第7回 環境変化に合わせた雇用のあり方
11月20日、柳川 範之 東京大学大学院 経済学研究科教授より「環境変化に合わせた雇用のあり方」と題する報告を受け,その後メンバーで議論を行った。
1. 労働市場の問題点
経済学で学ぶ最適資源配分は、経済成長・経済活性化の要ではあるが、簡単には達成できず、時間を通じて変化させていく必要がある。ITの進展により、産業構造の変化のスピードも加速しているが、日本はそもそも産業構造調整のスピードが遅い。人口動態の今後の変化も考慮すると、現状の社会保障水準や企業補収益構造を支えることは不可能である。この点については、若者・女性・高齢者・失業者等、十分に活用できていない人材を生かせいて、生産性を上げていくしかない。また、従来の産業構造調整は、各企業における人事異動や教育訓練によって行われてきたが、どんな大企業・有名企業でも「終身雇用」を保障することができない現状においては、中高年のリストらの不安を社会的にどう解消するのかが課題となる。理論的には、ラジアーモデルが、労働者のモラルハザードをコントロールできるとして、終身雇用・年功賃金・定年制の3点セットを正当化に使われてきたが、前提として1.企業側にモラルハザードがない、2.企業はつぶれない、という条件があり、これらは明らかに現実に成立していない。
2. 新しい働き方の提案:40歳定年制と再教育システムの構築
以上から、個別の企業に頼らず、かつ世界の変化に対応できるシステムの構築が必要となる。また、現状では、事実上、期限の定めのない雇用契約と継続5年以内の有期契約しか選択肢がないが、子育て・介護による仕事の中断からの復帰や、高齢者によるフルタイムでない働き方を可能にするような、多様な働き方が可能な社会にしていく必要があろう。そのための1つのアイディアが「期限の定めのない雇用契約については、20年の雇用契約とみなすことにする」という40歳定年制である。もちろん、40歳で強制的に契約を切るものではなく、多くの企業で雇用延長することを想定している。狙いは、デフォルトを20年とすることで、より多様な雇用形態を実現すると同時に、40歳前後を区切りとして、再教育をうける機会を国民に与えることにある。この再教育システムの構築は、40歳定年制に先立って行われるべきであり、大学・大学院の活用が期待される。大きな変革が必要ではあるが、代替案はないのではないか。現状を変えなければ、今の諸制度は維持できない。
文責:中本淳研究員