アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「「副大統領」という名の選挙戦術:ロムニーの伴走候補について」(西川 賢) | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「「副大統領」という名の選挙戦術:ロムニーの伴走候補について」(西川 賢)

July 2, 2012

1964年以降の大統領選挙をみると、選挙年5月の支持率と11月の本選挙の結果の間に緩やかな相関関係があり、これが選挙結果を予測するのにある程度役立つという指摘がある。オバマ大統領の5月の支持率が47%であることを過去のパターンと重ね合わせて考えれば、11月のオバマの得票率は51.6%になると予想され、オバマはかろうじて再選される可能性があるという。しかし、過去の選挙結果を見ると予想を下回る得票結果に終わった例も多くあり、経済の先行きなどを考慮すれば、オバマの得票率が51.6%を下回る可能性も大きい *1

11月の選挙でオバマとロムニーのどちらが勝利を収めるにせよ、恐らく2012年選挙がかなりの接戦になることに疑いの余地はないのではないだろうか。言葉をかえていえば、決して当選の可能性が低いとはいえないであろうロムニーにとって、今後の選挙戦術の有効性が問われる状況にあるということでもある。

アブラモウィッツはオバマを支持している有権者層は有権者登録を行なっていないものが多く、逆にオバマを支持していない層は浮動票となる可能性が高いと述べている。仮にこれが正しいとすれば、オバマの選挙戦術は有権者登録を高めるために彼らを「説得」(Persuasion)することが中心となり、ロムニーの場合は浮動票を自らの側に少しでも「動員」(Mobilization)する選挙戦術を重視することになるであろう。この「動員」対「説得」という選挙戦術の対比は興味深い視点である *2

そこでまず注目されるのは、ロムニーが誰を副大統領に選ぶのかという問題であろう。よく知られているように、副大統領候補の選定にあたっては正副大統領候補の組み合わせ(チケット)を慎重に考慮し、地理的条件、政治信条、信教、人種・社会階級、性別、学歴・軍歴、知名度、或いは私生活など様々な条件を見極めてバランスをとった上で決断がくだされる。渡辺将人も指摘するように、副大統領候補は大統領の欠点や苦手としている票田を補完する役割を期待されており、有権者が副大統領候補で投票を決めることはなくても、大統領候補の評価には関係するからである *3

かつて1950年代までは大統領選挙人の数が多い州やスイング・ステイツの票獲得を目指して副大統領候補が選ばれる傾向が強かったが、現在ではそのような限られた州に対する集票効果を見込んで副大統領を選ぶという傾向は影を潜めている。かわって、現在では副大統領候補がより広い階層や地域にアピール可能であることが重視されるようになった。つまり、副大統領選出過程において、どの候補にとってもより大局的な見地からの「戦略性」が求められるようになってきているといえよう *4

ロムニーはすでに5月の終わりまでに代議員の過半数にあたる1144人を獲得している。これにより混戦模様となっていた共和党予備選挙に完全なる終止符が打たれた。しかし、予備選挙の時点で浮き彫りになってきたのは、ロムニーが抱える選挙戦略上の弱点でもある。

クック・ポリティカル・レポートは独自の集計をもとに、予備選挙の結果と州ごとの党派的傾向を重ね合わせて考えてみよう。ロムニーが予備選挙の段階で他候補に対して苦戦を強いられた州には、サウス・カロライナ(得票率27.8%)、ノース・ダコタ(同23.7%)、ジョージア(同25.9%)、オクラホマ(同28%)、テネシー(同28.1%)、カンザス(同20.9%)、アラバマ(同29%)、ミシシッピ(同30.6%)、ルイジアナ(同26.7%)といった諸州が含まれる *5 。ここで共和党予備選挙におけるマケイン(2008年)とロムニー(2012年)の得票率の差を比較してみよう(表参照) *6

