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インターネットとアメリカ政治「シンクタンクはSNSを使いこなす」(横江公美)

August 5, 2014

私は、2011年7月から2014年6月までワシントンDCの大手シンクタンクの一つヘリテージ財団に、上級研究員として在籍した。

その待遇は、信じられないほどアメリカ人と同じで、毎週月曜日の会議や上級研究員だけが招待されるヘリテージ財団内の会議やレセプションに参加できるだけではなく、安全保障を含むすべてのヘリテージ財団内のEメールリストにも入っていた。

日本人としてだけではなく、外国人として、極めて稀な経験ができた、といっても過言でない。シンクタンクの経営まで目の当たりにするポジションで、最も驚いたことの一つが、シンクタンクとインターネットの関係であった。ワシントンのシンクタンクはいずれも、インターネットを利用してますます存在感を高めていたのである。

本稿では、私が経験したシンクタンクが力を入れているインターネットの利用を紹介したい。

SNSを利用せよ

ワシントンDCのシンクタンクの目覚ましいインターネットの利用は、3つの分野で説明することができる。

1つ目は、最も新しい取り組みで、SNSの利用である。

シンクタンクのSNSの利用は、シンクタンク自身とそれぞれの研究者が、FacebookやTwitter、LinkedInのアカウントを持って、発信することにとどまらない。つまり、SNSでそれぞれのシンクタンクのコミュニティを創設していることは当然で、それに加えて、すでに存在する他のコミュニティへ影響を最大限にしようという試みも行われている。

例えば、ヘリテージ財団では隔週の火曜日、ブロガー向けのランチ・イベントが行われている。これは、公開イベントではなくヘリテージ財団が影響力のあるブロガーと認めたブロガーが招待されていた。毎回の参加者は30人前後でちょうど12時から始まり1時に終わり、ランチもしっかりと用意されている。スピーカーは多彩で、連邦議会の上院議員と下院議員から、本の著者、CNNの討論番組の司会者、そして新進気鋭の起業家だ。このブロガー・イベントはそのまま、グーグルなどのワシントン事務所に招待され、会社の会議室で出張して行われることもある。影響力のあるブロガーは、今や、メディアとして認識されるようになっている。保守系関係者が一堂に会する保守系の最大のイベントであるCPACの年次総会では、影響力のあるブロガーを大手マスコミと同じ待遇でプレス室にいれていたほどだ。

さらに、シンクタンクは、ネット環境もSNSの利用に合うように進化させている。今や、大手シンクタンクのイベント会場にはWiFiが張り巡らされ、イベントの参加者に、その場でSNSに書き込みができる環境を提供している。シンクタンクによっては、ライブで流しているネット放送の画面の下に、ネットユーザーからの書き込みが流れるようになっているところもある。また、イベントによっては、モデレーターがネットに寄せられた質問を取り上げるときもある。

ブロガー用のイベントとなると、ほぼ全員が、話を聞きながら、TwitterやFacebookに書き込んでいる。普通のイベントでも書き込みをしている人は少なからずいる。通常、パスワードは、公になっていないが、スタッフに聞けば、快く教えてくれる。

政策に関する動画データベースを構築する

2つ目は、シンクタンク自身が、ネットを利用して新しい形のメディアになっていることである。

いまや、いずれの大手シンクタンクも、公開イベントといえば、必ず、ホームページでライブでイベント映像を流している。そしてその映像をシンクタンクのサイト内に保存し、政策研究に関する巨大研究動画アーカイブを作っている。シンクタンクのサイトは、過去のレポートのデータベースだけに加えて、動画のデータベースもある。シンクタンクでの公開イベントでの発言はますます重みを帯びていく。

数字を言い間違えたら、そのイベント中に訂正しないと、レポートと同じようにその映像は残ってしまうし、口が滑ってしまった場合、後に修正することは難しくなる。その映像は修正を加えられることなくそのままアーカイブに収められるからだ。

アメリカの政治家がシンクタンクでスピーチする時、ほとんどの人が原稿を用意している。これは、少し前まではテキストとしてそして今では映像として、残ってしまうので、失敗が許されない。とりわけ、不用意な発言をしてしまった場合には、政治的に命取りとなることすらあるからだ。

シンクタンクは、インターネットが登場するやいち早く研究とアウトプットに利用してきた。政府の情報公開が進めアメリカでは、電子政府ができたことによって、研究対象となる行政情報が格段に手に入れやすくなり、シンクタンクに代表される政策研究の質が上がったことは広く知られている。インターネットが軍事利用から商業化するにあたり、最大の役割を担ったのは教育機関である。この流れを見ると、シンクタンクが、公開イベントのネット生放送行い、さらに、動画アーカイブを構築することは自然の流れといえるだろう。シンクタンクのサイトは、いまや政策研究番組&図書館(アーカイブ)にまで進化しているのである。

3つ目は、シンクタンクを最大限に活用するため、シンクタンクの経営も変化している。シンクタンクから配布される紙媒体はほとんどなくなって久しい。シンクタンクのレポートもイベント情報もすべてEメールとウェブサイトで行われている。最近ではEメール登録とFacebook登録のいずれかを選ぶ仕様も登場する。インビテーション・オンリーのイベントでは、TwitterやFacebookを最大限に活用する講座もしばしば行われている。たとえば、ヘリテージ財団では、研究員とスタッフ向けに、SNSの上手な使いこなし方の社内講座も行われている。

また、上級研究員にはスマートフォンが提供され、研究に関する写真をとってSNSに書き込むことが奨励されている。

とはいっても、シンクタンクから、書き込みに関するチェックが入ることはない。昨年の4月に新所長に就任したジム・デミント前上院議員に同行して東京に行ったとき、彼は、東京の会談や景色に感動し写真をとり、SNSへの書き込みを行っていた。まだ、なれないため、同じく同行したアジア部長に「誰が書き込みの編集はしてくるのか」「書き込むときの注意はあるか」と聞いていたが、アジア部長は「好きに書けばいいですよ」と答えていた。

シンクタンクから届くニュースレターやイベント案内には、必ずSNSにつながるアイコンも用意されている。ただ、現在、SNSの利用については研究員の間でかなり大きな違いがある。積極的に書き込む研究員もいれば、全く手をつけない研究員もいる。灯台下暗しともいえるが、シンクタンクの研究員によるSNSの利用はまだ、これからのようである。

また、シンクタンクのコンピュータ部門もかなり大きな部隊になっている。たとえばヘリテージ財団のコンピュータ部門では、10人ほどが在籍する。また、広報部門にもデジタルを専門とするスタッフも置かれるようになっている。

シンクタンクは、インターネットが登場したときから、研究にインターネットの中の情報を使い研究の質を向上させ、同時に、アイディアを広める道具として率先して使い始めた。

そして、SNSと動画が全盛の現在は、その両者を使って、更なるシンクタンク・コミュニティの拡大に力を入れているのである。

シンクタンクが今後、どのような新しい使い方を創造・発見するのか、今後も注視していきたい。


■横江公美:PACIFIC21代表、ヘリテージ財団元上席研究員

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