中間選挙まで2週間を切った今、一時期は上院での多数派確保が難しいといわれていた民主党が「一気に、盛り返している」という報道が多くなっている。つい1カ月ほど前には、共和党の地滑り的勝利が伝えられていたことを考えると、キツネにつままれたような気がするのが本音である。
民主党の「盛り返し」3つの理由
民主党の“逆襲”の根拠には次のような3つの理由が挙げられている。
まず第1の理由は、優勢だった上院選挙区のいくつかで共和党以外の保守系候補が台頭しつつあり、共和党候補が割を食うのではないか、という見方である。サウスダコタ州がこの典型的な例である。かつては共和党に所属し1970年代後半から20年以上も下院・上院議員を務めたプレッスラーが無党派候補で返り咲きを狙っており、共和党候補で前同州知事のラウンズ候補から保守派の票を切り崩しつつある。圧倒的に不利だった民主党のウエイランド候補の勝機も出てきた。
同様に、ノースカロライナ州でも全く無名のリバタリアン候補が最近の世論調査では共和党候補から5から7%の支持を奪い、劣勢だった民主党のヘーガン候補を後押しする結果を生み出している *1 。ちょうどカンザス州選挙におけるオーマンの大躍進によって、無党派候補の動向に大きな注目が集まる中、共和党の勢いがとまっているようにもみえないではない。
民主党が復権しているようにみえる第2の理由は、10月に入ったころから、過去の世論調査データを再検討する報道が増えており、その中で、1)2004年以降の上院議員選挙のほとんどでは、民主党候補は、世論調査から予想される数字より実際には多くの票を奪っている(共和党への肯定的バイアス)、2)そもそも世論調査データは外れることが多い(データは当たらない)、という2つの数字が何回か報じられるようになっている *2 。ただ、いずれの現象も原因については不確かなままではある。
民主党“逆襲”の第3の理由にして、おそらく最大の理由は、中間選挙が近くなるにつれて、優勢な方を批判し、劣勢な方を応援しようとする、アメリカのマスメディアの傾向がある気がしてならない。この「メディアの方程式」(メディア・スキーム)は、一言でいえば中間選挙を楽しく報じるための「競馬予想」である。「競馬予想」には「本命」や「負け馬」「ダークホース」が不可欠であり、「本命」には厳しく、「負け馬」には比較的寛容で、「ダークホース」には特に優しい。この「メディアの方程式」はハーバード大学のトマス・パターソン教授らが主に大統領選挙の予備選挙にあてはまるものとして、繰り返し唱えてきたが、今回の中間選挙での無党派候補という「ダークホース」への注目は、方程式どおりといえるかもしれない。
民主党候補者の迷走
しかし、上述の民主党の「盛り返し」についての3つの理由はあっても、民主党や同党候補者そのものに対する求心力が戻っているかどうかというと、大きく首をかしげざるを得ない。
何といっても不可解なのが、上院の各激戦州における民主党候補者の戦略の迷走が目立っている点である。特に、支持率が芳しくないオバマ大統領に対して各候補がこぞって批判を展開しているのは、滑稽にすらみえる。話題となっているケンタッキー州のグライムス候補の選挙CMでは、同候補がライフルを豪快に打ち放ち、「私はオバマとは異なる(“I’m not Obama”)」いう最後の決め台詞を残す。ただ、この身内からの造反には、あまりにも突っ込みどころが多い。「これまで2回の大統領選挙にだれを投票したか」という記者からの質問にグライムス候補はプライバシーを理由に黙秘し続けており、共和党の現職・マコーネル陣営に絶好の攻撃材料を提供してしまっている。
オバマ批判は他の州の民主党候補でも“逆噴射”している。ルイジアナ州のランドリュー候補は同州の石油産業を代弁し、「代替エネルギー政策を重視するオバマ政権のエネルギー政策は間違っている」というオバマ批判を大々的に展開したが、支持率は伸びなかった。ランドリュー候補陣営は、結局、選挙戦の終盤でキャンペーンマネージャーを更迭することになり、選挙戦のテコ入れを急いでいる。
そもそも、各種世論調査ではオバマ大統領の支持率は40%半ばで低迷しているとしても、政治的分極化もあって、いまだに民主党支持者からは8割近い支持を維持している。「オバマたたき」ではコアの支持層の離反を招きかねない。リベラル派に極端に加担することで知られているテレビキャスター、レイチェル・マドウは民主党候補者のオバマ政権に対する批判を「非常におかしな戦略」とし、自分の名を付けた冠番組で連日、オバマ大統領の功績を讃える内容の特集を組んでおり、迷走する民主党内を象徴するような印象すら受ける。
選挙戦術の「情報集めの場」になり下がったインターネット
予備選挙の低い投票率から、投票率が史上最低になるという予想もある今回の中間選挙では、民主党にとっても、共和党にとっても、支持基盤動員が大きな鍵である。まずは投票所に潜在的な支持者を向かわせるのが最大のポイントとなっているために、1)インターネットでのソーシャルメディアの情報を含めたいわゆるビックデータを徹底的に分析し、2)潜在的な支持者を割り出し、3)データを使ってボランティアが説得を続けるという2012年選挙からの手法が完全に定着している。説得については、民主党なら「格差が拡大するのは共和党のせい」「共和党は女性の敵」などといった脅し文句が計量的に有効である。共和党側なら「イスラム国とエボラ出血熱を止められないのは民主党のせい」「株価の急降下はオバマが悪い」が支持基盤動員の現場での説得材料だ。
筆者も研究目的で所属しているアメリカ政治コンサルタント協会関連所属の選挙産業からは、非常に胡散臭いものを含めて、インターネットを介した選挙データ分析や活用のPR広告が送られてくる量がこの半年で大きく増えた。インターネットは、政治的な意見をめぐって有権者が能動的につながっていくような有機的な場というよりも、政党や候補者にとって有利な道具を集め、選挙戦術に利用する場としての色彩がますます強くなっている。
「メディアの方程式」と民主党候補者の迷走の影に、2014年選挙は、おそらく選挙戦術の「情報集めの場」としてのインターネットがさらに徹底的に活用されるようになってしまった選挙として、記憶されていくのかもしれない。
===========================================
*1 : 上院議員選挙ではないがフロリダ州の州知事選でもリバタリアン候補が急伸し、民主党候補を押し上げている。
*2 : たとえば、Sam Wang, “No, Republicans Aren't Guaranteed to Win the Senate. Here's Why” New Republic” , October 15, 2014
■前嶋和弘 上智大学教授