羅豪才
前・中国人民政治協商会議全国委員会副主席、中国人権研究会会長、元北京大学副学長
(本稿は、2008年5月に開催された連続シンポジウム「グローバル化時代の価値再構築」第7回「グローバル化と中国の人権問題」でのスピーチ原稿の再録である。) (原文は中国語。)
中国と日本国は一衣帯水の隣国であり、古くから両国人民の間には頻繁な往来がありました。中国は現代化の過程で、日本を含めた世界諸国の貴い経験を参考にしており、清末期、法律改正の際にも、日本の近代の法制と学理を大いに参考にした経緯がございます。ここ数年来、中国行政法学界や関連実務部門も日本の行政指導制度に対して興味を深めております。日本には美濃達吉など、多くの著名な公法学者がおり、数多くの著作が中国語に翻訳され、中国に大きな影響を及ぼしました。青木昌彦教授の制度経済学は中国でたいへん好評を博しております。
今回のフォーラムのテーマに即し、最近の研究事情と結びつけ、「中国社会の転換における協商メカニズム」について管見を述べさせていただき、専門家の方々とともに議論を交わすことができればと思っております。
1987年改革開放以来、中国の様相には歴史的変化が見られ、経済、政治、社会、文化建設において世界の注目を集める成果をあげました。過去30年間にわたって、中国と世界の関係にも歴史的変化が見られました。中国の経済はすでに世界経済において重要な役割を担っており、中国の発展は世界経済と貿易の成長を力強く促進し、中国もそれに相応しい国際責任を真摯に果たし、すでに国際システムの重要なメンバーとなっております。今日の世界では、多極化の趨勢には逆らえず、経済のグローバル化が進み、科学イノベーションが加速され、中国の前途・運命は日増しに全世界と一つにつながってきたといってもよいでしょう。
もちろん、中国の発展は国内においては、社会の転換、国際的には経済のグローバル化という背景の下で行われ、様々な矛盾が現れています。こうした種々の矛盾と衝突を解消するために、経済を立派に、かつ速やかに発展させなければならず、法秩序づくりにおいては、公権力の規範化、市民権力の保障をいっそう強化しなければなりません。この過程で、公権力主体と相手側との関係の見直しをいっそうはかり、公共ガバナンスのモデルを「ハードロー(Hard law)」と「ソフトロー(Soft law)」が相互に補完し合い、ともに役割をはたす方向へと促進していく必要があります。
中国の協商メカニズムの概括
中国の「社会転換」とは、経済体制が計画経済から市場経済へ軌道転換する、つまり所有制構造が単純な公有制から公有制を主体とする多様な所有制が並存する所有制へ転換し、治国の方策・戦略が人治から法治へと転換し、政府は万能政府、管理型政府から限られた政府、サービス型政府へと転換し、外交においては閉鎖もしくは半閉鎖の態勢から全方位の開放へと転換し、国や社会が高度に統一された一元化構造から「国家―社会」という二元構造へ転換していることを指しています。中国の改革と発展の目標と方向は明確にされていると言うべきですが、改革の具体的な過程について言えば、中国の国情に即して、試験的な方法をとり、たえず模索、探求に心がけています。つまり「石橋を叩いて渡る」ということです。したがって、中国の社会転換は突然発生したものではなく、秩序立てて徐々に進み、多くの経済改革モデル区の絶えざる改革と試験を通じ、大勢の人々の利益と要求を絶えず満たし、改革の共通認識という大前提の下で段階的にコンセンサスを得る形で一歩一歩促進してきたものであります。中国共産党の指導を堅持し、人民が主人公になることと、法に基づき国を治めることを有機的に結び付ける原則に則って、中国の特色ある協商メカニズムや「ハードロー」と「ソフトロー」の相互に結合した、混合型公共ガバナンス・モデルが形成されてきました。
1.公的ガバナンスモデルの三つの類型
公共の角度から見れば、中国の社会転換は総体的に、国家管理から公共管理へ、また公共管理から公共ガバナンスへ転換するという過程でした。通常、公的ガバナンスモデルはハードローとソフトローモデル、及びソフトローとハードローが相互結合したモデルの三種類に分けられます。ハードローとソフトローはいずれも現代法律の基本形態であり、この二つのその根本的な違いは、国家の強制力による保障があるかないかにあると思うのです。いわゆるソフトローといわれるものは、法律上の強制的な拘束力がないけれども、実際的効力をもつ行為規則であります。ソフトローとハードローとの間には相互補完、相互替合、相互作用の関係が存在するのです。世界範囲における発展動向から見れば、多くの国々のガバナンスモデルはいずれも、意識するしないにかかわらず、ソフトローとハードローと結合を強調し、狭隘な伝統的法律観念を修正し、単純なハードローモデルの不足を補い、ソフトとハードを併用する方向を目指して前進しているといえます。ですが、中国の混合ガバナンスモデルの形成過程は他国と異なっており、中国にハードローの規範システムがまだ完備されていないという前提の下で、公共政策が先行する形で発展してきました。中国社会の転換の過程で、協商を通じて多くの公共政策が形成され、それはソフトローの重要な形態となるもので、通常試験的性格を有しており、往々にしてハードローに先行して存在しております。両者を比べてみれば、公共政策の弾力性はさらに強化されるが、安定さと規範さに欠いているということになります。社会転換の段階的目標の明確化と社会主義法秩序づくりの推進にともない、中国には市場経済、法治政府、市民社会に相応しい社会主義の規範体系が逐次形成され、ソフトローとハードローと結合した中国の特色ある混合ガバナンスモデルが形成されました。この種の公共ガバナンスモデルは、伝統的な管理志向を凌駕し、共同ガバナンス、協力が強調され、多くの非強制的問題解決手段が用いられることによって良好な実効果を収めています。
2.公共ガバナンスモデルの三つのメカニズム
中国の社会転換及びそれに伴って生まれた混合ガバナンスモデルは、公権力主体と相手側との関係を大きく改めました。中国の伝統的な計画経済体制の下で、公権力主体と相手側との間は「命令―服従」の関係にあり、こういう関係は一方通行で、主として公権力主体が命令を出し、相手方は受身の役割を演じるだけでした。改革の過程で、中国は混合ガバナンスモデルへ逐次移行するとともに、新たな制約メカニズム、インセンティブメカニズム及び協商メカニズムという三つのメカニズムが逐次形成されました。この三つが有機的に結合することにより、各方面の強みが統合され、各方面の意欲を引き出し、共同体の安定、創造革新及び持続可能な発展を保障、促進するのに役立っています。公権力主体と相手側とがガバナンス関係の基本主体となり、双方の関係はいずれも能動的で、拡張する本能を持っています。しかし、こうした拡張において一部が理性的で、一部は非理性的であります。したがって、双方の非理性的拡張を制約することを強調する一方で、公権力に対する制約に重点を置くべきなのです。他方では、社会が転換期にさしかかっている公共ガバナンスは動態な発展過程にあり、公権力主体と相手側との共同参加と推進がなくてはなりませんが、公権力主体が積極的な機能を果たし、公共サービスを提供するよう奨励すると同時に、それに対する側もガバナンス過程に積極的に参加するよう奨励することが必要とされます。こうした過程において、双方の関係は逐次双方向の、相互協力関係となり、対話、協商及び合作を通して、公権力主体と権利主体との間に公権力/市民権利の配置の構造的バランスが実現され、社会資源の最適配置と社会全般の利益の最大化がはかられ、社会の調和と科学の発展が実現されるのです。
3.協商メカニズムの三つの特徴
協商メカニズムには多くの特徴がありますが、最も主要な特徴は三つあり、つまり主体の平等性、議題の開放性およびその過程における相互作用です。主体の平等性とは、協商の諸主体が平等の法律的地位にあること、これは民主・協商の前提となる条件を指して言うのであり、市場経済の確立と発展及び市民社会の発達により、主体の平等が促され、協商の土台をつくっています。議題の開放性とは協商の議題は協議の過程で修正することができ、ひいては新しい議題を提起してもよいもよいということです。その内容は社会全体が注目する重要な問題であってよいし、一部の市民の切実な利益に関わる具体的な問題でもよいのです。過程の相互作用とは、協商の主体が意思の疎通と対話を行う過程において視角をたえず転換することができること、理性的な「説得」と思考の疎通を通じてなされ、強制的な「制圧」方式によらずに合意と相互理解を得られるようにすること、主体同士の間で平等な対話や協商、ないし議論を行う過程を指しているのです。こうした過程を通じて、最大の共通認識が形成されます。
4.協商メカニズムの三つの方面について
協商メカニズムの中国社会の転換に対する呼応としては、主として社会共同体、国家共同体、国際共同体という三つの側面に現れてきます。社会共同体の側面から言えば、協商は社会団体のメンバーが共同体の利益のために対話方式を通じて、共通の認識に達する過程です。例えば、業種協会、村民委員会、住民委員会など末端部における大衆の自治組織或いは政治的社会団体が、協商を通じて定款や村民規約及びその他の規範文書を制定しますが、こうした定款、規範はその団体のメンバーに対して拘束力をもっています。また、国家共同体の側面について言えば、異なる政治主体が中国改革開放の根本方針やその他の課題について協議を行い、共通の認識に達する過程を指しています。さらにまた国際共同体についていえば、協商は主権国家間で、世界と地域ガバナンスなどみなが関心をよせる課題について平等な対話、交渉を通じ、諸般の共通性のある規則や基準を制定し、実施する過程をさしています。公法の視角より見れば、上述の共同体のいずれも二種類のことなる権利義務関係があり、ことなる特徴がある。その一種類は双方の権利と義務が対称なものあるいは対等であるが、もう一種類はそれが対称ではなく対等ではないのであるが、この二種類の関係を調整するためにソフトロー、ハードローの混合した規則を適応することができ、協商メカニズムの役割を発揮することが出来る。
協商メカニズムの中国社会転換における実践と運用
中華の伝統文化は協商メカニズム形成の源泉であり、それを育くんできました。中華の伝統文化、わけても儒教文化の「和合」、「調和」、「協商」という理念は、人びとの思想や意識に深く根差しています。改革開放以来、中国は「文化大革命」の教訓を汲み取り、人類文明のすぐれた成果を吸収し、中国の国情に基づいて、民族と時代の精神のよりいっそうの発揚に努めています。また、対外往来の面では、中国は伝統文化の「万邦協和」という思想を受け継ぎ、包容性と開放性の特徴を堅持し、国際文化交流と協力を強化しています。このほか、中国は社会転換を実施する多くの分野で、協商メカニズムをよりよく活かし、かなり効果的な成果をあげており、同時にこのメカニズムの発展が促されています。
1.政治建設における協商制度
中国の民主政治づくりにとって、協商は一つの活動メカニズムであるだけでなく、政治制度にもなっています。中国は以前から協商と民主に対する模索と探求をつづいており、早くも一九四九年、中華人民共和国成立の直前に、各党派、各地区、各人民団体及び特別代表の参加による中国人民政治協商会議が開催され、これが『共同綱領』の制定と中央人民政府の発足につながりました。改革開放後、中国共産党が指導する多党合作制と政治協商制度は次第に完備、発展しつつあります。重要な政策決定前やその執行にあたっては、人民政治協商会議で協商が行われ、人民代表大会では主として投票表決を通じて意思決定を行い、人民代表大会で採択された後政府がそれを貫徹、執行するしくみです。ここからもおわかりいただけるように、人民政治協商会議は中国の今日の政治枠組みとその運営において、かけがえのない役割を果たしています。人民政治協商会議の主要な職責は、政治協商や民主的監督を行い、国政に参画し、討議を行うことです。協商の内容から見れば、国の重要な政策決定や人事、法律について協商を行うほか、人民政治協商会議の規約自体も協商を踏まえて採択されています。協商の主体から見れば、執政党と参政党との協商もあれば、執政党が人民政治協商会議に参加した各団体、各業界との間で協商を行う場合もあります。協商の保障メカニズムから見れば、主として国家権力によって強制的に保障、実施するのではなく、自己規制や相互規制制度、主流の世論、文化および政治的影響によって人民政治協商会議の活動が展開されることを保障しています。協商の効果から見れば、このような「ソフトな制約」、「ソフトパワー」、「ソフトな監督」は、国の権力資源が過度に消耗されることを回避し、このほかこうしたよりソフトなモデルは、強制的な規則に比べてより実質的で、より持続的な効果をもたらすものです。人民政治協商会議の提案及び意見、批判、提言の形態を通じて行われる民主的監督は、一種の政治的監督といえます。国家権力によって保障、実施される強制的性格のものではないものの、実質的に極めて大きな政治的かつ社会的影響力をもつものであり、それはまた実践によりその効果が十分に立証されています。私どもは現在、人民政治協商が中国の民主・政治建設において、より大きな役割を発揮することができるよう、協商と民主の制度化や規範化、手続化の実現を目指して取り組みを強化しています。
