2007年5月14日から26日にかけて、テネシー州ナッュビルとワシントン(DC)を訪れた。
今回の訪問では、「現代アメリカ研究プロジェクト」において、米国の保守派とリベラル派双方の最新の動向について、地方政治と大統領選という二つの視点から観察することが主たる目的であった。
ナッシュビルでは、テネシー州で2001年頃から増税反対運動を展開してきた二人の活動家、ベン・カニングハム氏(「テネシー増税反対運動」会長)、ドルー・ジョンソン氏(テネシー政策研究センター会長)に会うことができた。
当初は州所得税導入の動きに反対して運動が盛り上がったが、その後その時成立したネットワークが制度化され、こんにちでは増税反対運動活動家の会合と、宗教保守派なども加えた共和党保守系のさまざまな団体が集まる会合の二つが定期的に開催されている。
後者は、ワシントンの水曜会(「全米税制改革協議会」で開催されている)のテネシー版である。現在、同州では州財政は黒字ながら民主党知事が将来の教育等に備えることを目的にタバコ税の増税を提案しており、増税反対運動は当然ながらそれに強く反対している。
このような増税問題は、テネシー州共和党の主導権の交代ももたらしてきた。かつて州下院共和党の指導者は、穏健派のスティーヴ・マクダニエル氏であったが、増税に賛成したことも理由となってその地位を追われ、現在下院共和党は、保守派の若手二人が指導者となっている。面会したマクダニエル氏はそのたりの経緯も語ってくれた。
ちなみにカニングハム=ジョンソン両氏によれば、テネシー州の経済保守派の間では、ジュリアーニに対する支持が強いとのことであった。
他方で、テネシー州民主党の広報担当によれば、同州民主党員の間では北部の候補に対する猜疑心が非常に強く、資金調達でも一般的な支持でも、政策的には左であるにもかかわらず、ジョン・エドワーズに対する支持が強い。
ワシントンではNDNのいくつかの行事に参加した。NDNはかつてニュー・デモクラット・ネットワーク(New Democrat Network)と称し、PAC(政治活動委員会)として政治資金を調達し、民主党穏健派候補に配分していたが、最近名称をNDNに変え、団体の性格も内国歳入庁規則501(c)(4)に該当する組織に衣替えした。
このカテゴリーの団体だと立候補者に直接政治献金をすることはできないが、多様な活動を展開することが可能である。今回は会長のサイモン・ローゼンバーグ氏らとも直接インタヴューすることができ、そのあたりの経緯も聞いてみた。
PACとしての活動を止めた理由としては、それまで支援してきた下院民主党の議員集団である「ニュー・デモクラット連合」が独自のPACを立ち上げたため、もはやニュー・デモクラット・ネットワークからの資金援助を必要としなくなったこと、そして資金調達・援助以外の活動も展開したいと考えたためである。
NDNは、現在ブログなど新しい政治手法の開発に従事するシンクタンク的要素ももつ。ヒスパニックを対象としたテレビCMの開発も行う。政策メッセージとしては、以前同様中道派的であるが、支援対象はもはや中道派だけでなく、民主党候補者全員である。その意味で、民主党中道派の団体という性格規定はもはやあてはまらないともいえよう(拙稿「米国民主党の変容;「ニュー・デモクラット・ネットワーク」を中心に」『選挙研究』第17号(2002年)参照)。
大統領選挙との関係では、NDNの常務理事アリ・ワイゼ氏は、共和党候補の中で個人的にもっとも脅威と感ずるのは、ジュリアーニであると語った。
ワイゼ氏によると、民主党候補は、ヒラリー・クリントンであってもニューヨーク州を確保するためにお金を使わねばならず、ニュージャージー、ペンシルヴァニア、ミシガン、オハイオなど、場合によるとカリフォルニアですら、ジュリアーニは強さを発揮するであろう。なおかつ、南部ではほとんどの州で共和党が勝つ。
今回は、ナッシュビルという地方都市と米国政治の中心ワシントンという性格の異なる二つの町を訪れ、保守派・リベラル派の動向を分析する上で貴重な情報を得ることができた。
来年1月に予定される予備選挙、また11月の大統領選に向けて、両派の動向が共和党・民主党の選挙戦略にどのような影響を与えるか、見て行きたい。
研究プロジェクト・リーダー:久保文明