アメリカ合衆国連邦議会の仕事ぶりに対する近年の支持率は、10%台という空前の低さである *1 。そういう中でも、連邦議会下院は、区割り操作のお蔭で、議員の再選が安泰な選挙区が多い。これに対して連邦議会上院は、州が一つの選挙区なので、国民のムードの逆風をもろに受けることになる。このため2014年中間選挙では、多数の現職上院議員の再選が危ういか、または引退に追い込まれている。6年任期の連邦上院議員は、2年おきに全体の約3分の1が改選されるが、2014年が改選期の議員は民主党が多いため、多数党の座の維持が危ぶまれている。
世論調査にみる連邦議会現職議員への不信感
連邦議会への信頼・不信に関する世論調査データをみる際のポイントは、連邦議会全体への評価と、地元選出の議員への評価を分けて捉えることである。一般的に、地域の利益代表としての地元議員は支持、連邦議会全体は不支持という二重構造がみられる。
ギャラップの調査(8月公表)では、連邦議会下院の地元議員が再選に値するという回答は、2014年については50%であるのに対し、連邦議会議員全般については19%にとどまり、地元議員と比べて31ポイントも低い *2 。
2014年中間選挙の特色は、本来は有権者に愛されているはずの地元議員への不信感が、平年値を大きく超えるレベルに達していることだ。上述のギャラップ調査の50%という数字は、1992年以降では2010年の46%、1992年の48%に次ぐ低さである。
現職議員への不信感には、通常は党派性がみられるが、2014年については民主党および共和党の双方で高い。PEW研究所の調査(7月公表)では、地元選出の連邦議会議員は再選に値しないとする回答が、共和党支持層で38%、民主党支持層で34%に達する。1994年以降の平年の地元現職再選への不支持は、共和党、民主党とともに20%強である。民主党の現職議員が大量落選した2010年の中間選挙では、共和党支持層の地元現職再選不支持が2014年をも上回る44%であったのに対して、民主党支持層は平年並みの22%であった。民主党が大勝した2006年の中間選挙における地元現職再選不支持は、民主党支持層については2014年を超える39%であったが、共和党支持層は平年並みの22%であった *3 。
連邦議会上院の現職議員の苦戦
現職議員に対する高い不信感という逆風を背景に、多数の現職上院議員の再選が危いか、あるいは引退に追い込まれている。特に民主党の現職の苦戦が目立つ。ただでさえ2014年中間選挙においては、民主党の改選議席数は21であり、共和党の15と比べてはるかに多い。それに輪をかけて、大統領が属する政権党は第4期めの中間選挙では議席を減らすという一般的な傾向があり、また、オバマ大統領の支持率が概ね40%台前半で低迷している。こうした三重苦の下で、民主党の改選議席21のうち、5人の現職議員が引退し、残りの議員も過半数の再選が流動的か危いか盤石でない。
選挙区ごとの当落予想で定番のThe Cook Political Report およびThe Rothenberg Political Reportならびに政治学者ラリー・サバトのCrystal Ballが一致して、8月の現時点で再選が安泰な民主党現職議員は 7人にとどまると評価している。4人が優勢で、残りの5人が概ね伯仲となっている(アラスカ、アーカンソー、コロラド、ルイジアナ、ノース・キャロライナ) *4 、 *5 、 *5 。
共和党については、13人の現職議員が安泰という評価で、多少なりとも再選が流動的なのは1名にとどまる。ただ、この1名がケンタッキー州選出の共和党院内総務のミッチ・マコンネルである点は特筆に値する。マコンネルの再選が盤石でないことと、連邦議会下院の共和党議員団のナンバー・ツーであったミッキー・キャンター院内総務の予備選挙における落選には相通じるものがある。マコンネルは予備選挙で勝ったものの、その得票率は60%にとどまった。平年なら9割に近い。
苦戦と安泰の明暗を分けるもの
強い現職不信の下で、多くの現職議員が苦戦しているものの、それ以上に多数の再選が盤石である。こうした明暗の分かれ目はどこから来るのだろうか。説明変数としては、体系的な共通要因とローカルな特殊要素が挙げられる。
多くの選挙区に共通する説明変数は、州の特性および候補の連邦議会における活動実績とのマッチである。各候補の連邦議会における投票履歴からリベラル・保守の格付けを各種団体が行っているが、なかでもよく引用されるのがADA(Americans for Democratic Action)の指標である。ADAは、リベラルかの踏み絵となる、二大政党がぶつかる対決法案を選定し、それぞれの賛否を集計し2年おきに100点満点のスコアを公表している。表1は、民主党と共和党の、現職議員の再選が万全と評価されている州の政治傾向およびADAスコアである。近年の大統領選挙において、民主党が構造的に強い民主党優位州ではスコアが90以上の非常にリベラルな候補が、共和党が構造的に優勢な共和党優位州ではスコアが10以下の極めて保守的な候補が、再選を固めている傾向が認められる。
これに対して、共和党にしてはADAスコアが高めの中道派である、ロバーツ(キャンザス)、コクラン(ミシシッピ)およびアレグザンダー(テネシー)については、再選への不安はないものの、予備選挙において対立候補が善戦したため、得票率がそれぞれ48%、51%、60%にとどまった。平年ならば概ね90~100%である。
出典:クック、ロセンバーグおよびサバトの8月時点の再選評価並びにADA公式サイトのスコアに基づき筆者が作成 *4 、 *5 、 *5 、 *7 。
表2は、上記のクック、ロセンバーグおよびサバトによって、8月の時点で概ね伯仲と評価されている民主党議員の、州の政治傾向およびADAスコアである。民主党現職が伯仲状況の州に民主党優位州は無く、いずれも共和党優位州または激戦州である。保守的な州の有権者に合わせるため、民主党議員にしては低めである90未満のスコアの中道派の議員が多い。
