「2030 日本の中の中国―日本の中の新華僑、華人社会―」
段躍中(日本僑報社編集長・日本湖南人会会長)
概要
10年以上に渡り、民間の日中交流に尽力している在日ジャーナリスト・段躍中氏が「日本の中の新華僑、華人社会」というテーマで発表。在日中国人の活動の報告の他、今後の日中交流のあり方を提言した。具体的には、これまでの在日中国人社会の変遷とともに、日中交流の実践家として行ってきた日中交流を発表し、日本人留学生と中国人留学生のネットワークの構築の提言など、尖閣諸島問題や反日デモといった日中関係が冷却化する際にも耐えうる民間レベルで顔の見える交流を継続させていく重要性を述べた。
発表の後の質疑応答では、どのようにすれば日本と中国の民間、政府レベルの交流が推進され、良好な関係が築けるのかを中心に、活発な意見交換がなされた。
発表内容
(1) 在日外国人のトップに躍り出た中国人
(2) 教育、経営、出版における在日中国人(新華僑)の活躍
(3) 日中交流推進に向けての提言
(1)在日外国人のトップに躍り出た中国人
2009年12月の時点で、外国人登録をした在日中国人は68万518人に達し(法務省調べ)、3年連続して在日外国人社会のトップになる。戦前来日した人を、華僑、老華僑と言う。日中国交回復以降に来日した人を、新華僑と言い、日本国籍を持つ人を華人と言う。
(2)教育、経営、出版における在日中国人(新華僑)の活躍
新華僑の実力が強まっている。80年代の初め頃、中国から日本への留学が始まり、現在では12万人の中国人留学生が日本にいる。新華僑の活躍は主に4つの特徴が挙げられる。
1)大学・研究機関での活躍
・現在約6000人の中国人が博士学位を取得。取得後、日本の各大学で教える他、政府や民間の研究機関に勤めている。
・在日中国人の日本語著書も増え、政治・経済・社会・文化の他、小説・詩集も出版。芥川賞受賞の楊逸さんが目に新しい。
2)IT産業での活躍
・在日中国人は日本で3000社以上の会社を起業。その中でもIT産業が盛んである。老華僑は横浜中華街などで飲食業を営んでいる者が多く、新華僑との違い。
3)多くの新聞出版活動を行っている
・88年から20数年間で200を超すタイトルで出版。
・95%は中国語での出版だが、中国政府を批判する本も出てきている。
4)在日中国人団体は任意団体からNPO法人へ転換
90年代後半に出来た在日中国人の団体のほとんどが任意団体。主なものは、専門分野による団体、地縁、血縁によるもの、中国人留学生の学友会等。しかし10年程度の運営を経て、徐々に法人化に転換している団体も出現している。
(3)日中交流推進に向けての提言
民間レベルの「顔の見える交流」に重点を置く段氏から、日本と中国の関係について、華僑パワーを活かす日中交流推進の必要性が提言された。政治に関わる人脈を持つ在日中国人は多く、在日中国人と友好関係を深めそのパワーを活かす余地は十分にある。提言の具体的な内容は以下の3点。
提言1:観光振興課長に中国人を任命する
現在中国人の観光客は100、200万人程である。しかし、中国人の経済を考えれば、1000万人の観光客を迎えてもおかしくない。一度来日すると、親日になるケースが多いことからも、積極的に在日中国人の観光課長を登用すれば、より多くの観光客を誘致できるはずである。
提言2:日本国籍を取得した華人に政界進出をしてもらう
政界進出が少ないのは、在日中国人が学問や商売に力点を置き、政治活動には消極的な表れ。華人の政界進出を応援し、華人の人脈を上手く活用するべきだ。
提言3:「日語角」「漢語角」の普及
・漢語角とは、日本における中国語の交流サークル、日語角とは、中国における日本語サークルである。現在日本で4か所の漢語角がある。中国では12か所の日語角がある。日本で100カ所の漢語角、中国で1000か所の日語角の設立が望まれる。この運営によって、お互いの素顔を見ること可能となり、信頼関係が築きやすくなる。このような民間交流こそが、日中交流の輪を広げるものになる。
・また、日本僑報社が主催する中国人の日本語作文コンクールは、今年で6年目になり、日中交流促進に役立てられている。
質疑応答・議論の内容
・尖閣諸島や反日デモに対する在日中国人社会での反応は。政治的対立は在日中国人の間に存在しているのか。
・日本国籍を取得した華人の参政について。
・留日組を支援する必要性について。
・観光推進のために、改善すべきこと、また積極的に促進することは何か。
・在日中国人の県人会はどのような活動をしているのか(主に日本湖南人会)。
・在日中国人のブログは大陸にいる中国人の読者を獲得しているのか。
・中国大使館と在日中国人の関わり合いはどのようであるか。
作成:植村茜(学習院大学大学院政治学研究科)