宮原信孝 研究員
アフガニスタンのためのイスタンブール・プロセス第4回年次閣僚会議の開催
10月末、中国北京においてアフガニスタンのためのイスタンブール・プロセス第4回年次閣僚会議が開催された。この会合は、2011年に始まったアフガニスタンに関する域内諸国が集まる閣僚級会合で、14カ国がメンバーである。1990年代、アフガニスタンは同国の各派が域内の各国と特別の利害関係を持ち、結果として内戦を激化させることになった。従って、米軍とNATO軍が撤退する2015年以降についても近隣諸国がアフガニスタン各派と結びつき、代理戦争を行うことが心配されている。この観点からすると、近隣諸国が一同に会して宣言や誓約の下に協力してアフガニスタンの安定と和平の構築を支援していくとするこのプロセスには一定の意味がある。
この会議で目立ったことは、中国のアフガニスタンの平和的復興(*1)への積極的姿勢である。中国は今後5年間で約3.3億ドル(*2)の無償資金協力と3,500人のアフガン人への職業訓練ないし奨学金の供与を約束した(*3)。また、共同議長の王毅外交部長は、このプロセスで貿易、投資、インフラ、災害管理及び教育を含む分野で64のプログラムが開始されることを発表した(*4)。
この会議で、アフガニスタンの新大統領アシュラフ・ガーニは、タリバーンに対し和平対話に加わることを呼びかけるとともに、アフガン主導で、アフガニスタンがオーナーシップをもつ和平プロセスを支援するよう国際社会に呼びかけた(*5)。これに対し李克強首相は、アフガニスタンの主権を尊重し、内政干渉抜きの対同国支援を呼びかけた(*6)。
ここで明白になったことは、アフガニスタン和平復興における中国の役割の増大である。これまでイスタンブール・プロセスは様々な委員会は作られていたが、具体的な成果は生み出していなかった。今次閣僚会議では、中国自身が経済支援を約束し、また、64のプロジェクトを始めることになった。確かに、5年間3.3億ドルは、日本の2009年の5年間50億ドルにははるかに及ばないし、2002年の2年半5億ドルにも及ばない。だが、資源確保などの純経済活動ではない、無償支援等を中国が明示的に行ったこと、及びこのプロセスが中国主導の下具体的なプロジェクトを生み出したことは、中国の重みがアフガニスタンにおいて大いに増すと考えるのは合理的である。
米国は、中国のこのような関与の増大を歓迎しているようだ(*7)。米国は中国と共同でアフガニスタン外交官の訓練を開始した(*8)。アフガニスタンでは、本年末の米軍及びNATO軍の戦闘部隊完全撤退を前にタリバーン等反政府勢力の攻撃が高まっているが、これを抑えるためにはパキスタンの協力が必要であり、同国を支援する中国の同国への影響力行使に米国としても期待するところがあるであろう。
ガーニ大統領は、東トルキスタン・イスラーム運動という反中国政府過激派組織に対する中国の戦いを支援する旨の約束を中国に対し行ったとされる(*9)。同大統領が中国の政治面での関与を期待し、中国側と話をしたとすれば、当然パキスタンへの影響力行使を要請したと考えられる。以上に鑑みれば、中国はパキスタン及びイスラーム過激派勢力という切り口からアフガニスタンに関する政治に関与するようになったと言える。
中国の台頭に対するロシアの反応と2015年以降のアフガニスタン
上記のような中国の台頭に対し、ロシアは否定的な対応をしているとパキスタンのジャーナリスト、アフマド・ラシッド(以下「AR」)は述べている(*10)。ロシアは、中国が提案した、タリバーンを交渉のテーブルにつかせる上での協力を域内諸国が約束するアフガニスタン和平和解委員会創設を潰したとしている(*11)。ARにしてみれば、アフガニスタンにおいてタリバーンとともに域内諸国の反政府勢力が戦っており、タリバーンの勢力が同国国内において強勢となれば、当然それを基盤に域内各国の反政府勢力がそれぞれの政府に対し攻勢を強めることになるのだから、ロシアを含む域内各国は、もはや軍事力で叩き潰すことのできないタリバーンを交渉のテーブルにつかせ自らの敵、すなわちイスラーム過激派の力を削ぐべきということになる。
ARは、2年ほど前までは米国によるタリバーンとの交渉に期待していた。しかし、結局それは実現しないまま、米国およびNATOの戦闘部隊の撤退ということになった。2013年までに米軍とNATO軍は35万人まで増強されたアフガニスタン国家治安部隊(ANSF)とともにアフガニスタンの大部分の人口密集地域の治安を安定させたが、本年に入り、タリバーン等反政府勢力の攻勢は強化されており、同勢力による地域奪回もありうる予断を許さない状況である。そのような中での中国の積極的姿勢であるし、タリバーンを交渉のテーブルにつける提案は喉から手の出るものであろう。
だが、状況を再点検すると次のことが言える。
第1に、タリバーン等反政府勢力は、米国及びNATOの戦闘部隊の撤退が進むにつれ強勢となっているが、その力はパキスタンの姿勢如何にかかっている。パキスタン政府は現在パキスタン・タリバーンの勢力削減に力を入れている。未だ力を入れていない、アフガニスタン・タリバーンと域内諸国の反政府イスラーム過激派の勢力削減に同国政府が取り組むようにすることが一番の課題であり、それは、イスタンブール・プロセスの委員会ができることではない。米国とともに中国がパキスタン政府に働きかけることがより効果的である。
第2に、このように中国の役割は大きくなってくるが、今次ロシアの抵抗が通ったところに見られるように、中国が域内諸国を取りまとめる力はない。イスタンブール・プロセスは、あくまでもアフガニスタン和平復興へ向けての国際社会の努力の一部に過ぎず、米国を中心として日本も協力してきた国際社会の努力に代わるものではない。これまで同様、アフガニスタン政府を中心とした国際社会の支援体制を続けていくべきである。35万人のANSF兵士の給料を払っているのは日本を含む西側諸国である。
第3に、とは言っても、米国及びNATOの軍事プレゼンスが大幅に削減されることは明らかであり、域内各国の思惑が交錯することが予想される。今後早急に米国及び西側諸国が政治的に手を引かないということが目に見えるフォーラムや米国等の強い姿勢の提示が必要とされると考えられる。
- (注)
- (*1)Foreign Ministry Spokesperson Hua Chunying’s Press Conference on October 24 http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/t1203950.shtml
- (*2)Ahmed Rashidの記事’Russia and Reconciliation in Afghanistan’(2014年11月14日) http://www.ahmedrashid.com では5年ではなく3年で。
- (*3)2014年10月31日付AP ‘Afghan leader makes rare reference to Taliban’ http://hosted2.ap.org/APDEFAULT/347875155d53465d95cec892aeb06419/Article_2014-10-31-AS--China-Afghanistan/
- (*4)同上
- (*5)同上
- (*6)同上
- (*7)同上
- (*8)同上
- (*9)同上
- (*10)上記(*2)記事参照
- (*11)同上