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アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「右派言論人・コラムニストの大統領選挙をめぐる評価2」(中山 俊宏)

July 2, 2012

米国ではイデオロギー的座標軸上で、自分の立場をはっきりと定めた上で言論活動を行っている人が多く、不偏不党の立場からの発言というのはどこか空虚に響いてしまう。自分の「立ち位置」をはっきりと示した上で、いかに説得力ある言論を展開できるかが、言論人の評価を定めるといえよう。その意味で、右派から一目おかれる左派もいれば、左派が慕う右派言論人もいる。その評価は議論の明快さと洗練さの度合いによって決まってくる。

彼らはアメリカが選挙の季節に突入していけば、当然の如く選挙について語りだす。近年は、ブログやツイッター、その他ソーシャル・メディアが発言のプラットフォームとして影響力を増しているが、依然として旧メディア、もしくは旧メディアが立ち上げたホームページが重要な媒体となっている。

保守派の間での空気を知りたければ、ナショナル・レビュー誌、ウィークリー・スタンダード誌、アメリカン・コンサーバティブ誌、アメリカン・スペクテーター誌、ニューズマックス誌、コメンタリー誌などの保守系オピニオン雑のホームページをざっと見渡せばおおよその雰囲気はつかめる。

大手新聞社の多くは、それぞれ保守系のコラムニストを擁しており、彼らの発言は、保守系のサークルを超えて響き渡る。リベラル派のニューヨークタイムズ紙は、デイビッド・ブルックス、ロス・ダウサットの二人、ワシントンポスト紙は、ジョージ・ウィル、チャールズ・クラウトハマー、マイケル・ガーソン、キャサリン・パーカーなどがいる。ウィルは、ウィリアム・バックリー・ジュニア亡き後、保守言論界の錨のような存在である。この他にも、ペギー・ヌーナンを擁するウォールストリート・ジャーナル紙のオピニオン欄は、おそらくもっとも安定した保守派のプラットフォームであろう。この他にもワシントンタイムズ紙などが、保守主義に深く傾斜していることで知られている。

今年の大統領選挙を念頭におきながら、これらの媒体を日々観察しているとはっきりとした特徴が浮かび上がってくる。それは、共和党の事実上の候補であるロムニーへの言及がごく限られ、オバマ大統領への批判が際立っていることだ。ロムニーが共和党予備選挙で勝利を固めて以降、同氏は世論調査でははっきりと数字をあげ、オバマ大統領と拮抗するところまで態勢を立て直したかのようにみえる。一般的な評価も、近年稀にみる接戦と見る向きが多い。

しかし、保守言論人の間では、ロムニーを心底応援しようとする雰囲気はない。ペギー・ヌーナンは、保守派の間に蔓延するロムニーに対する不安を見事に言い当てている(Peggy Noonan, “Once More, With Meaning,” Wall Street Journal, June 22, 2012)。ヌーナンは、共和党員の多くは「お願いだからヘマをしないでくれ」と祈るような気持ちでロムニーを眺めているという。彼らの多くは、オバマが勝てるはずはないと思いつつも、ロムニーが負けることはありうると考えているようだ。ヌーナンによれば、それは、ロムニーのキャンペーンにまだ「意味」がないからだという。なぜ、ロムニーは大統領になりたいのか、大統領になってなにをしたいのかがまだ国民の間に浸透していないとしている。

伝統保守派(paleoconservative)のポール・ゴットフリードはもっと露骨だ。「右派」を自称する人々は、ロムニーを「オバマよりはいい」とやむを得ず受け入れているに過ぎないという。ゴットフリードは、自分が知っている「右派(right-winger)」は、ロムニーがいかに自分が保守派だと連呼しても(彼は自分のことを「fierce conservative」とさえいっている)、ロムニーとは自分たちが抱く世界観を共有できないと信じきっているようだ(Paul Gottfried, “An Echo, Not a Choice,” American Conservative, June 15, 2012)。

アメリカン・スペクテーター誌に寄稿したウィリアム・タッカーは、なぜロムニーが有利かという趣旨の議論を展開しつつも、最終的には「コミュニケーター」としての資質を徹底的に欠くロムニーへの不安を隠さない(William Tucker, “It’s Still Romney’s to Lose, But He really Needs to Work on Delivery,” American Spectator, June 22, 2012)。

夏前の大統領選挙は表面的には小康状態に入る。したがって、メディアはもっぱら副大統領候補の選定に焦点をあてることになる。近年、副大統領候補は、大統領候補が欠いている要素を補完する役割をもめられることが多い。副大統領候補の選定で選挙の勝敗が決まった事例はほぼないということを過去のデーターは示しているが、国民の間でもランニング・メートへの関心は低くはなく、当然メディアの焦点もそちらに向かう。ロムニーに関しては、保守派はほぼ一貫して、ロムニーの保守イデオロギーの欠如を補完する人物の選定を強く希求している。しばしば時流に抗するジョージ・ウィルはこの点についても他とは異なった議論を展開する(George F. Will, “What Romney Needs in a Running Mate, ” Washington Post, April 6, 2012)。ロムニーに必要なのは、「保守派のスター」ではなく、「政府が肥大化した社会」を逆方向に向けるためにも、政策の詳細に通じた知的能力の高い人こそが必要だと述べている。副大統領候補選びが盛り上がりを見せているのも、毎回恒例のイベントではありつつも、ロムニー自身がいまひとつ保守派から信頼されていないことの表れと見なすことも出来るだろう。

右派言論人の間でのロムニーに対する消極的な支持が今後より積極的な支持に変わっていく見込みはどの程度あるのか。予備選挙で右旋回しても充分な信頼を勝ち取ることができなかったとすれば、今後本選挙に向けて中道旋回していくことがある程度必至ということであれば、道のりはかなり険しいといえるだろう。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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