シリアをめぐる米ロの駆け引き | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

シリアをめぐる米ロの駆け引き

May 15, 2013

佐々木 良昭 上席研究員


シリアの内戦が新たな段階に入ってきたようだ。それはアメリカとロシアがこの問題の解決に、「話し合いをすべきだ」ということで合意したからだ。アメリカとロシアは国際会議を開催し、シリア問題をどう解決すべきか話し合うことに合意し、その方向に動き出しているようだ。

こうしたアメリカとロシアの動きのなかで、ロシア側にとって好都合な事実が発覚した。それはこれまでアメリカやイスラエルが主張してきた『シリアの化学兵器使用の危険性』そしてそれに続き『シリアは化学兵器を使用した』という主張が崩れ始めたことだった。

シリア問題に関する国連(UN)調査委員会の調査官が「化学兵器の使用はシリア政府によるものではなく、反政府勢力によるものだ」と発言したのだ。つまり、今までのアメリカやイスラエルの主張してきたことと、真っ向から対立するかたちになったのだ。

そうは言っても、アメリカがそれで『ハイそうですか』と主張を引っ込めたわけではない。その後もアメリカはシリア政府軍による化学兵器の使用を、非難し続けている。 そのアメリカの非難を、トルコが援護する形になっている。トルコ政府は最近になって『シリア政府軍が化学兵器を使用したことは事実であり、我々はその証拠を握っている』と言い始めている。そして、そのトルコ政府の主張のニュースには、化学兵器の犠牲になったと思われる人物が、治療を受けている様子の写真が公表されている。

ただこれは決定的な証拠にはなるまい。なぜならば化学兵器によって被害を受けた人物が、直接攻撃したのは政府軍だったと語ったとしても、それはトルコ政府による、圧力の結果かもしれないからだ。また、被害者が化学兵器を使用したのが、政府軍なのか反政府側なのか、はっきりと区別がつくとは、限らないからだ。

2003年にアメリカがイラク戦争を始めるに当って、イラクはWMDを持っているという主張をし、それが結果的には間違いだった(嘘だった)ということが、イラク戦争後に明らかになり、世界の知るところとなっているため、世界の国々に対し、今回の「シリアの化学兵器所持と使用」、というアメリカの主張が、国際社会のなかで、どれだけの説得効果を持つか疑問でもある。

そうなると、どうしても国連(UN)調査委員会の調査官の発言のほうが、国際的には説得力を持つということになろう。それが国連の場に持ち出されれば、アメリカの主張よりも、世界の国々は国連(UN)調査委員会の調査官の発言を、支持することになろう。 もちろん、ロシアや中国、それにイランなど、基本的にシリアを支援している国々は、国連(UN)調査委員会の調査官の発言を元に、アメリカの主張と対立していくことになろう。そして同様に第三世界の国々も、国連(UN)調査委員会の調査官の発言の方に信頼性があるとし、その判断に基づいた立場を、採るであろう。

こうなると、アメリカが考えている、シリアへの飛行禁止空域の、国連での決議も、難しくなるのではないか。このことについても、トルコはアメリカの立場を支持する旨の、政府の正式は見解を、既に発表をしている。

アメリカはイラク戦争時や、リビア革命時と同じように、国際的には不明確な形での、軍事行動に繋がる行動を、シリアの場合も採るのであろうか。アメリカはこれまで、軍事的なシリアへの直接介入はしない、と何度も言っているが、そうであろうか。

アメリカのオバマ大統領はこれまで、平和路線を口にし、自国の軍人を戦場に送らない、送ってあるものについては撤収させる、と繰り返してきた。しかし、他方では無人機を使い容赦ない軍事攻撃を、繰り返してきたことも事実だ。

ロシアはアメリカのオバマ大統領が、これまで採用してきた方法を熟知している。オバマ大統領がシリアに対して、もし同じ方法を選択した場合、ロシアはそれを放置するだろうか。

シリアはロシアにとって、極めて重要な友好国であることは、誰にも分かろう。シリアの地中海に面するタルトース港は、ロシアが有する唯一の、地中海に面した軍港なのだ。これを容易に手放すとは思えない。

ロシアは今後、どのような作戦を展開するのだろうか。もちろん、第一は外交であろう。あらゆる第三世界の国際組織に働きかけて、アメリカの行動を阻止するだろう。上海フアイブ、非同盟諸国会議、BRICSなどがそれだ。

第二には何時でも軍事介入できるということを、行動で示すだろう。先日、ロシア海軍が地中海のシリアに近い場所に展開したのも、ロシア海軍艦隊がイスラエルを訪問したのも、その顕われではないか。

こう考えてみると、冒頭に書いたようにアメリカとロシアは、国際会議という平和的な手段で、シリア問題を解決すると世界に主張しながら、その裏で取引し、シリアを分割する方向に持っていくのではないかとも思われる。

    • 元東京財団上席研究員
    • 佐々木 良昭
    • 佐々木 良昭

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム