中谷 隼
7.全国的な需給ギャップの可能性
まず、夏期の需給ギャップの可能性を検証するために、全国および各電力管内における電力需給構造を把握する。 図8 には、2008~2011年度の各月について、沖縄電力を除く全国9電力の管内における発電所(卸・特定・特定規模電気事業者を含む)の認可最大出力の合計の推移を青線で示した。さらに、実質的な最大出力を、運転停止中の原子力発電所と、東日本大震災後に定期検査に入り再稼動を見送られている原子力発電所を除いた認可最大出力の合計と定義して、赤線で示した *15, 16 。また、月最大電力需要の発生時間における発電方式別の内訳を、全国9電力の管内について単純合計して、棒グラフで示した。
*15 原子力発電所の運転停止および定期検査の期間は、各電力事業者の原子力発電に関するWebサイトから引用した。2008年度以降に運転停止となった原子力発電所には、新潟県中越沖地震により停止した柏崎刈羽(1・5・6・7号機は2009年12月から2011年2月に運転再開、2・3・4号機は運転停止中)と、東日本大震災により停止した福島第一および福島第二がある。
*16 一般電気事業者(全国9電力)が卸電気事業者(電源開発、日本原子力発電)、特定電気事業者および特定規模電気事業者から受電した電力は、「他社受電」として合計した。
図8 全国9電力の認可最大出力 [10] の合計と月最大電力需要(発電方式別) [10] の単純合計の推移 *16
この図からは、震災後に原子力発電の供給力が減少していることと、それに伴って、全国的に電力需給に余裕がなくなってきている状況が見て取れる。
仮に、2012年度の夏期までに原子力発電が再稼動しないとすると、全国9電力の実質的な最大出力の合計は17,927万kWとなる *17 。そのため、 2008年度や2010年度並みの猛暑になり、節電による電力需要の削減がないとすると、ピーク日・時間帯には全国的に需要超過になる可能性があることが分かる 。
*17 北海道電力の泊原子力発電所3号機が2012年5月5日に定期検査に入り、この時点で国内の全ての原子力発電の稼動が停止したことにより、運転停止中および再稼動が見送られている原子力発電を除く認可最大出力の合計は17,927万kWまで減少した。
政府の「電力需給検証委員会」では、各電力事業者が提出した資料をもとに、長期停止火力発電の再稼動や緊急設置電源、揚水発電の出力の見込みなども考慮して、より詳細に2012年度の夏期の供給力を検討している。ここでは、原子力発電の再稼動がなかった場合の全国9電力の供給力は、合計で17,032万kWと見積られている [11] 。
8.どの電力管内で需給ギャップが発生する?
次に、 図8 と同様に、各電力管内について月最大電力需要の発生時間における発電方式別の内訳、供給力(認可最大出力の合計)、および運転停止中または再稼動を見送られている原子力発電所を除く実質的な最大出力の推移を示した( 図9 )。
図9 全国9電力の管内における認可最大出力 [10] と月最大電力需要(発電方式別)[10] の推移 *18
この図に示したように、中部電力や中国電力の管内では、このまま原子力発電の再稼動がなかったとしても需給ギャップが発生する可能性は低いが、原子力発電への依存度が高かった電力事業者の管内では、2008年度や2010年度の夏期における他社受電を除く電力需要が実質的な最大出力を超過している *19 。
*18 各電力における発電方式別の内訳に、卸・特定・特定規模電気事業者からの受電や他の一般電気事業者との電力融通(受電と送電の差分)を合わせた「他社受電」を加えた電力需要が、「月最大電力」として示されている。
*19 北海道電力については、泊原子力発電所3号機が2012年5月5日に定期検査に入ったことにより、再稼動を見送られている原子力発電を除く認可最大出力の合計は535万kWとなった。
前節で述べた電力需給検証委員会による供給力の見積りをもとにすると、北海道・関西・四国・九州電力の管内で需給ギャップが発生する可能性があり [11] 、2010年度の夏期の最大電力需要と比較すると、それぞれ4%程度、18%程度、2%程度、10%程度の需要超過となる。