2.政府管理における協商行政
計画経済の条件の下では、「命令―服従」という政府管理モデルが絶対的な主導的地位を占めていました。社会主義市場経済の条件の下で、中国は、行政管理の目標を達成するという要請から出発して、既存の強制的な行政をベースとして、行政的指導や契約など非強制的な行政を逐次発展させています。これらの非強制的な行政行為は行政機関と相手方との間の緊張関係の改善に役立つものです。私どもはサービス型政府の構築や、公共サービスの能力とレベルを高めることを提唱し、かなり複雑な行政関係に際しては、単に行政や命令、処罰など強制的な手段を運用するのではなく、ソフトとハードを結合させたモデルを運用するよう提起しています。このモデルはすでに多くの分野で有益な探索を続けてきました。中国は行政法と公共管理の面で、行政行為や方式が多様化しており、これまでの行政や命令ですべてが取り仕切られていた局面が改められ、公民が行政管理に参与するスペースが大きく広がっています。こうしたことは行政管理の目標達成に寄与するだけでなく、現代行政の民主化、科学化、高効率化に向けた方向転換が力強く推進されています。今日の中国では、公民の参加による公共ガバナンスの形態は多様かになり、その最高のものは協商行政であり、これはすでにますます発展の趨勢となります。中国の政府管理過程における協商行政は主として次の三つの方面に現れています。一、協商によって規則を制定し、とくに政府が行政法規の起草、定款の制定及び一部の民間団体が自治的な規範をつくる過程で、協商メカニズムの運用に意を注ぐことです。国は法律を制定する過程で、あくまで公開化、透明化させ、民主的で科学的な立法を堅持することです。例えば、最近、全国人民代表大会常務委員会が『食品安全法草案』の全文を社会に公表し、各方面の意見を広く求め、つくつかの重要問題について協商し、検討を行いました。二、法律執行の過程の当事者同志の協商については、行政機関が自由裁量権を行使する際、法律の認める範囲内で相手側と相談、協商を行い、当事者の正当な訴えや要求に十分に配慮し、行政の裁量行為の合理化と合法化を求めるのです。三、公共選択メカニズムと個人選択メカニズム両者の強みを相互補完させるために、公私協働関係(public private partnership)モデルを模索しています。
3.末端部の民主における協商自治
改革開放以来、中国の発展と進歩に伴い、都市・農村の末端部の民主は次第に拡大し、公民が政治に参加する秩序だったルートが増え、民主実現の形態が日増しに多様化しつつあります。現在、中国では農村村民委員会、都市住民委員会及び企業職員・労働者代表大会を主とする末端部民主自治体系が確立されています。広範な人民は都市・農村の末端の大衆的自治組織のなかで、法に依拠して民主的な選挙や意思決定、管理及び監督の権利を直接行使し、所属の末端機構の公共事務と公益事業に対し民主自治を実行に移しており、これはすでに昨今、中国において、最も直接的で広範な民主の実践となっています。村民自治は広範な農民が民主権利を直接行使し、法に依拠して自分たちのことを処理し、自己管理、自己教育、自己サービスを実行する基本制度です。これは今日、中国が農村の末端部の民主を拡大し、農村部ガバナンスの水準を高める効果的な方法となっています。ここ数年、中国の一部の農村では、「農村規則」を村民が共同で制定し、執行する新しいガバナンスモデルが生まれています。農村規則は「有能な人材によって農村を治める」という従来のモデルを改め、「制度によって農村を治める」道を切り開きました。農村規則の枠組みの中で、村民各人、各組織の権利や公権力の行使について、明確な境界や規範を定めており、村の管理や建設に対する農民の意欲が十分に引き出されています。現在、一部の県や郷もでも直接民主の新しい形態が逐次探索、発揚されているところです。
4.環境保全における協商ガバナンス
