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ワシントンUPDATE バイデン氏勝利で、アメリカに何が起きるのか
写真提供 Getty Images

ワシントンUPDATE バイデン氏勝利で、アメリカに何が起きるのか

October 21, 2020

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員


11月3日のアメリカ大統領選挙が近づく中、バイデン前副大統領の勝利を予想する見方が次第に強まっている。しかし予想が確信に変わりつつあるにもかかわらず、選挙後をめぐる多くの重要な疑問に対する答えは得られないままになっている。さらに困ったことに、バイデン氏の勝利によって米国内の政治的な課題が解決される見込みは薄いと思われる。

トランプ大統領の政治的地位が低下していることは、有力な世論調査分析サイト「ファイブサーティーエイト(538)」の分析を見れば明らかだ。大統領選挙の選挙人の数(538人)にちなんで名づけられたこのサイトは、現在、バイデン前副大統領が勝利する可能性が高いと予測している。予測は4万回のシミュレーションの結果に基づいており、10月8日時点でのバイデン氏勝利の確率は85%、トランプ大統領勝利の確率は15%である[1]。15%だからといって、トランプ大統領に勝利の見込みが全くないわけではない。わずかながら7分の1を上回る確率であり、決してゼロではないのだ。10月8日までに、すでに560万人が期日前投票を済ませているが[2]、選挙当日までにはまだ時間がある。ちなみに2018年の中間選挙での有権者数はおよそ2億3,300万人[3]、そのうち有権者登録を行ったのは約1億5,300万人だった[4]

バイデン前副大統領が勝利すると仮定した場合、4つの大きな疑問が浮上してくる。すなわち、(1)選挙後にどの程度の混乱が生じるのか、(2)トランプ氏との得票差およびバイデン氏に対する信任の度合い、(3)民主党が上院で過半数を奪還できるか、(4)分裂状態にある民主党を束ね、米国を率いる能力がバイデン氏にあるのか、である。 

政治的な緊張

9月に行われた世論調査によると、今回の大統領選挙について、米国人の47%が「公正かつ正直」な選挙にならないだろうと予想。「誰が正当に選出された大統領であるかについて多く(の米国人)が同意しない」と答えた人の割合が50%超、さらにおよそ56%が「大統領選挙後に暴力事件が増加する」と回答した[5]。このようなネガティブな回答の主たる要因は、トランプ大統領が繰り返し疑問を呈している郵便投票である。そして情報源が何であれ、こうした類の統計は私たちを不安にさせる。選挙後に社会の不確実性が高まり、抗議活動や暴力事件が増えることは十分にあり得る、と示唆しているからだ。選挙がらみの抗議活動の規模や影響がどの程度になるのかは分からないが、大敗を喫した場合よりも僅差で敗れた場合のほうが、敗れた側の支持者による抗議活動は大規模なものになるだろう。 

僅差での勝利か地滑り的勝利か

その意味で、10月8日の「ファイブサーティーエイト」のシミュレーション結果は注目に値する。バイデン氏の獲得選挙人数について、トランプ大統領より上回る人数が201人以上の確率が37%、100~200人の確率が28%、100人未満の確率が20%とはじき出したのだ。また、4万回のシミュレーションのすべての結果を示した平滑移動平均線を見ると、バイデン氏は538人中400人をゆうに超える選挙人を獲得する可能性が最も高いと予測されている。

過去の多くの選挙において、これだけの得票差で勝利した大統領候補は、国民から強い信任を得ていた。獲得選挙人数400人という数字は、第二次世界大戦後ではアイゼンハワー大統領(1952年に442人、1956年に457人)と1988年のジョージ・H・W・ブッシュ大統領(426人)に匹敵し[6]、これを上回ったのは1972年に再選されたニクソン大統領(520人)とレーガン大統領(1980年に489人、1984年に525人)だけだ。しかもバイデン氏の勝利は、アイゼンハワー大統領やニクソン大統領、あるいはレーガン大統領の再選に比べてはるかに大きな価値がある。何しろ現職大統領を破っての勝利なのだから。

