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名古屋市会議会報告会に参加して

April 21, 2010

東京財団研究員 兼 政策プロデューサー
大沼瑞穂

1.議会基本条例の報告

2010年4月16日、17日と名古屋市で初めて開催された名古屋市会議会報告会に参加した。名古屋市は、河村たかし市長の誕生で、10%減税や議員報酬や議員数を巡り、市長と議会の対立が一気に全国的にメディアで注目を集めるようになった市である。

初日16日夜に西区役所講堂で行われた会場には、新聞を見てかけつけたという主婦などおよそ80名の市民が会場を埋め尽くした。カメラ台が3,4台設置され、準備された記者席も満席であった。初めての議会報告会ということで、やや緊張した面持ちで、議長が口火を切り、報告会が始まると、市民たちは前方のスクリーンに映し出される画面に食い入るように、画面を見つめ始めた。

議会報告会は、名古屋市議会基本条例が、3月に制定されたことを報告する会として開催されたものだ。議長から、基本条例が出来上がるまでのプロセスを説明するとともに、基本条例のコンセプト(第一に、市民に開かれた身近な議会であること。第二に議会と市長は、それぞれが適切に役割を果たし、行政のチェックと市民の要望を反映した政策を実現すること。第三に、討議の場である議会審議の充実)などが紹介され、それに伴い議員年金の廃止決議や費用弁償の廃止などの議員がいかに議会改革に取り組んでいるかも紹介された。特に基本条例が出来上がるまでのプロセスにおいて、議会が有識者を招いての勉強会を公開で行った旨、またパブリックヒアリングの場を設けるなど、すべての過程がオープンであったかなどが強調された。

2.議員定数・議員報酬問題

一方で、報告会は、河村市長が提起している議員定数や議員報酬の問題に対し、議員の反論の場でもあった。たとえば、議員報酬については、主な政令市の議員報酬との比較表を提示し、「名古屋市は、必ずしも高くない、(横浜市:97万円、大阪市:96万9000円、神戸市:93万円、京都市91万2000円)、議員定数も議員一人当たりの人口は、だいたい3万人で、法定上限数よりも14.8%少ない。」など細かいデータが画面に提示された。10%減税にしても、「減税の対象にならない人が約40万人おり、減税額が最低300円から2150万円となり、金持ち優遇だ。」と批判し、報告会は、メディアを通じていかに議会側が市長の言い分に反論するか、という性格も帯びていた。

3.市民との対話

報告の後、市民側からも厳しい意見や、励ましの激励など、活発に意見表明がなされた。中でも、衆院選挙区に基づき、5か所のみで報告会が行われることについて、他の地区でもやるべき。会派にこだわらず、市民からの相談に乗ってもらえるような窓口を作ってほしいなどの要望が相次いだ。また、海外視察費や政務調査費など、議員の活動にかかる費用がどのくらいかかっているのか、という点についても厳しい質問があり、議員側は、こうした活動費についても、公表していくことを約束し、さらに、報告会の回数や場所などについても、今後はもっと多くの場所でできるようにしたいと応じていた。

議員側の真剣な姿勢は、議員と市民とのやりとりにも如実に表れていた。それは、初日の16日に会場から質問のあった議員報酬の具体的な数値の提示について、翌17日の会場では、報酬明細のコピーを開示して、年間の報酬は、1513万円だが、議員年金や税金、党費をひかれて手取りは、月額38万円程度になるなど、市民からの問い合わせに対しても迅速に対応していた点からも分かる。市長からの攻勢に、議会側も防御というよりも、積極的に市民への説明責任を果たそうという姿勢が伝わり、報告会が、見かけ倒しではなく、しっかりとした中身のあるものであることが分かった。

4.市長と議会の説明責任

そもそも、地方自治においては、首長と議員がそれぞれ個別に直接選挙で選ばれる二元代表制だ。市長が市民の信任を得ているのと同様に、議員もまた、直接、市民から選ばれ、信任を得ている。議会は、行政を監視、評価する立場にある。市長の提案に対し、議会が修正案や対案を出すということは、議会における議論を活性化させ、市民自治を高める。

これまで、総与党化で、市長と議会との議論が形骸化してきたことから見れば、河村市長のような市長の登場により、議会との議論が活性化されたことになり、議会は、むしろこうした市長の誕生を好機ととらえるべきである。議会が重い腰を上げ、市民からの信頼を得るために、市民と向き合う「議会報告会」を初めて開催したことは、市民自治の本来のあり方からも非常に意義深い。

河村市長の誕生が、議会に市民へ説明責任を果たすインセンティブを与えたことは少なからず事実であろう。しかし、市長側も、「選挙で選ばれたのだから」という枕詞だけで、やりたいようにやれないことに不満を表明するのは、二元代表制における民主主義を否定することになる。河村市長は、議会解散権がないと不満を述べていたが、議員内閣制でない以上、解散権がないのは当たり前のことである。二元代表制という仕組みの中で、民意を反映させる政策を作りあげる努力が市長にも求められている。

議員定数や議員報酬においても、数字が先にありきで、実態として、議員の活動に対する報酬はいかにあるべきかなどの議論、また議員の数を減らすことは、それだけ民意を吸い上げる窓口もまた減ることになることため、市民からの民意を吸い上げる機関としてどんなものが必要か。地域委員会がいいのか、それとも、議会報告会がいいのかといったことを合わせて議会で、議論していかなければならない。

民主主義は、不断に民主主義を実践していくことに価値がある。市長や議員が、日々の活動の中で、住民のためにいい政策を提示し、それに対して議論を重ね、その政策を研ぎ、結果、幅広く、住民に受け入れられるものをともに作りあげることが求められている。そして、なぜ、こうした政策ができあがったのか、という議会でのプロセスを幅広く市民に知らしめ、常に、市民の中に入っていき、民意をくみ取るという行為が、市長と議会、ともに求められている。

    • 元東京財団研究員
    • 大沼 瑞穂
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