宮原信孝 研究員
アフガニスタン大統領決戦投票結果発表とケリー米国務長官の仲介
6月14日行われたアフガニスタン大統領選挙決選投票の結果が7月2日発表され、独立選挙管理委員会は、56.44%対43.56%でアシュラフ・ガーニ元財務相(以下AG)がアブドラ・アブドラ元外相(以下AA)を破って大統領に当選したとした。これに対し、AAは、この投票結果は不正のためであり、並行政府を樹立する旨発表し、アフガニスタンの分裂が現実味を帯びた。これに対し、米国政府はケリー米国務長官を派遣し、同長官の仲介で(*1)、AA、AGとも、約800万に上る全投票を再検査し、その結果を尊重することで合意した。これでひとまず、アフガニスタン分裂の危機は回避され、7月17日には、全投票再検査が始まり、現在はその3日目が進行中である。
6月16日付の投稿で筆者は、報道(*2)に従って、「同国政府は、700万人以上が投票し、投票率がおよそ60%に上るという見通しを示した」と書いた。それが開票すると投票数は約800万票と投票直後の見通しから100万票もの増加となった。筆者は、700万人の投票と反政府勢力タリバーンによると見られる攻撃の様子、更には2004年に行われた大統領選挙時の投票数約700万をあわせ勘案し、上記投稿で「2009年の大統領選挙に比し、順調に選挙は行われたと言えるかもしれない」と述べたが、この100万票の増加はこの見方を変えざるを得ないものとした。
州別の投票結果を見ると、4月の第1回投票に比し、極端に投票数が増えている州が見られ、それがパキスタンとの国境に近い南東部やカブール南接する諸州に固まっている。具体的には有効票を合わせた投票数は、パクティカ州が181,079から404,562に、パクティア州が253,234から334,705に、ホースト州が113,074から400,160に(以上南東部諸州)、ワルダック州が99,686から235,663に、ロガール州が33,073から95,291への激増している。これらの州は、反政府勢力による攻撃が頻繁化していた地域であることを考えるとこの投票数の激増は単純に投票に行く気になった人数が増えたという説明は受け入れがたい。因みにこの5州で増加した票数は79万票以上となり、第1回投票からの増加分の58.85%を占める(*3)。不正が行われた可能性は排除できない。
なお、前回、AGがパシュトゥーンでありながら、票が取れていないと筆者が指摘した南部諸州では、カンダハールで34,698票から268,946票へと伸ばしたのを筆頭として、前回他のパシュトゥーン系候補が獲得した票がAGへと流れたのが見て取れる。これら候補がAAを支持するとした発言は、根強い部族社会にはあまり意味を成す発言ではなかったと言えるかもしれない。
今後の見通し
ケリー米国務長官の仲介成功は、一見米国の影響力が強かったからのように思える。しかし、米国撤退後のタリバーンとの対立解消に向けての交渉のことを考えれば、当然のことと考えられる。まず、アフガニスタンを分裂させて、対タリバーンのポジションを弱める状況を創り出す当事者になることをAA、AG双方が芯から望むことは考えられない。もともと、両者とも米国との関係は濃い。AAはニューヨーク・アジア・ソサイエティのメンバーである。AGは、米国で教育を受け、ワシントンに本部を置く世銀で長年働いた。暫定政府時代も米国との関係は深かった。このような彼らが、ケリー長官の仲介に応じないはずがない。
問題は、全投票の再検査が完了し、AA、AGのどちらが大統領になっても、対タリバーンのポジションをどれだけ強くできるか、あるいはこれ以上どうやって弱めないでいられるか、である。オバマ大統領は、予定通り戦闘部隊は今年中に撤退し、来年1年間は約1万人の部隊を駐留させても、2016年、すなわち同大統領の任期中に全部隊を撤退させる方針を明らかにしている。また、既にキルギスタンの基地の使用は先月終了し、中央アジアにおける米国の影響力の低下が明確になっている。新大統領が米との米軍駐留協定に署名したとしても、対タリバーンのポジション強化には向かわない。
唯一このポジション強化の方向に向かう道としては、今回の投票不正問題をめぐる諍いが、「雨降って地固まる」のたとえのように、AA、AGが協力して強力な政府を構築することである。AA、AGが協力すれば、パシュトゥーン、タジク、ハザラ、ウズベクの主要民族が全て政府に参加することになるし、対タリバーン交渉の窓口も持つことになる。また、対タリバーン戦におけるエアカバーについても米軍が撤退しても何らかの代替策を生み出すことができるかもしれない。今後、AA、AGがどの程度協力して新政府を構築できるかが注目される。
(注)