現在、環境保護はますますグローバル的な事業となっており、一国の環境問題が往々にして全地球に悪影響を及ぼすことが問題となっています。中国は環境保護と資源節約を基本国策とし、環境保護にかかわる地球規模の対策と国際協力に鋭意参加し、国際義務を担い、共同で国際環境保護事業を推し進めております。例えば、中国政府は『京都議定書』に調印し、その内容を積極的に実施しています。気候変化に応じた国家対策案を実施し、気候変化に対応する能力の整備を強化し、地球温暖化対策に向けた貢献を果たしています。このほか、中国は省エネや環境保護の分野で、日本を含む多くの国々とも効果的な提携を進めています。ここ数年来、中国は産業構造の最適化を重視し、発展パターンを転換させ、循環型経済と環境保護産業の支援を奨励し、節約・クリーン・安全な発展を求める新しい工業化や都市化の道を歩んでおり、資源節約型、環境やさしい社会づくりに積極的に努めています。各方面のたゆまぬ努力の結果、省エネや汚染物質排出削減の面で大きな進展が見られ、二〇〇七年度GDPにおけるエネルギー消費原単位は前年度より三・二七%減となり、ここ数年来ではじめて化学的酸素要求量(COD)、二酸化炭素の排出総量がともに減少するというダブルダウンが実現され、省資源と環境保護は認識から実践に至るまで著しい変化が見られました。
総じて見れば、中国では、環境保護面においてすでにソフトパワーと強制的手段を結合した一連の対策モデルが初歩的に形成されているといえます。一方では、ハードローの役割の発揮を重視し、環境保護の法秩序整備を強化し、法執行の度合いを大きくし、法に依拠して事を運び、生産能力の立ち遅れた一群の企業を淘汰させ、環境法規に著しく違反しているいくつかの行為に対して厳しく制裁を与えています。もう一方では、ソフトローと協商メカニズムの役割の発揮を重視し、社会全体のエコ文明意識をアピール、強化し、企業、社会団体、広範な公民に全面的に働きかけて、資源節約型、環境にやさしい社会の構築に積極的に身を投じさせています。たとえば、中国では「省エネ・排出削減全人民キャンペーン」がスタートし、広範な公民の環境保護に対する意識を高めています。政府は環境保護基準による管理を大いに取り組み、企業と他の社会組織が積極的に社会的責任を果たすよう明確に要求するとともに、意識的、自発的に環境保護の建設に参与させています。多くの民間団体も『省エネ・排出削減全人民キャンペーン・ガイドライン』などの自己規制をかけるソフトロー規範を制定し、広範な公民も全社会の省エネ・排出削減や環境保護キャンペーンに積極的に参与し、これをサポートしています。
5.人権保障における協商と対話について
国連の創始国のメンバーであり、安全保障理事会の常任理事国である中国は一貫して『国連憲章』、『世界人権宣言』の主旨と原則を真剣に履行し、人権事業においても著しい進展と成果を収め、国際人権事業に向けて私たち自身の貢献を果たしてきました。それによって全国人民の生活状況と精神状態は大きく変容し、人民の政治的権利が有効に保障されるようになっただけでなく、加えて一連の比較的完備した、人民の民主的権利を保障する政治制度と法体系が形成され、人権の状況は絶えず改善され、良好な趨勢が現わています。中国政府は巨額の資金を投入し、貧困問題の解決に取り組み、二億人余りの農村貧困人口を絶対貧困から脱却させ、衣食問題を解決しました。中国の人権保障事業はシステム工程であり、これを実施するプロセスにおいて、公民は国家政権に抗うことにより人権を実現するのではなくして、国家、社会、企業及び個人の共通の協商を通じて人権を保障することが行われています。人権立法の上でも協商の役割が積極的に発揮されました。たとえば、幅広い議論と協議を踏まえ、二〇〇四年の憲法修正案に「国が人権を尊重し、保護する」という内容が憲法に盛り込まれました。また『行政訴訟法』、『国家賠償法』、『行政許可法』、『物権法』、『労働契約法』などの人権保障の法律が相次いで制定され、『刑事訴訟法』、『民事訴訟法』などが改正され、人権保障の手続法を更に完備し、無罪判定の原則を明確にしました。中国は国内の人権擁護を強化するとともに、人権分野の国際交流や協力を積極的に強化しています。これまでに、中国はすでに二〇余りの世界人権公約に加入しました。中国は積極的に国連人権委員会の活動に参加し、国連人権理事会の創設に積極的に関わり、人権理事会が世界各国の平等な交流や協議、対話を促し、共に国際人権事業を推進するプラットフォームとなることを主張しています。
