オバマ大統領の支持率が低迷するなか、共和党はそこそこに強い候補を立てることができれば、2012年大統領選挙をかなり有利に戦えそうな状況である。しかし、共和党においては、本選挙の帰趨を左右する支持政党なし層に最もアピールするミット・ロムニーの支持率が、予備選挙・党員集会に向けた世論調査において伸び悩んでいる。
それは、党内右派のティーパーティー運動支持者が、ロムニーを忌避しているためである。ティーパーティー運動は支持する候補を次々と乗り換えて一本化できず、世論調査の数字が乱高下している。ペンシルベニア州のレンデル知事が指摘するように、共和党の大統領候補選びの失敗があれば、オバマに勝機は残されている(『ワシントン・ポスト』11月6日)。
2012年の共和党の大統領候補選びにおける混戦に拍車をかけるのが、州ごとの予備選挙に関する2つのルール変更である。まず第一には、予備選挙・党員集会日程の前倒し傾向が是正される。2008年の共和党大統領候補予備選挙においては、30の州が2月5日またはそれ以前に代議員の選出を終えていた。これに対して、2012年の代議員選出ルールは、4つの州(アイオワ、ニュー・ハンプシャー、ネヴァダおよびサウス・キャロライナ)を除いて、3月の第一火曜日以前の予備線選挙・党員大会を認めない。
新ルールに従わずペナルティー(代議員数の半減その他)を覚悟で3月の第一火曜日以前に予備選挙・党員集会を行うフロリダ、ミシガンなどの州もあるものの、2008年と比較して全体的には選挙日程の前倒しは大幅に是正されている。
ただし、1月31日に予備選挙を強引に設定したフロリダ州が攪乱要因となり、アイオワ、ニュー・ハンプシャー等最初の4州の日程は、2008年並みに年明け早々からのスタートとなっている。
二つ目の改革は、勝者総取り方式の部分的見直しである。共和党の大統領候補予備選挙は、得票数に比例して代議員割り振る民主党とは異なって、相対1位の候補が、州または選挙区の代議員を全部さらっていくというやり方であった。
これに対して2012年の大統領選挙から、1-3月の序盤戦の予備選挙に限って、何らかの形で得票数に比例して議員数を割り当てる方式に変更した。予備選挙の長期化への懸念と選挙の活性化への期待の両面の意見が出て、今回の形になったと報じられている。
新方式では、1-3月の得票数比例式のフェーズにおいて、ある程度票が割れて、序盤戦で勝者が確定する可能性が低くなる。これに対して4月以降は、勝者総取りが解禁されるので、その時点での首位の候補に有利となり、2008年の民主党の予備選挙のような長期化は避けられるという制度設計である。
ただし、デビッドソン大学のジョシュ・パットナムによれば、得票数比例方式導入の影響は識者から過大評価されている。得票比例と言ってもいろいろあり、例えばミシガン州のように得票数の割に首位者の獲得する代議員数が多い方式を踏襲するケースもみられるため、2008年と比べて大きく変わったとは言えない。
『ワシントン・ポスト』は、共和党の各候補の州別訪問回数を集計しているが、予備選挙・党員集会が真っ先に行われるアイオワ州およびニュー・ハンプシャー州に候補の訪問が集中する傾向に変化はない。予備選挙・党員集会の制度は改革されたものの、緒戦の勝利の勢いで他候補を突き放すという、基本的な選挙戦略は変わっていないのだ。
予備選挙序盤戦は、アイオワ、ニュー・ハンプシャーなど小さな州が多く、それぞれにおいて選ばれる代議員数は、代議員数総数の1-2%に過ぎない。ここで負けても、算術的には大勢に影響は無い。しかし、勝ち馬に乗るという力学が予備選挙では強く働くため、緒戦の勝利の勢いに乗った候補に対して、支持と献金が雪だるま式に集まる傾向がある。こうした代議員数に関係ない、緒戦の勢いの力学ゆえに、たとえ代議員数半減のペナルティーを課せられても、強引に予備選挙を1月に設定するフロリダのような州も現れることになる。
このように、緒戦偏重の力学は不変であり、また、勝者総取りの見直しも部分的ではあるものの、細かく見ていけば注目点もある。1月末に勝者総取りの予備選挙を行うフロリダ州における勝敗が、2012年選挙においては結構重要かもしれない。最新の世論調査(American Research Group)は、ニュート・ギングリッチ候補がかなり優勢であることを示しており、たとえロムニーが重点州としているニュー・ハンプシャーおよびネヴァダで勝利しても、フロリダで負けると出鼻をくじかれる可能性がある。
3月の予備選挙は、右派の候補に有利な南部やロッキー山脈地帯の保守的な州が多い。これに対して、穏健派のロムニーに有利な北東部や西海岸の州の予備選挙は、4月以降まで待たなくてはならない。父親が知事だったミシガン州における序盤戦での優位もあるとは言え、フロリダで負けると中盤戦が苦しくなるかもしれない。
もっとも、右派に有利な予備選挙の前半においては、得票数比例方式により票が割れ、ロムニーが優勢と考えられる穏健な北東部等の後半戦は勝者総取りであるため、ロムニーに有利な面もあるという見方も無いではない。(『ナショナル・ジャーナル』(2011年9月22日))
しかし、上述のパットナムが指摘するように、共和党の場合は民主党のような純粋な得票数比例ではない。3月の予備選挙・党員大会は保守的な州が多いことから、もしも序盤戦において党内右派の候補がブレークすると、ロムニーには苦しい展開になる可能性がある。
ただしその場合も、他の候補と比べて際立った安定感および抜群の自己資金力から、ロムニーは終盤まで戦い抜くものと考えられる。また、予備選挙首位の候補は、他の候補の集中砲火を浴びるし、メディアの詮索が集中する。このため、首位に躍り出ず持久戦を闘うのは、必ずしも悪くない面もある。