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【書評】『生涯海軍士官―戦後日本と海上自衛隊』中村悌次著

September 3, 2009

評者:中島信吾(防衛省防衛研究所教官)



本書は、防衛省防衛研究所戦史部の戦史史料編さん業務の一環として行われた、元海上幕僚長中村悌次氏への19回にわたるインタビュー(2003年11月~2005年9月)による速記録、『中村悌次オーラル・ヒストリー 上・下』(防衛研究所、2006年)を基に、中村氏及び中央公論新社が再構成したものである。

中村氏は1919年生まれ。海軍兵学校を卒業後(67期)、太平洋戦争においては駆逐艦で水雷長などを勤めた後、終戦を第1特攻戦隊第18突撃隊特攻長で迎えた。戦後は民間会社にて勤務後、1952年に海上自衛隊の前身である海上警備隊が創設されると同年6月に入隊、以後、海上自衛隊において、統合幕僚会議事務局第5幕僚室長、海上幕僚監部防衛部長、自衛艦隊司令官等を歴任し、1976年から1977年にかけて海上幕僚長を勤めた。本書は、中村氏の生い立ちから退官までのライフ・ストーリーの聞き取りを収録している。

今世紀初頭に実施された、政策研究大学院大学による大規模なオーラル・ヒストリーのプロジェクトによって、多くの政治家、官僚に関する聞き取りがなされ、そこで作成されたオーラル・ヒストリーとしては海原治、伊藤圭一、夏目晴雄、宝珠山昇といった防衛官僚、そして自衛官としては大賀良平元海幕長へのオーラル・ヒストリーが現存するが、本書は、防衛省・自衛隊関係者のオーラル・ヒストリーとして初めて商業出版されたものとなる。

評者は、本書の元となったオーラル・ヒストリーにインタビュアーとして参加したが、その際に中村氏が語った、「E・H・カーの『歴史とは何か』だったと思いますが、その中に、『記録というのは、書いた人が事実だと考えているもの、もしくは他人に事実であったと思ってもらいたいもの、さらには本人がかくありたいと思っていたものという願望であって、決して事実ではない』というくだりがありましたが、それにならって言うなら、このオーラル・ヒストリーは、『その当時、私はこういうふうに思っていたということ』になるわけですね」という言葉が印象に残っている。

本書は、巷間よく見られるような自らの手柄話をちりばめた回想録のたぐいとは異なる。中村悌次という一人の海上自衛官の目を通して見た、海上自衛隊草創期から防衛計画の大綱が策定される頃までにいたる間、約四半世紀の歴史である(海軍時代も含めればもっと長いが)。海上自衛隊が、あるいは自衛隊全体が抱えていた課題や葛藤に、中村氏が幕僚として、あるいは指揮官としてどのように取り組んだのか。淡々と、静かに振り返った本書の中に、類書にはない高い史料価値が含まれている。

    • 防衛省防衛研究所主任研究官
    • 中島 信吾
    • 中島 信吾

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