東京財団は2013年度から、日露の戦略的な関係構築を目指すセカンドトラックでの対話の場として、ロシアの有力シンクタンク「ロシア外交問題評議会(Russia International Affairs Council : RIAC)」との定期対話を実施している。本文書は、今年3月と11月にモスクワと東京で実施された対話会合を受けて、変化の激しい東アジア地域の戦略環境を踏まえ、あらゆるレベルにおける日露対話の深化と発展の重要性について、RIACと共同で発表するものである。
【共同文書】東アジア地域における安定的な戦略環境の構築に向けた
日露協力
中国を筆頭とする東アジア地域の経済発展には目覚ましいものがあり、この地域が21世紀の世界経済全体の発展にとって中心的な役割を担うことが確実視されている。
他方で、朝鮮半島の非核化に向けた6者協議が2008年12月を最後に開催のメドさえ立っていないことに加え、中国の急速な台頭とこれに呼応する形での米国のアジア回帰政策、領土問題や歴史問題の先鋭化、軍備拡張の兆しが見られるなど、東アジア地域では安全保障上のさまざまな不安定要素が生じているのも事実である。
そんな中、ロシアのウラジーミル.V. プーチン大統領が2012年5月に大統領職に返り咲くと同時に、極東・東シベリアの開発とその延長線上での東アジア地域への多角的な関与の方針を宣言した。
2012年12月に発足した日本の安倍晋三政権も、このような東アジア情勢の不安定化に対処すべく、積極的平和主義のスローガンを掲げて、安全保障会議の創設や日本政府として初めての国家安全保障戦略の策定など、一連の施策を実施している。
そして、ロシアによる東アジア地域へのより積極的な関与を歓迎すると共に、同地域におけるよりバランスのとれた戦略環境の構築を念頭に、日露間に横たわる積年の問題である領土問題の解決を伴う平和条約締結を含む日露関係の強化を目指し、2014年2月までに5回にわたる首脳会談を実施し、外交・防衛実務者協議(2+2)の枠組みを創設するなど、積極的な対話を重ねて来た。
このような日露両政府による関係強化の動きを後押しすべく、2013年11月、日本の東京財団(TKFD)とロシアのロシア国際問題評議会(RIAC)は、両国の外交安全保障問題の専門家、金融やエネルギー分野の実務家の間で戦略対話を行うトラック2の枠組みを立ち上げることで合意した。2014年3月26・27日に第一回会合をモスクワで、同年11月6・7日に第二回会合を東京で開催した。
この2回にわたる活発な議論の中で、2+2の枠組みでの戦略対話の深化、紛争防止や信頼醸成のメカニズムの創設、エネルギー分野を始めとする極東・東シベリアの開発や北極海航路の発展、勃興する中国について日露間で意見交換する意義など、日露間には安全保障・経済両面において、大きな協力関係の発展の可能性があることが確認された。
ところが、そんなタイミングで勃発した一連のウクライナ危機の急激な情勢悪化を受けて、米国とEUがロシアに対する経済制裁を課し、G7の結束を重視する観点から日本もこれに参加するに至り、2014年11月後半にも見込まれていたプーチン大統領の訪日が事実上、延期されるなど、日露関係の強化の流れに大きなブレーキが掛かり始めている。この状況は、東アジアの安定的な戦略環境の構築という共通の利害を有する日露双方にとって、非常に残念なことである。
他方、このような困難な状況にもかかわらず、日露とも両国関係を悪化させないとの共通の認識があり、また、日露が政府間並びに民間の交流・対話のチャネルを維持していることは極めて重要である。2014年10月25日、日本の海上自衛隊とロシアの太平洋艦隊がウラジオストック沖で海難捜査救助の共同演習を実施している。更に同年10月18日のミラノに続き、11月9日、北京のAPECサミットの機会を捉え、安倍首相とプーチン大統領が7回目の首脳会談を行った。また、民間企業レベルでの日露間のコンタクトも依然として続いている。我々はこれらの動きを強く支持する。
また、こういう状況だからこそ、本枠組みを含むトラック2レベルでの戦略対話の重要性は一層高まっている。日露両政府による積極的な活用が望まれる。
東京財団
ロシア外交問題評議会
関連リンク
ロシア外交問題評議会(Russia International Affairs Council : RIAC) 側で公開されているロシア語版共同文書はこちらよりご覧になれます。
http://russiancouncil.ru/inner/?id_4=4812#top