「現代アメリカ研究プロジェクト」 の海外在住メンバーの一人、渡辺将人氏(米コロンビア大学ウェザーヘッド研究所フェロー)が、このたび新著「現代アメリカ選挙の集票過程-アウトリーチ戦略と政治意識の変容」(日本評論社、2008年)を上梓されました。
渡辺氏は、米国シカゴ大学で国際関係論の修士号を取得後、1999年、民主党のジャニス・シャコウスキー下院議員事務所、2000年の大統領選挙では、民主党ゴア=リーバーマン陣営のニューヨーク州支部、そして上院議員選挙に立候補したヒラリー・クリントンの選対本部で、アウトリーチを担当した後、2001年からテレビ東京報道局政治部記者として活躍されました。
本プロジェクトには2007年4月の開始当初からメンバーとして参加、同年9月、テレビ東京を退社、コロンビア大学ウェザーヘッド研究所フェローとして再び渡米、2008年8月からは、ジョージ・ワシントン大学のガストン・シグール・センター客員研究員に就任することになっています。
本書は、著者が選挙の現場でスタッフとして働いた経験を基に、アウトリーチ活動というレンズを通してみたアメリカ社会の実像です。全体は、(1)アメリカの選挙と「アウトリーチ」、(2)人種の境界線と政治、(3)選挙民としての「エスニシティ」、(4)信仰と「価値」をめぐる相剋、(5)ポピュリズムとグラスルーツ、の5つの章からなっています。
アウトリーチ担当者の仕事は、選挙民の政治意識や文化的価値観の変化をいち早くキャッチし、それを反映したキャンペーンを展開して、選挙民を取り込むことです。その意味で、アウトリーチ戦略の動向を観察することが、現代アメリカ社会を理解する大きな手がかりになるというのが、著者の狙いです。
本書では、アメリカの選挙で集票戦略の要となっているアウトリーチ(有権者への働きかけ)、特に大統領選挙におけるアウトリーチ活動を詳細に分析しながら、人種(黒人)問題、エスニック集団の問題、政教分離の問題などをめぐる現代アメリカ社会の分裂と融合の構図を明らかにします。日本にアウトリーチを体系的に紹介する初めての試みでもあります。
2008年大統領選挙は、初の女性大統領候補と初の黒人大統領候補が民主党予備選を戦った歴史的な選挙となりました。本書は、その意義を理解するためにも、またオバマ候補の位置付けを考える上でも、大変参考になります。
そして、民主党オバマ、共和党マケインのいずれが大統領となるにせよ、今後のアメリカ社会と政治の関係を展望する上で、重要な鍵となる材料を本書は数多く与えてくれます。11月の本選を前に、是非一読をお勧めします。
また、渡辺氏が、当財団ホームページに掲載中の 「アメリカNOW」レポート にも注目していただきたいと思います。
(片山正一 プログラムオフィサー)