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【アメリカ大統領選 論調Update第6回】トランプ・バイデン両候補の教育政策と黒人票のゆくえ(後編)
写真提供 Getty Images

【アメリカ大統領選 論調Update第6回】トランプ・バイデン両候補の教育政策と黒人票のゆくえ(後編)

August 25, 2020

世界が注目する2020年11月のアメリカ大統領選挙。アメリカ国内では今、何が論点となり、どのように論じられているのでしょうか。主要メディアによる記事や、シンクタンク報告書、学術論文の要点など、アメリカ国内の最新論調をわかりやすくまとめ、シリーズで紹介します。

 

前編では、今年の大統領選挙におけるトランプ、バイデン両氏の学校選択政策への姿勢を取り上げた。今回は学校選択政策が黒人有権者の動向と選挙結果に与える影響についての議論を分析したい。

ヒントになるのは2018年のフロリダ州知事選である。上院選においては長年フロリダ州選出上院議員を務めた民主党のビル・ネルソン氏に対し、現職知事であった共和党のリック・スコット氏が挑戦したが、空席となる知事選には民主党からタラハシー市長であったアフリカ系のアンドリュー・ギラム氏、共和党からは保守派のロン・デサンティス下院議員が出馬した。投票の結果、上院選は0.13%、知事選は0.4%の差でそれぞれ共和党候補が勝利した。

デサンティス氏は選挙戦中、黒人を含むマイノリティ有権者からの人気が低いトランプ大統領と「国境の壁」の建設を含む政策への支持を繰り返し強調したほか、対立候補であるギラム氏の政策を批判する文脈で人種差別主義的な隠語(dog-whistle)を使ったとして批判を受けた。にもかかわらず、デサンティス氏は黒人有権者の14%の票を獲得し、特に黒人女性の18%がデサンティス氏に投票した。全米における黒人女性有権者の共和党支持率は7%程度、またこの選挙の出口調査における黒人女性有権者の割合が8%程度であったことから、ギラム氏が獲得するとみられていた全体のおよそ0.8%の票がデサンティス氏に回ったと考えられる。この0.8%が激戦州フロリダの選挙結果を左右したのである。

フロリダ州の保守系政策シンクタンクであるマディソン研究所のウィリアム・マトックス氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した意見記事において、黒人の母親たちが学校選択政策に反対するギラム氏ではなく、知事として学校選択を拡大させたスコット氏や、同政策を強く支持するデサンティス氏に投票したことが選挙結果を左右したとの見方を示した。マトックス氏はさらに、デサンティス氏がラテン系有権者票の44%を獲得したことに言及し、学校選択政策へのマイノリティの支持が選挙結果に与える影響を強調している。

フロリダ州の地元紙タンパベイ・タイムズの記事は、黒人の民主党員が学校選択政策をめぐって大きく分裂しているものの、民主党への帰属意識が強いことから、同政策の強調が直ちにトランプ大統領への支持を高めることはないだろうとする政治学者の意見を引用している。しかし、1994年知事選で黒人票の6%しか獲得できず惜敗したジェブ・ブッシュ氏が、教育改革重視を打ち出し、州で初めてのチャーター・スクールの設置を働きかけた後の1998年知事選においては黒人票の14%を獲得し当選した事例を挙げ、さらに民主党候補者たちの左旋回を指摘して、この争点がトランプ大統領に有利に働く可能性があると論じている。

一方、ワシントン・ポスト紙の分析記事は、選挙当日に行われた別の出口調査や、黒人女性団体リーダーや政治学者への取材から、先述の18%という数字に疑問を投げかけており、黒人女性有権者における民主党への帰属意識と学校選択という共和党的な政策選好のジレンマを強調することは適切ではなく、むしろ政策選好のゆえに民主党を支持していると論じている。

学校選択政策は数ある争点の一つにすぎず、全米を舞台とする大統領選挙にどの程度影響するかは未知数である。しかし、2016年大統領選挙においては、トランプ氏はミシガン州をわずか0.3%の差で制している。このように両党の勢力が拮抗しており、かつチャーター・スクールに通う子を持つマイノリティ有権者が多数居住する大都市を抱える州では、政策選好によって生まれたわずかな得票差が結果を左右することは十分に考えられよう。

◆前編はこちら


 ◇参照記事◇

      • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
      • 宇野 正祥
      • 宇野 正祥

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