それだけに、獲得選挙人数が多いと、あたかもバイデン氏が国民から大きな信任を得たように見えるのだが、たとえ勝ったとしても、それはバイデン氏本人というよりは、トランプ大統領に代わる人物に対する信任かもしれない。バイデン氏はトランプ大統領の退陣を望む多くの共和党員から支持を得るだろう。しかし選挙でバイデン氏に投票した共和党員も、バイデン氏の政策アジェンダ、特に国内政策アジェンダは受け入れないはずだ。その一方でバイデン氏は、司法改革、気候変動、医療制度、移民、教育など、自分たちにとって優先順位が高い分野で結果を出してくれることを望む進歩派(左派)の民主党員の票も集めるだろう。こうした状況の中で政権を運営していくのは容易なことではない。 

上院で過半数を奪回できるか

バイデン氏が各分野で成果を上げられるか否かは、本人のリーダーシップと政治手腕次第だが、その他の要素、例えば上院の勢力図にも左右されるだろう。現在は53対47で共和党が上院の過半数を占めているが、大統領選挙後にどちらが多数派になるかは「予測がつかない」[7]という意見が多い。その一方で、民主党が多数派の座を奪い返す可能性が「わずかにある」[8]との見方も存在する。もし民主党が上院で多数党に返り咲いたら、注目されるのが、フィリバスター(議事妨害)などの議事進行上の手続きを食い止めるのに十分な議席数を確保できるかどうか(その可能性は極めて低い)、あるいは上院の規則を変更してフィリバスターを制限または廃止するかどうか(ただし将来再び少数派になった場合に民主党自身が制約を受けることになる)、という点だろう。民主党が下院の過半数を維持できれば、規則変更を行うことによって、立法化される法案はおのずと決まってくるだろう。 

勝利がもたらす困難

バイデン氏が勝利した場合の最後の懸念は、大統領選挙後に民主党が結束できるかどうかである。バイデン氏が勝てば、分裂の末に敗北した共和党員の今後について、さまざまな憶測がなされるだろうが、民主党も党内の大きな課題に直面することになるはずだ。意外かもしれないが、バイデン氏と民主党にとって、選挙で決定的な勝利を収めることは、僅差での勝利よりも脅威になる可能性がある。というのも、圧勝した政治家は往々にして自らの政治手腕や政策について自信過剰になりがちだからだ。だがバイデン氏と民主党議員が国民から強い信任を得たと考えて意見が分かれる政治課題に着手すれば、有権者の反発を招くことは確実だ。 

あるいは「2022年(の予備選挙)と2024年の選挙でも共和党に勝てる」と自信を強めた民主党の政治家や活動家が、「正しい」民主党員(それが中道派と進歩派のどちらを意味するかは個人による)が政権を担うことを求める可能性もある。そうなれば、閣僚、次官、裁判官の任命といった政権発足直後に必要となる意思決定はもとより、次の予備選挙などの中期的な課題に関しても、党内の分裂は避けられない。大統領に選出されたら、バイデン氏は分裂状態にある党をまとめ上げると同時に、少なくともいくつかの課題については反トランプの共和党員と協力し、国全体を巻き込んでいかなければならないが、そうすることによって進歩派を取り込むのは一層難しくなる。そして進歩派の取り込みに失敗したら、すでにバイデン氏を疑問視している多くの人々が失望するだろう。 

いずれにせよ、どちらが勝とうと米国内で意見の対立が当面続くことは間違いない。11月3日には打倒トランプの旗の下に大勢が結集しても、翌日にはさまざまな違いが噴き出してくるだろう。             

<2020年10月9日執筆>

オリジナル原稿(英文)はこちら

【編集部注:世論調査分析サイト「ファイブサーティーエイト(538)」の最新分析結果は<https://projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/>を参照ください。】

 


[1] https://projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/

[2]  https://thehill.com/homenews/campaign/519998-over-55-million-people-have-already-voted-over-70-times-more-than-2016

[3] https://www.pewresearch.org/2020/09/23/the-changing-racial-and-ethnic-composition-of-the-u-s-electorate/

[4] https://www.kff.org/other/state-indicator/number-of-voters-and-voter-registration-in-thousands-as-a-share-of-the-voter-population/?currentTimeframe=0&sortModel=%7B%22colId%22:%22Location%22,%22sort%22:%22asc%22%7D

[5] https://braverangels.org/yougov-poll/

[6] https://www.270towin.com/historical-presidential-elections/

[7] https://www.politico.com/2020-election/race-forecasts-and-predictions/senate/

[8] https://projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/senate/

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
    • ポール・J・ サンダース
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