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アメリカ大統領選挙UPDATE 4:なぜリック・サントラムが善戦しているのか?(中山 俊宏)

March 19, 2012

リック・サントラムが善戦している。3月13日には南部のミシシッピーとアラバマの予備選挙を制し、ようやくロムニー対サントラムの一騎打ちという構図におさまりつつある。13日の時点で、獲得代議員数はロムニーが495人、サントラムが252人とロムニーがかなり引き離しているが、ロムニーの勝利とするには不十分だ(nytimes.comによる数字)。

「最も脆弱な筆頭候補」でありながらも、どうにかロムニーがそのポジションを維持してきたのは、予備選挙を通じて一貫して保守派が割れていたからだった。ハンツマンを除けば、他はみな保守派の支持を当てにした候補だった。しかし、ケイン、バックマン、ペリーと保守系の候補は次々と脱落し、なにがなんでも最後まで戦い抜くであろうポールを除けば、ギングリッが唯一サントラムの前に立ちはだかっている存在であった。しかし、そのギングリッチも地元ジョージアは制したものの、近隣州であるミシシッピーとアラバマを落とし、ますます説得力を欠く存在になりつつある。彼が、とどまり続けるのは、今後の講演料やテレビ出演料をつり上げるためだというシニカルな見方もあるようだ。

ロムニー陣営は、一時、ギングリッチの猛追に危機感を感じ、総動員でギングリッチを潰しにかかったが、いまはむしろ、保守票を一本化させないためにも、ギングリッチに粘ってもらいたいと感じていることだろう。まったくの推測だが、オバマ陣営としては、ロムニーとサントラムの一騎打ちで双方が右旋回する中で傷ついていけばと考えているに違いない。当然、予備選挙で共和党候補たちが右旋回すればするほど本選挙では戦いにくくなる。オバマ陣営が、不思議とサントラムについては沈黙を続けているのも、偶然のようには思えない。

今回の予備選挙では、有権者の関心は経済に向かい、いわゆる「ソーシャル・イシュー」は後面に退いていた。信仰を生活の中心におくと明言するサントラムにとって「ソーシャル・イシュー」はまさに最重要領域である。皮肉なことに、それを前に引っ張りだしたのはオバマ政権が医療保険との関連で避妊(コントラセプション)に関してとった一手だった。政治陰謀論好きは、これこそオバマ政権一流の「シカゴ・スタイル」だと感心している。

改めてサントラムの支持率の推移を振り返ってみると、今年の一月までは一貫して5%以下であったのが、一月上旬に90度に近い角度で上昇し、一気に16%強まで上昇、二月中旬には34%強にまでその数字を伸ばしている(RCP全国平均)。その後、若干数字を下げてはいるものの、南部では安定した強さを見せている。特にブルーカラー層、低学歴層、あと自らを「とても保守的(very conservative)」と規定する層の間で強い。意外なのは、ティーパーティ運動や宗教票の読み方が難しいことだ。前者は、必ずしもサントラム支持ではなく、比較的きれいにロムニーと半分に分かれている感じだ。これは仮にティーパーティ運動が財政規律に最大の関心を寄せるグループであるとするならば説明がつく。だが常々、この運動は潜在的には宗教右派と重なるともいわれてきた。後者の場合、州によって異なるが、プロテスタントかその他のキリスト教の有権者の間では首位が「カソリックのサントラム」、カソリックの間では「モルモンのロムニー」という錯綜した構図さえある。一般にカソリックはスイングボーターである場合が多く、またプロテスタントを福音派(=宗教右派)と読み替えれば、理解できなくはないが、転倒しているには違いない。

とはいえ、軽量級と見なされてきたサントラムがここまで勢いづくことができたのは、彼が宗教右派の関心に訴えることができたからだろう。加えて、ロムニー的なエリート性とは対極のイメージを喚起できることもプラスに作用した。その象徴が、サントラムのトレードマークになった感のある「チョッキ」だ。中絶や同性婚の問題に関し、彼は躊躇なく自分の立場を述べる。ケネディの「政教分離」に関する演説も、読んだ後は気分が悪くなったとさえ述べている。サントラム支持者の間では、彼の「原理的中絶反対論」は、抽象的な理念ではないと見られている。というのもサントラム家は、その結果、難しい状況を引き受けているからだ。2008年、サントラム家に8人目の子供が生まれ、その子は「エドワード・シンドローム」という致死的な心疾患を多発する障害もっていたが、一家はその子の誕生を受け入れた。選挙中でさえも家族全員でその子を支えようとする姿は、硬直したイメージしか打ち出せないロムニーとは好対照をなしている。

他方、共和党の中でさえ、ソーシャル・イシューに関し、強い立場を取りすぎることは負の影響をもたらしうる。サントラムはインタビューなどでこの問題について問われると、逃げるどころか自ら深追いしてしまう。それが、サントラムの「保守的急進性」を際立たせてしまっていることも事実である。しかし、潜在的には、このグループは共和党保守派を草の根レベルで下支えする強固な組織票である。それを味方につけたことが、サントラムを押し上げていることは否定できないだろう。

今回の共和党予備選挙では、ロムニーが筆頭候補であるという構図を否定しようとする衝動が唯一の一貫する要素だと評される。しかし、最後に出てきた「ノン・ロムニー候補」であるサントラムは、少なくとも、これまでのノン・ロムニー候補たちと比較すると、単に「ロムニーでない」というだけではなく、自分自身に対する支持を取りつけることに一定程度成功しているようだ。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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