東京財団では、8月17日から3日間、アメリカ共和党の重鎮ギングリッチ元下院議長と同氏が顧問を務めるアメリカ外交政策評議会の一行を受け入れた。
ギングリッチ氏は、周知のように、1994年の中間選挙で「アメリカとの契約」という公約を掲げ、40年ぶりに共和党を下院多数派に導いた立役者で、1995年、下院議長に就任して減税や均衡財政など次々と改革を実現したことで知られる。
1999年に下院議員を引退した後も政治活動を続けており、2008年大統領選挙に出馬の動きがあったが、結局出馬を辞退した。ギングリッチ氏は現在も共和党の政策・戦略に大きな影響力を持っており、2012年の大統領選挙に出馬する可能性も噂されている。
そのギングリッチ氏がこの度、日本を訪問した。中国がアジアの大国として台頭する中で、米国の対アジア戦略を検討するため、日本、韓国、中国の3カ国訪問の最初が日本だった。日米同盟の将来や日本の国際的役割などについて、日本の政治家・政策担当者と意見交換することが目的である。
あいにく来日したのが総選挙の公示日というタイミングであったため、政治家との意見交換は実現しなかったが、逆に、政権交代前夜の日本の政治状況をつぶさに観察することができたことは、一行にとって大きな収穫であったろう。
外交・安全保障政策については、外務省、防衛省の政策担当者、そして民間の専門家との間で率直な意見交換を行うことができた。これらは非公開で行われたが、公開イベントとして東京財団では講演会を開催したほか、記者会見やインタビューも行った。
講演会では、科学技術の飛躍的進歩、中国とインドの台頭、文明破滅の脅威という三つの現実を軸に、政治、経済、安全保障、科学、文化など幅広い分野の問題について、共和党保守派の面目躍如たる主張を繰り広げた。
とりわけ、中国とインドという巨大な競争相手の出現により、日本は、明治維新、戦後の高度成長に続く歴史的大改革が必要だというギングリッチ氏の忠告には、謙虚に耳を傾けるべきだ。
非公開で行われた意見交換の場では、問題の核心を突く問いを投げかけ、日米論客の知的真剣勝負の趣すら感じられる場面が多かった。これだけのスケールの大きい政治家が日本にいるだろうかと考えさせられた次第である。
ここでは、講演・質疑応答の抜粋を紹介したい。その主張に賛同するかどうかは別にして、ギングリッチ氏の首尾一貫した説得力のある論調はご理解いただけると思う。また随所に歴史家としての見識を窺うこともできるだろう。
おわりに、ギングリッチ氏の講演に先立ち、当財団上席研究員で東京大学教授の久保文明氏が、ギングリッチ氏の政治家として経歴と実績を詳細に紹介し、講演のバググラウンド情報を提供してくださったことに感謝の意を表したい。