クック・レポートの分類では、上記の表の中にある州の多くは共和党支持が盤石な州(Solid Republican States)や共和党支持が強い州(Likely Republican)とされている *7 。マケインは2008年の共和党大統領候補者の中では異質な議員として知られていた。マケインは共和党内において宗教保守から距離を置いていたことで知られていたが、2008年の共和党予備選挙における上記の諸州におけるマケインの苦戦は、宗教保守の間での不人気に起因するものであろう。ここであらためて表を眺めてみると、それらの州においてロムニーは2008年のマケイン以上に苦戦を強いられていることが見て取れる。宗教保守から十分な支持を調達できているとはいえない状況にあることは、本選挙においてもロムニーが抱える深刻な課題であるといってよいであろう。宗教保守の「動員」を重視すれば、当然のことながらロムニーは、例えばティム・ポレンティ、マイク・ハカビー、ボブ・マクドネルなど、宗教保守に受けが良い人物を副大統領候補に選ぶものと推察される。

また、それ以外にもギャラップの調査を参考にすると、オバマはアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系などの非白人層、大学院以上の教育を受けた高学歴層(postgraduate)、宗教への関心が薄い層の間でロムニーに差を付けている。ロムニーが自らに対する支持を確実なものとしているのは白人が中心であり、それも男性、30歳以上の壮年層、信仰心の高い層、既婚者層などに集中している *8 。これら以外の有権者層、例えば女性票やヒスパニック票を更に「動員」しようと思えば、ロムニーにとって、女性やヒスパニック系にアピール可能な人物を副大統領候補に据えることが合理的な選択となろう。

また、クック・レポートによれば、2012年選挙におけるスイング・ステイツ(Toss Up)は9州ある(コロラド、フロリダ、アイオワ、ネヴァダ、ニュー・ハンプシャー、ノース・カロライナ、オハイオ、ペンシルヴェニア、ヴァージニア;アラン・アブラモウィッツはこれにミシガン、アイオワ、ニュー・メキシコ、ヴァージニア、ウィスコンシンを加えている)。無論ではあるが、ロムニーにとってこれらの州における浮動票の獲得も重要な意味を有する。

さらに、2012年の選挙では「ウォールマート・マム」(Walmart Moms)と呼ばれる、18歳以下の子供を持ち、ウォールマートで月一回は買い物するような主婦層が重要な浮動票であるといわれる。

そう考えると、渡辺将人とのインタビューでジョン・ギジが指摘しているように、ニュー・メキシコ州知事であるスザナ・マルチネスなどは、ヒスパニック系にも女性票にもアピール可能な候補という点で魅力的であるように思える。渡辺も指摘するように、メキシコ国境のサンベルト地域のヒスパニック系コミュニティ内においては後発の不法移民への苛立ちという「内部分裂」が生じており、副大統領候補いかんで共和党は民主党優位のヒスパニック票へアピールも可能である *9

ただし、知事を一期しか務めていないマルチネスにどの程度の経験や手腕があるのかを疑問視する声も聞かれる。さらに他ならぬマルチネス自身が家族の病気を理由に副大統領候補に指名されても受諾が困難であるとの見通しを示したとされる *10 。同じくヒスパニック票にアピール可能なネヴァダ州知事のブライアン・サンドヴァルも政治経験に乏しく、人工妊娠中絶に関してプロ・チョイスの立場をとっている点はロムニーにとってマイナス材料なのではないか。ジェブ・ブッシュもスイング・ステイツの一つフロリダ、そしてヒスパニック票の獲得が見込めるという意味では面白い存在であるが、ブッシュ前大統領の実弟である点が障害であろう。コンドリーザ・ライスは副大統領候補にあがっている人々の中では外交経験が豊富といえる唯一の存在であり、エスニック・グループ票や女性票の獲得にはある程度貢献するかもしれない。だが、サンドヴァル同様、ライスはプロ・チョイスである点などが問題視されよう。ケリー・エイヨットは女性票にアピールするであろうが、カトリックである点と政治経験の乏しさなどは懸念される点であろう。

このほかにも、副大統領候補に名前が挙がっている人物のうち、マルコ・ルビオ、クリス・クリスティ、ランド・ポールなども政治経験に比較的乏しい人物であることは懸念材料に違いない。ロムニー自身の政治経験も決して豊かとはいえない状況の下で副大統領候補にも経験の浅い人物を選ぶことはリスクを伴う。その点、議員経験が比較的長く、政策通であるポール・ライアンは魅力的な候補のように思えるが、下院議員が副大統領候補に選ばれるということ自体あまり例がない。ボビー・ジンダルは宗教保守に受けが良いであろうが、スイング・ステイツの多くや女性浮動票、ヒスパニック票を固める効果を発揮するとは思いがたい。同じくインディアナ州知事のミッチ・ダニエルズはパデュー大学の次期学長に選出されており、すでに副大統領候補からは外れているともいわれている。

