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【書評】「日米同盟というリアリズム」信田智人著

November 9, 2007

評者:黒崎輝(立教大学兼任講師)


今、日米同盟は大きな岐路に立っているのかもしれない。9.11同時多発テロ事件から北朝鮮核危機、イラク戦争を経て、小泉・ブッシュ時代に日米関係は戦後最良の時を迎えたといわれた。しかし、今年夏の参議院選挙の結果、「07年体制」とも称される新たな国内政治状況が現出し、インド洋上での給油活動の継続が大きな政治争点となっている。また、アメリカではイラク情勢の悪化で現政権への風当たりが強まるなか、来年秋に大統領選挙が行われる。果たして日米同盟はどこに向かっているのか、またどこに向かうべきなのか。未来を展望する前に立ち止まり、日米同盟の歴史を振り返ることに意味があるとするならば、本書の出版は極めてタイムリーである。

これまでも戦後日米関係の通史を描く試みはあった。しかし、複数の執筆者の手による共同作業であることが多く、単著は珍しい。この事実は、その知的作業がいかに困難かを暗示している。この難題に果敢に挑んだ著者は、アメリカ国際政治学の主要な理論――リアリズム、リベラリズム、コンストラクティヴィズム――の視点から戦後日米関係を大胆に読み解いていく。つまり、それらの理論によって戦後日米関係の潮流が説明されていく。ここに本書の最大の特色がある。ただ、その結果、8章からなる本書の構成をみると、占領期に2章、冷戦後の時代に4章が当てられる一方、冷戦期/五五年体制時代には1章しか割かれず、通史としてバランスが取れているとは言い難い。戦後日米関係に関する斬新な歴史解釈や知見が提示されるわけでもない。しかし、冷戦終結から現在までの日米関係を、その歴史的背景を踏まえて理解したいという読者には十分に読み応えがあるはずだ。

事実、著者の主たる関心は冷戦後の日米同盟のあり方に向けられており、本書には今後の日米同盟に関して明快なメッセージが込められている。筆者によれば、東アジアに朝鮮半島と台湾という不安定要素が存在する限り、日本は「日米同盟というリアリズム」を強化し続ける必要があり、それが唯一の現実的な選択肢なのである。しかし、ここでいう「リアリズム」とは何を意味しているのか。著者は「国家の安全保障とパワー」を最重要視するのがリアリズムの考え方だと説明するが、それは間違いではないだろう。ただ本書では、それが極論すれば、「軍事的脅威への対応や軍事力の行使」という狭い意味で使われているように読める。このことはおそらく、リアリズム重視の立場から日米同盟の強化を支持する著者の主張とつながっている。しかし、理論や分析枠組みではなく、外交思想としての「リアリズム」に立ち返ったとき、その内実はもっと豊かなはずである。無批判に現状を肯定して他の選択肢を検討せず、アメリカにとっても日米同盟が唯一の現実的な選択肢なのかを不問に付したままでは、それこそ「リアリズム」を欠いた日米同盟論に終わるのではなかろうか。

    • 立教大学兼任講師
    • 黒崎 輝
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