2月4日、大林尚 日本経済新聞社 編集委員兼論説委員より「日本経済新聞社がめざす年金制度改革とは?」と題する報告を受け,その後メンバーで議論を行った。
1. 第一次報告(2008年1月7日朝刊)
2007年8月の参議院選挙で衆参ねじれの状況。与野党協議の進展の核となるテーマとして年金制度の改革案を提案した。骨子は3つで、?保険料方式から税方式(消費税率5%増)への全面移行、?給付水準は現状維持(満額で6万6000円)、?制度安定への成長促進、である。税方式への転換は保険料からの置き換えであり、全体の負担に増減は生じない。むしろ国民年金の未納問題が無くなり、その結果として将来の無年金者を無くすことができる。また、現在の受給者に負担が発生することについては、世代間の格差の是正という観点から正当化できる。この他、移行期間については、旧制度に基づく保険料負担を給付に反映、3.7兆円の企業負担軽減分は非正規労働者の厚生年金への加入拡大に利用するなど、制度の持続性を確実にすることを狙いとした提案だった。
2. 第二次報告(2008年12月8日朝刊)へ:部分積立方式の導入
第一次報告への反響は大きく、読者の反応からは、現在の公的年金制度への信頼の低さや年金財政への不安、税方式への切り替えの賛意を得ることができた。一方で、企業負担軽減分のあり方や医療・介護等他の社会保障制度の財源との兼ね合いに関して批判もあった。もともと現行の年金制度は、受益と負担に関して世代間の格差が大きく、その是正のためには積立方式への以降が望ましい。しかし、完全積立方式を目指すと、積立不足分270兆円とそれに関わる二重の負担が問題となる。そこで現行の2階部分を2割程度削減(これに伴い保険料負担も軽減)すると同時に、部分積立を導入し、その原資に現行制度の企業負担分を充てるという案となった。また、1階部分は物価連動性の適用を復活させることで最低所得保障機能をもたせることにする。この改革の狙いは、現行制度では曖昧な1階と2階の役割を明確に分け、1階は消費税を財源とした最低保障の強化、2階は保険料を財源とした世代間格差の緩和に充てるという点にある。
3. 改革によるマクロの負担
未納者の負担増や物価連動性の適用などにより、研究会の暫定試算では、マクロベースで2023年時点で1.6兆円程度の負担増となる。これにより2005年生まれの人で、生涯給付と生涯負担の割合は、現行制度の5割強から6割弱まで改善する。この改革案に必要な消費税率引き上げは6.5%程度である(現行5%と合わせて11.5%へ)。最終的に許容できる消費税率を15%とすれば、3.5%を他の社会保障や債務返済に充てることができる。
この他、年金改革をサポートするためにも、長期的な経済成長戦略や出生率を高めるための対策、与野党が超党派で成案を得る努力が必要と考える。
4. 議論
・保険料を強制的に徴収できるのであれば、税方式への移行は必要ない。実際には未納問題が発生している。
・新制度への完全移行は40年後。消費税率はそこまでに徐々に引き上げていけばよい。
・移行期間中も国庫負担分の赤字は発生している。その対策は必要ではないか。
・低所得者対策を年金制度に組み込むのが欧州の潮流。税方式に完全移行すれば、高齢者の生活保護はいらなくなる。
・給付額を決めるインカムテストをどうするかは重要。カナダでは前年度所得だけであり、また資産はテストしない。
・最近問題になっている、3号被保険者の申請主義に関わる問題も、税方式にすることで解決することができる。保険料方式のまま専業主婦にも保険料負担を求めるのは現実的ではない。