本書は、オバマ政権の外交安全保障政策を、米中関係、日米関係、航行の自由、日中関係、エネルギー、サイバーセキュリティなどさまざまな角度から分析しながら、第1期オバマ政権の外交安全保障政策を検証します。
最近のアメリカの対中政策の推移を振り返ると、第2期ブッシュ政権後期からオバマ政権発足当初にかけて、「米中共同管理」(G2)が叫ばれるなど、アメリカは中国に対して融和的・協調的な姿勢を取っていました。その最大の理由は、目覚ましい経済成長を達成した中国市場への経済的利害です。ところが、急速に軍事力を拡大した中国が、南シナ海や東シナ海で強引な海洋進出を進めるようになると、周辺諸国との摩擦が表面化しただけでなく、アメリカが中国の軍事大国化に強い懸念を抱くようになりました。
一方、中東においては、イラク戦後処理の終了、ビン・ラディン殺害を受けたアフガニスタンからの米軍撤退など、アメリカは中東から戦力を削減する決定を行いました。オバマ大統領はこうした状況を受けて、中国の海洋進出に対抗するため、アジアに戦力をシフトする方針を決断しました。これが、「ピボット」あるいは「リバランス」という言葉で表わされるアメリカのアジア回帰政策です。
本書は、こうした米中関係の経緯と背景を深く掘り下げて分析し、アメリカのアジア回帰がアジア諸国、とりわけ日本に対してもたらす影響を考察します。また、現在アメリカで進行しているシェール革命が世界のエネルギー安全保障にもつ含意、原発の停止や核ミサイル誤射を狙う危険なサイバー攻撃のリスクが高まる中、日米はどう対処するかといった広義の安全保障の問題も本書で取り上げます。本書の各章は東京財団「現代アメリカ」プロジェクトの以下のメンバーによって執筆されました。
久保 文明 (東京財団上席研究員、「現代アメリカ」プロジェクト・リーダー、東京大学法学部教授)
「外交安全保障チーム」メンバー
泉川 泰博(中央大学総合政策学部准教授)
加藤 洋一(朝日新聞編集委員)
川上 高司(拓殖大学国際開発学部教授)
高畑 昭男(産経新聞論説副委員長)(チームリーダー)
土屋 大洋(慶應義塾大学政策メディア研究科教授)
新田 紀子(元外務省課長補佐)
渡部 恒雄 (東京財団上席研究員)
ポール・サンダース(センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事兼最高執行責任者)