副大統領選びが《戦略》である以上、候補者を選び間違えばそれが大統領候補にとっての致命傷となりかねない。ロムニーは石橋を叩いて渡るような性格の持ち主であることで知られており、副大統領選びに関しても大きな「冒険」には踏み出さないのではないかという見方をするものは多い。例えば、ラリー・サバトはロムニーの副大統領選びについて、スイング・ステイツであるオハイオ出身のポートマンが政治経験もあり保守派の受けも良く、目立った瑕疵がない(do-no-harm-candidate; safe pick)という点に注目しているが、これなどもロムニーの慎重な性格を考慮に入れての分析であろう *11 。いずれにせよ、2008年のペイリンが記憶に新しいように、副大統領の経験不足や過去の経歴、あるいは失言などが足を大統領候補の足を引っ張る結果になった例は過去にも存在する。この点、「ルース・キャノン」(loose cannon)とあだ名されるクリスティは、言動の点で副大統領候補としては制御し難い人物として忌避される可能性もある。

アブラモウィッツもロムニーの副大統領候補の予想トップにロブ・ポートマン上院議員をあげ、それ以下にティム・ポレンティ、ジョン・スーンを好意的に取り上げている。スーンは2004年の選挙で民主党上院院内総務であったトム・ダシュルを破った注目株であるが、全国的知名度があまりなく、地元州は戦略上さほど重要とは思われないサウス・ダコタである。また、ロムニー=ポレンティのチケットは外交政策の面で経験不足の印象を与える。この点、白人でありブッシュ前政権とのつながりが深い点が懸念されるポートマンであるが、多くの点でまさに「無難な」候補であるといえ、ブッシュ前政権とのつながりも大きく問題視される程の欠点とはいえないのではないかとアブラモウィッツは分析している *12

ロムニーがいずれの人物を副大統領候補に据えるかは現時点では全くの未知数といわざるを得ない。しかし、ロムニーがどのような人物を副大統領候補に選ぶかによって、ロムニーが今回の選挙で何を重視しており、どのような視野に立ち、どのように自らが持つパワーとリソースを組み合わせて大統領選挙を勝ち抜こうとしているか(まさにロムニーの選挙戦術)が浮き彫りになるであろう。今後一ヶ月あまりの間、ロムニーの副大統領候補決定から目が離せそうにない。


*1 :Alan I. Abramowitz, “What does President Obama’s May Approval Rating tell Us about his Reelection Chances?” Sabato’s Crystal Ball, May 23, 2012.
*2 :Alan I. Abramowitz, “Persuasion vs. Mobilization: Obama and Romney’s Swing State Strategy,” Sabato’s Crystal Ball, June 7, 2012.
*3 :渡辺将人「ロムニーはオバマに勝利できるか?センス問われる副大統領候補者選び」『Wedge Infinity』2012年5月2日。
*4 :Joel K. Goldstein, “Veepもtwatch, Part 1: The Swing State Selection Myth,” Sabato’s Crystal Ball, April 5, 2012.
*5 :共和党予備選挙の得票率はニューヨーク・タイムズに依拠している。
*6 :2008年のデータはCNNを参考にしている。
*7 :The Cook Political Reportよりデータを得た。
*8 :“In Tight Race, Both Obama, Romney Have Core Support Groups,” Gallup, May 10, 2012.
*9 :渡辺将人「ロムニーはオバマに勝利できるか?センス問われる副大統領候補者選び」『Wedge Infinity』2012年5月2日。
*10 :“N.M. Gov. Martinez adamant she won’t be VP pick,” USA Today, April 9, 2012.
*11 :Larry Sabato, Kyle Kondik, and Geoffrey Skelly, “Veepwatch, Part 2: First Do No Harm ? Our VP Contenders,” Sabato’s Crystal Ball, April 12, 2012.
*12 :Larry J. Sabato and Kyle Kondik, “Veepwatch 2.0: Boring? All the Better,” Sabato’s Crystal Ball, June 21, 2012.

    • 津田塾大学学芸学部教授
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