出典:クック、ロセンバーグおよびサバトの8月時点の再選評価並びにADA公式サイトのスコアに基づき筆者が作成 *4 、 *5 、 *5 、 *7 。
ローカルな要因には、州の政治文化と州の特性が含まれる。共和党議員でADAのスコアが20以上でありながら、再選がほぼ確実な中道派の現職議員が3名いる。メインのコリンズ、ミシシッピのコクランおよびテネシーのアレグザンダーである。
メイン州は、リベラルなニューイングランドに位置し、イデオロギー的、心情的に民主党に近い政治文化を有する。コリンズに限らず、歴代の上院議員のADAスコアは中道的であり、近年最大の対立争点である健康保険改革を含めて、たびたび共和党執行部から造反している。ミシシッピ州のコクランには、貧しい同州への長年の利益誘導の実績がある。テネシー州は、アレグザンダーに限らず、元駐日大使のベーカーを含めた実務的な共和党議員を選出してきた伝統があると指摘されている *8 。
共和党が多数党の座を民主党から奪うには、純増で6議席増やす必要がある。民主党がこれを回避するには、現時点で再選がほぼ確実または優勢な州はもとより、伯仲の州の多くで勝たなくてはならない。それは容易でないものの、まだ勝負はついていないと、『ワシントン・ポスト』のダン・バルツは論じている。第一には民主党の候補の質、第二には民主党候補は既にさんざんネガティブ広告に晒されていて、これ以上は支持が下がりにくいこと、そして第三にはオバマ陣営が編み出した、情報技術等による支持基盤動員戦術の連邦議会レベルへの浸透である *9 。
===========================================
*1 : Jones, Jeffrey, “Congressional Job Approval Stays Near Historical Low: Thirteen percent of Americans approve, 83% disapprove”, Gallup, Inc,.August 12, 2014,
www.gallup.com/poll/174806/congressional-job-approval-stays-near-historical-low.aspx
*2 : Newport, Frank, “Congressional Re-Elect Measure Remains Near All-Time Low”, Gallup, Inc., August 18, 2014, www.gallup.com/poll/174920/congressional-elect-measure-remains-near-time-low.aspx
*3 : Pew Research Center for the People and the Press, “GOP Has Midterm Engagement Advantage; But ‘Enthusiasm Gap’ Narrower than in 2010”, July 24, 2014”,
www.people-press.org/2014/07/24/gop-has-midterm-engagement-advantage/
*4 : Cook, Charles E. “2014 Senate Race Ratings for August 15, 2014”, The Cook Political Report,
http://cookpolitical.com/senate/charts/race-ratings
*5 : Rothenberg, Stuart, “Senate Ratings”, The Rothenberg Political Report, August 7, 2014,
http://rothenbergpoliticalreport.com/ratings/senate
*6 : Sabato, Larry,”2014 Senate”, Sabato’s Crystal Ball, Center for Politics, University of Virginia, August 18, 2014, http://www.centerforpolitics.org/crystalball/2014-senate/
*7 : Americans for Democratic Action, ” 2012 ADA Voting Records”, www.adaction.org/pages/publications/voting-records/2013vrgraphics.php
*8 : Balz, Dan, “In Tennessee, consensus politics makes a last stand”, The Washington Post, July 29, 2014
www.washingtonpost.com/politics/for-tennessee-gop-its-the-tea-party-vs-the-legacy-of-howard-baker/2014/07/29/53403502-12a6-11e4-9285-4243a40ddc97_story.html
*9 : Dan Balz“Is the race for control of the Senate over already?” The Washington Post, August 6, 2014, ,
www.washingtonpost.com/politics/is-the-race-for-control-of-the-senate-over-already/2014/08/05/dedcbf30-18d8-11e4-9e3b-7f2f110c6265_story.html
■細野豊樹 共立女子大学教授