統領の支持率の低下、加えて民主党に追い打ちをかけるような共和党支持層の盛り上がりとティー・パーティー運動を挙げることができる。
第二報告 菅原和行氏 「オバマ政権における政治任用の状況」
アメリカでは政権が変わるごとに、執政部門を中心にして3500もの高級官職が入れ替わる。オバマ政権では、大統領による指名は迅速に行われたものの、上院での承認過程では遅れが目立っている。政権発足から1年半経過した2010年7月の段階で、上院の承認が必要用な最重要のポストのうち、77%が埋まっているにすぎない。
承認プロセスが長期化した要因として、上院の共和党議員による承認手続きの妨害があげられる。現在、共和党は、「ホールド」という手法によって承認手続きを停止させている。これは、上院議員が多数党院内総務に対して事前に法案審議や承認手続きの中断を申請し、認められた場合には多数党院内総務が認めた期間もしくは議員本人が解除するまでの間、当該案件を中断させることができるという非公式な慣習である。共和党議員は、この「ホールド」を人事承認プロセスに対して濫用していると批判されている。
第三報告 中山俊宏氏 「オバマに抗する人たち-ティー・パーティー運動の思想と行動」
ティー・パーティー運動は、保守派の草の根運動だと言われているが、輪郭を捉えにくい運動である。その捉えにくさの原因は、ティー・パーティー運動が、中心のないネットワークであるという特徴にある。たしかに、ティー・パーティー運動にも、いくつかの大きな団体が存在しているが、そのどこかが頂上団体として運動を指揮しているという構図はない。ティー・パーティー運動に関連して名前のよくあがるディック・アーミー、ジム・デミントあるいはサラ・ペイリンであっても、運動の中心人物となっているわけではない。
運動に加わる人々の掲げる保守主義は、連邦政府の肥大化への抗議、合衆国憲法修正第十条を厳格に適用することで州の権利を守ろうとする州権論、自主自立をモットーとして掲げ、リバタリアニズムとの親和性を示している。ただし、共和党の保守派を構成する社会的保守派とは距離を保っている。
今後、ティー・パーティー運動が選挙を越えて生き残り、影響力を拡大させていくためには、単なる抵抗運動から脱して、政治のヴィジョンを打ち出すことができるのか、また、運動に加わっている極端な考えをもった人々を排除していくことができるかにかかっている。いまのところ中間選挙を超えて影響力を持ち続けるかどうかは定かではない。
<質疑応答>
Q. オバマ政権は近頃、移民問題の解決を主要なアジェンダとするようになっているが、移民問題は、中間選挙あるいはティー・パーティー運動にとってどのようなインパクトがあると思われるか?
A. 支持政党なし層の人たちは、移民政策については共和党に近く、移民に対して厳格な取り締まりを求める態度をとる。ティー・パーティー運動については、運動が経済的転落を恐れる人々の集まりだとすれば、寛大な移民政策とは相容れないだろう。ただし、不法移民は南西部の州の社会問題なので、他の州では実感がわかない有権者も少なくないはずという面もある。
A. ティー・パーティー運動の人々は、不法移民を厳格に取り締まるべきだと考えている。その中には極端な人々もいる。ただし、今のところティー・パーティー運動は、politically incorrectにならないように注意して主張をしているように見えるが、極めて危うい。
Q. オバマ政権は下級審ではリベラル派以外にも、穏健派あるいは保守派も任命していると言われているが、なぜそのような人事を行っているのか?
A. オバマ政権の方針として超党派的な裁判官人事を行っているが、これには党派やイデオロギーの違いを超えて適確な人材を登用しようという意図ばかりでなく、共和党との明確な対立を回避しようという、現実からの要請も垣間見られる。
Q. オバマ政権は金融規制にのりだしているが、選挙のために反ウォール街の世論を利用する可能性はどの程度あるのか?
A. 世論には、反ウォール街の動きがあり、この人々は票として掘り起こせる可能性がある。支持率だけを考えると短期的な利得はあるが、オバマは長期的にアメリカの運営を考えており、経済の中心たるウォール街たたきに乗り出すとは思えない。
Q. 90年代のペロー、60年代のジョン・バーチ・ソサエティといった反エスタブリッシュメント運動と、ティー・パーティー運動はどのような関係にあるのか?
A. ペローは、共和党外の運動だったが、ティー・パーティー運動はなんだかんだいっても共和党内勢力だ。また、60年代の右派と比較すると極端な内政志向という点で異なっている。ティー・パーティー運動は純粋な反知性主義としか形容しようがない。なにに反対しているのかもよくわからず、「大きな政府」という名詞と格闘しているようにみえる。しかし、それでも無視できない勢力であることだけは確かだ。
■報告:梅川健(東京大学法学政治学研究科博士課程)