私どもは、中国の人権事業に依然として多くの問題や困難が存在することを冷静に見て取っております。たとえば政治、経済体制がまだ完備していないなどのこと、中国政府は従来よりこれらの問題を回避せず、そればかりか経済社会の全面的発展と民主的な法秩序の絶えず完備していくことが、こうした問題解決の糸口になると公約してきました。異なる文明背景の影響を受け、人権に関する意識と人権の実現に向けた手段には相違があるのだと私どもは考えております。これは客観的な事実です。場合によって、こうした相違は誤解を招いたり、甚だしきは衝突を誘発したりすることもあるかもしれませんが、このようなことは歴史上しばしば起こっていることです。もし「和諧」(調和)、「協商」という理念を用いて人権問題の異なる理解を見直してみれば、人権問題に関する異なる観点を人権を発展させる動力に転化することができるのです。というのは、異なる文明背景を持つ国は、人権について異なる理解と実現方法を有しておりますが、その意識および実践にはそれぞれの長所があり、いずれも各々の文化背景の下で生まれた人類の叡智の結晶と言えるのです。もし互いに尊重しあい、交流しあえば、相互理解を増進し、人権問題での対立と衝突を減らすことができるのです。もし互いに学び合い、参考にしあい、相手の長所を取り入れ、自ら短所を補いあうことができれば、必ずそれぞれに人権の改善と向上につながり、さらに世界の人権の全面的発展を促進するに相違ないのです。
6.国際関係の中での協商と協力について
国際関係の中で、各国人民が手を携えて努力し、恒久の平和、共同の繁栄をめざし和諧(調和のとれた)世界の構築を推進するよう、中国は主張するものであります。そのため、国連憲章の主旨と原則にのっとって、国際法と公認の国際関係準則を守り抜き、国際関係の中で民主、和睦、協力、ウィンウィンの精神を発揚すべきだと考えます。政治面では相互に尊重しあい、平等に話し合い、ともに国際関係の民主化を推進することが大事です。経済面では相互に提携し、それぞれの強みを相互補完しあうことで、経済のグローバル化がバランスのとれた、一般特恵やウィンウィンの方向へ発展するようともに促すことが必要です。文化の面では、相互に参考にしあい、異を残して同につき、世界の多様性を尊重し、人類社会の文明、繁栄、進歩を促進することです。安全面では、相互に信頼し、協力を強化し、戦争に訴えることなく、平和的な方法で国際紛争を解決することを堅持し、ともに世界の平和と安定を擁護することです。環境保護の面では、相互に助け合い、協力して推進し、人類の生存のよりどころである地球という故郷をともに大切に守り抜くべきなのです。
中国は平和共存五原則をふまえて、すべての国と友好協力関係を発展させることを堅持し、話し合いや交渉を通じて国際紛争を解決することを主張します。中国は日本を含めた先進諸国との戦略的対話に力を入れ、相互信頼を深め、協力関係を拡大し、相互間の食い違いを適切に処理し、相互関係の長期的かつ安定した、健全な発展を促しております。善意をもって隣国に対処し、隣国を仲間と見なすという周辺諸国との外交方針を貫徹し、日本を含めた周辺諸国との善隣友好と実務を重んじた協力関係を強化し、積極的に地域間の協力を繰り広げ、ともに平和・安定、平等・相互信頼、協力・ウィンウィンの地域環境をつくることに努めております。多くの発展途上国との連携と協力を強化し、伝統的な友好関係を深め、実務的な協力を拡大し、力相応の援助を提供し、発展途上国の正当な要求と共通の利益を擁護します。多国間の外交活動に積極的に参与し、相応の国際義務を担い、建設的な役割を発揮し、国際秩序がより公正かつ合理的な発展をみるよう促しております。国際間で広く用いられている経済貿易ルールに基づいて市場参入を拡大し、法律に基づいて協力関係にある者の権益を保護しています。国際貿易と金融システムを完備し、貿易と投資の自由化、利便化を推進し、話し合いと協力を通じて経済貿易摩擦を適切に処理しております。
以上、中国の社会転換におけるソフトローと協商メカニズムについての模索と実践を紹介いたしました。理論面でも実践面におきましても、中国の協商メカニズムに対する模索はいまなお発展途上にあり、まだ完備されていないところが多く見受けられます。私どもは日本の学界と実務経験者の方々とともに、これらの問題について突っ込んだ検討と討議を行い、日本の成功の経験を汲み取り、参考にし、理論と実践の結合において、引き続き新たな革新や進歩が生み出されることをとを心から望んでおります。
【略歴】1960年北京大学卒。北京大学で教鞭をとりつつ、北京大学副学長、中国法学会副会長、中国最高人民法院副院長、中国行政法研究会会長などを歴任。1998年より10年にわたって中国人民政治協商会議全国委員会副主席を務めた。現在、北京大学ソフトロー研究センター名誉主任、中国法学会行政法研究会名誉会長も務めている。