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研究報告書 「アジアにおける非伝統的安全保障と地域協力」

December 4, 2008

東京財団では2007年4月から2008年3月にかけて、外交安全保障分野研究の一環として、 「アジア研究プロジェクト」 を実施しました。このプロジェクトは、近年、アジアにおいて非伝統的安全保障の課題として注目されるようになった非軍事的な脅威の現状と課題を分析したものです。この度、その研究成果を報告書 『アジアにおける非伝統的安全保障と地域協力』 としてまとめました。

研究活動は、白石隆(政策研究大学院大学副学長・教授)、高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)両氏のリーダーシップの下に、大岩隆明(国際協力機構JICA研究所上席研究員)、鬼丸武士(政策大学院大学助教授)、鈴木伸二(龍谷大学社会学部講師)、久末亮一(政策研究大学院大学研究助手)、本名純(立命館大学国際関係学部准教授)の各氏により行われました。

報告書を公開するにあたり、このプロジェクトの意義についてご紹介したいと思います。

1967年のASEAN結成以来、アジアでは、通貨、金融、貿易、投資など経済分野を中心に、ASEANを中核とするさまざまな地域協力・地域統合の枠組みが提唱され、模索されてきました。そして昨年(2007年)、ASEANは、2015年までに経済、政治・安全保障、社会文化各分野にわたる共同体構築をめざすことを決定し、ASEAN憲章を制定しました。

ASEANは、東アジアの統合をめざす日本にとって、そのハブとなるものであり、ASEAN統合は日本の利益に直結するものです。そのような認識の下に、日本は、2005年、ASEAN支援策の一つとして「ASEAN統合基金」を設立しました。

他方、アジアにおける地域統合の進展に伴い、国境を越えた人、物、金、情報の流れが加速し、国境を越えた犯罪組織や地下経済の拡大・統合が進行するようになりました。また、これと並行して、テロ、海賊、武器・麻薬の密輸、人身売買、森林の違法伐採、感染症、資源枯渇、地球温暖化など、国境を越えた非軍事的脅威も増大しています。

これらの問題が、安全保障上の課題として受け止められるようになったのは、比較的最近のことです。それは、政府、国際機関、市民社会がこうした脅威を国家と国際社会の安全と平和に対する脅威と受け止めるようになったことによります。

EUでは、すでに1990年代から、これらの非軍事的な脅威の除去に向けた域内協力の推進が図られてきました。そしてアジアでも、近年、ASEANを中心に非伝統的安全保障の地域協力に向けた態勢作りが進められるようになりました。

こうした問題は、これまで安全保障は国際関係論、地域統合は国際協力論、感染症は医学、犯罪は犯罪学というふうに、個別に扱われてきたものです。しかし、すべて国境を越えた共通の問題であるという点に着目すれば、その対策は国家の対処能力の問題であるとともに、地域のガバナンスの問題でもあります。

このプロジェクトでは、通常、国家のガバナンスの観点から個別に論じられるこれらの問題を、グローバル/リージョナルなガバナンスという視点も加えて、非伝統的安全保障の問題として論じています。とりわけ、テロと海賊(海洋犯罪)、マネー・ローンダリング、森林違法伐採、鳥インフルエンザ、そして、これらの問題への対応策として政府開発援助を取り上げました。

そして、このような国境を越える共通の脅威に対して、東南アジア諸国はどのような対処能力を持っているか、どのような地域協力の枠組みがあるか、また日本の果たすべき役割は何か、その現状と課題について分析し、政策的含意を明らかにすることをめざしました。

その政策的含意とは何か。それは、日本にとって、東南アジア各国の対処能力向上を支援するだけでは十分でなく、ASEANを中心とする地域協力態勢の構築に向けて、日本がリーダーシップを発揮すべきということになります。このことは、この報告書で取り上げた個別の問題すべてに共通する結論です。

アジアにおける非伝統的安全保障の問題を、現地調査を行いながら本格的に分析した研究として、このプロジェクトは日本で初めてのものと当財団では自負しています。そして、この報告書が今後の研究の先導役となり、地域協力の枠組み作りの指針となることを期待します。

(政策研究部 片山正一)
    • 元東京財団研究員兼政策プロデューサー
    • 片山 正一
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