4.夏期以外でも電力需要は減少した?
前節までの分析から、2011年度の夏期の平日は、日中の電力需要が大幅に減少したことが分かった。次に、この減少幅を要因別に分析するために、夏期以外についても1日の電力需要 [1] の推移を比較した( 図4 )。春・秋期については電力需要と気温の間に相関関係が見られなかったため、それぞれ4・5月と10月の平日の電力需要の平均を示した。冬期については、気象条件が近い1月の平日(東京の日平均気温が3~4℃)を抽出した。「減少幅」は、過去3年の平均と2011年度の差である。
図4 東京電力管内における春・秋・冬期の1日の電力需要 [1] の推移(平日)の比較
これらの図から、過去3年と比較した2011年度の日中の電力需要は、 春・秋期にも500~550万kW程度の減少が見られる 。夏期と比較すれば減少幅は小さいものの、 ピーク時間帯の節電が強く求められていない時期でも、一定の電力需要の減少があったことが分かる 。ただし、 冬期の減少幅は250~300万kW程度であり、秋期と比べて電力需要の回復が見られる *5 。
*5 冬期についても夏期( 図2 参照)と同様に、平均気温が13℃以下の平日について、最大電力需要が発生することが多い17時の電力需要 [1] と日平均気温(東京の日平均気温で代表させた) [3] の相関関係を調べた。その結果、回帰直線の切片と傾きから、日平均気温が5℃から10℃の範囲では、17時の電力需要は過去3年よりも250~350万kW程度の減少が見られた。この結果は、 図4 における冬期の日中の減少幅と整合的である。
次に、より直接的に電力使用制限(2011年7月1日~9月9日)による影響を確認する。 図5 では、気象条件が近い6月および7・8月の平日(東京の日最高気温が24℃前後)について、2008・2009年度と2011年度の電力需要を比較した。「減少幅」は、2008・2009年度の平均と2011年度の差である。
図5 東京電力管内における6月および7・8月の1日の電力需要 [8] の推移(平日)の比較
この図から、電力使用制限の期間前である6月と期間中である7・8月では、2011年度の電力需要の減少幅に大きな差(日中は550万kW程度)があることが分かる。これは、気象条件が近くても、震災前(2008・2009年度)には 7・8月の日中の電力需要は6月より200~250万kW程度の増加があったのに対して、2011年度は7月の方が6月よりも250~300万kW程度の減少となったことに由来する。
前者の要因として、 震災前は気象条件によらず7月になると冷房需要が増加していた可能性があり、それが2011年度には抑制されたことが考えられる 。また、後者の要因の中には、 電力需要の時間・曜日シフトなど、電力使用制限に対応するための半強制的なピークカット対策があると考えられる 。
5.どの部門で電力需要が減少した?
前節では、日中の電力需要の減少幅を時期ごとに明らかにした。ここでは、部門別の販売電力量をもとに、各部門の電力需要の減少への寄与について検討する。 図6 に2008~2011年度の各月の部門別の販売電力量と過去3年(平均)と比較した減少幅、 表2 に時期(四半期)ごとの減少率を示した。
図6 東京電力の各月の販売電力量(部門別) [6] の推移 *6, 7
*6 「電灯」は家庭部門(一部はコンビニなど小口業務)、「電力」は小口産業(小規模工場、町工場)、「特定規模需要・業務用」は大口および小口業務(スーパー、中小ビル、デパート、ホテル、オフィスビル、病院、大学)、「特定規模需要・産業用」は大口および小口産業(小・中・大規模工場)に対応する [2] 。
*7 家庭部門や小口業務・産業の販売電力量は前月の検針日から当月の検針日までで区切られるため、各月の販売電力量には前月の販売電力量の一部が含まれる [7] 。
特定規模需要・業務用および産業用については、過去3年の平均または昨年と比較して、2011年7月と8月の販売電力量は大幅に減少している。一方で、4~6月や9月も同程度の減少が見られる。前節でも示したとおり、ピーク時間帯の節電が強く求められていない時期でも、一定の電力需要量の減少があったということになる。
このことから、 業務や産業における夏期の電力需要減少には、昼間の冷房需要の削減といった夏期の固有の節電に加えて、照明などの恒常的な節電対策の定着といった要因が寄与したものと考えられる *8 。その他に、業務・産業部門では、震災の影響などによる活動量の減少が要因となった可能性もある。大口需要家については、前述の電力使用制限に対応するため、③夜間や休日への電力需要のシフトによって、電力需要“量”には表れない形でピーク時間帯の電力需要を削減した可能性も考えられる。
*8 「特定規模需要・業務用」に含まれる百貨店およびスーパー(大型小売店)については、月ごとの販売額の統計が存在する [8] 。これによると、2011年4月以降の東京電力管内の都県(静岡県の一部を除く)における大型小売店の販売額は、2009年度や2010年度の同時期とほぼ同じレベルで推移している。このことから、少なくとも業務部門については,電力需要量が減少は①活動量の減少によるものではなく、積極的な節電対策によるものであることが分かる。
一方で、家庭(電灯)については,過去3年と比較すると7月は電力需要量が増加している。一転して8月は大幅な減少に転じたものの、再び9月には減少幅が小さくなるなど、明確な傾向を読み取ることが難しい。これは、家庭部門の電力需要が特に気温に依存するためと考えられる。そこで、2008~2011年度の7月から9月について、一般的に冷房需要との相関が強いと言われる「冷房度日(ディグリー・デー)」を東京の気温 [3] をもとに求めて,販売電力量(電灯) [6] との関係を示した( 図7 )。参考として、業務部門についても同様に、販売電力量と冷房度日の関係を示した。
図7 東京電力の夏期の販売電力量 [6] と冷房度日(東京)の関係 *9, 10
*9 一般的に「冷房度日」は、日平均気温が24℃を超えた日について、日平均気温と22℃の差を合計したものと定義されることが多く、本稿でもこの定義に従った。
*10 本稿では、前月の15日から当月の14日までの冷房度日の合計と、その月の販売電力量の関係を分析した。ただし、特に家庭部門においては検針日の間隔が一定ではない可能性があり、このことが 図7 における分析結果に影響を及ぼしている可能性は否定できない。
この図のように、2008~2010年度については、家庭部門の電力需要量と冷房度日の間に強い相関がある。その回帰直線と比べて、2011年度の7月と8月(検針日の実態は6月中旬から8月中旬)は電力需要量が減少しており、同じ冷房度日での回帰直線との差をとることで補正した減少幅は月間で7~11億kWh (9~13%)となった。すなわち、 気温差を考慮しても家庭部門の電力需要量は削減されたと言える 。
ここで、2011年9月(実態は8月中旬から9月中旬)については、2008~2010年度の回帰直線からの減少幅は月間で2億kWh(2%)程度にすぎない。このことは、 8月中旬までに電力需給が危機的な状況になることがなかったことから、節電意識や危機感が希薄になった可能性を示している 。
これらの結果は、 気温への感度が高い上に不確実な要因を含む家庭部門の電力需要に、確実な削減を期待することの危うさを示している 。その反面、最高気温が高いピーク日において、 冷房需要の抑制による電力需要削減の余地が残されているとも言える 。
一方で、業務部門の電力需要量は,家庭部門と比べて気温への感度が低く、7・8月だけではなく9月においても月間で12億kWh(17%)以上の減少幅(冷房度日によって補正)を維持している。そのため、家庭部門と比較して、 業務部門では確実な電力需要削減が期待できるものと考えられる 。
6.ピーク日・時間帯の電力需要減少の内訳
以上の分析の結果から、東京電力管内における2011年度の夏期の電力需要について、要因別・部門別の日中の減少幅(過去3年比)を推計した( 表3 )。
*11 ここでの推計方法は、前節で示した部門別の電力需要量の減少幅を、部門別に設定した電力需要の削減可能時間で割ることを基本としている。ただし、削減可能時間の中では電力需要の減少幅は均等であると仮定している。冷房需要の削減可能時間は、各部門に共通して300時間/月とした。減少幅の合計が前々節までで推計した時期ごとの電力需要の減少幅と整合するように、適宜、電力需要の削減可能時間の設定を調整した。電力需要の減少幅は、推計方法の精度を考慮して25万kWの単位で示した。
*12 業務部門および産業部門の大口と小口の内訳は、資源エネルギー庁 [9] による夏期のピーク日・時間帯における電力需要の内訳を参考に推計した。ただし、小口需要家は電力使用制限に対応するための時間・曜日シフトは実施しないものとした。
この推計結果から、部門別の夏期の日中における減少幅は、家庭部門が125万kW程度、業務部門が450万kW程度、産業部門が375万kWと見積られる。業務部門と産業部門を大口と小口に分けると、大口は525万kW程度、小口は300万kW程度の減少幅となる *13, 14 。
*13 東京電力による分析 [7] では、家庭、大口、小口の電力需要の削減幅は、それぞれ100万kW、600万kW、400万kWと試算されている。
*14 この分析 [7] では、大口需要家の削減幅が大きい理由として、2011年の夏期のピーク日(8月18日)が木曜であり、一部の大口需要家が休日をシフトしたことによる電力需要削減が100万kW程度あったとされている。ただし、2011年7・8月の平日(夏日のみ)のピーク時間帯(14時)の電力需要の平均は,月~水曜が4,208万kWであるのに対して木・金曜は4,196万kWであり、大きな差があるとは言えない。そのため、電力需要の休日へのシフトの効果としては過大評価のようにも思われる。
資源エネルギー庁 [9] は、夏期のピーク日(2010年度を想定していると思われる)における時間帯ごとの電力需要の内訳を推計している。ピーク時間帯の6,000万kWの内訳は、家庭部門が1,800万kW、業務部門は大口800万kW、小口1,700万kW、産業部門は大口1,300万kW、小口400万kWとされている。これらの数値をもとに上記の減少幅を換算すると、 夏期のピーク日・時間帯における電力需要の減少率は、家庭部門7%、業務部門18%、産業部門22%で、大口需要家は25%となる 。
参考文献
[1] 東京電力:「でんき予報|過去の電力使用実績データのダウンロード」,
http://www.tepco.co.jp.cache.yimg.jp/forecast/html/download-j.html
[2] 電気事業連合会:「FEPC INFOBASE 2010」(2010)
[3] 気象庁:「気象統計情報|過去の気象データ検索」,
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
[4] 経済産業省:「電気事業法第27条による電気の使用制限について」(2011年9月7日更新)
http://www.meti.go.jp/earthquake/shiyoseigen/index.html
[5] 経済産業省:「電気事業法に基づく電力使用制限の発効について」(2011年6月30日更新)
http://www.meti.go.jp/setsuden/pdf/seigenrei.pdf
[6] 電気事業連合会:「電力需要実績」,
http://www.fepc.or.jp/library/data/demand/index.html
[7] 東京電力:「今夏の電力需給状況について」,プレスリリース(2011年9月26日更新)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11092602-j.html
[8] 経済産業省:「商業動態統計調査」,
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html
[9] 資源エネルギー庁:「夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)」(2011年5月26日更新)
http://www.meti.go.jp/setsuden/20110513taisaku/16.pdf