ミシシッピー州上院共和党予備選挙の動向 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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ミシシッピー州上院共和党予備選挙の動向

September 16, 2014

久保文明
東京財団上席研究員、東京大学法学部教授

1.ミシシッピー州の概略

アメリカ南部に位置するミシシッピー州は人口およそ 3百万人であるが、そのうち非ヒスパニックの白人が58%、黒人が38%となっている。ヒスパニック系(ないしラテン系)は2.8%のみである。

ミシシッピー州は全米のさまざまなランキングにおいて最下位あるいはそれに近い順位に位置している。一人当たり所得は20,670ドルであり、最下位である 1 。2014年6月の失業率は7.9%であり、これも50位(あるいは最高)である 2 。平均寿命は74.8歳であり、全米でもっとも短い 3 。モーガン・クゥイトノ(Morgan Quitno)による教育関連指標(Smartest State Index) (2006-2007)では48位であり 4 、最近5年間平均での世帯収入の中央値は38,882ドルである。貧困水準以下の人口も22.3%となっており、全国平均(14.9%)を大きく上回る 5

ただし、ミシシッピー州はやや長期的視野でみると、全国平均にかなり追いついてきた。1940年、同州の一人当たり所得は全国平均の36%でしかなかった。その数値は1990年には67%まで上昇し、2010年には73%となった 6 。所得面では、依然として全国平均を下回るものの、差がかなり縮まってきたことは確かであろう。生活費が安いことを考えると、実質的な生活水準の差はさらに小さくなる。こんにち、同州の学校はほとんどすべてが冷暖房とインターネット完備である。

州の経済は、1965年以降、製造業が、綿花栽培を中心とする農業を上回っている。日本との関係も深まりつつある。トヨタ自動車や日産自動車に続き、横浜ゴムグループも工場を建設中であり、また液化天然ガスの大型設備事業も開始する(ブライアント知事によれば、連邦政府から認可を得た最初の輸出は日本となる) 7 。労働組合に加入しなくても雇用される権利を保障した「労働権法」が制定されているため、企業が進出しやすい。なお、湾岸沿いでのカジノは州の重要な収入源であるが、景気後退の影響を強く受けたことも指摘されている。

州の党派性を測る指標としてしばしば用いられる大統領選挙における得票率を見ると、2012年はロムニーの55%対オバマの44%、2008年ではマケインの56%対オバマの43%であり、圧倒的に共和党が強い。

2012年に実施されたサーベイ調査 (CCES2012)によれば、共和党支持者に占める白人の割合は、9割を超え、民主党支持者に占める黒人の割合は69.8%であることから、人種による支持政党の明確な違いを読み取ることができる 8 。州から選出される連邦上院議員は、1988年に民主党のジョン・ステニスが引退して以来、こんにちまで2議席とも共和党が独占している。州に配分されている連邦下院議席4の今会期での内訳は、共和党3議席、民主党1議席である。

2014年現在、州上院は議席数52のうち共和党が32議席(民主党20議席)、州下院は122議席に対し共和党が64議席(民主党58議席)という構成であり、上下両院ともに共和党が多数党である。ただし、ミシシッピーは、他州との比較でいえば、議会内の分極化があまり進んでいない州の一つであると指摘されている 9

近年政治的な争点となっている同性愛、人工妊娠中絶の問題に対し、宗教的な観点から、ミシシッピー州住民は人種を問わず保守的な立場をとる。同性愛に関して2004年、結婚は男女間でのみ認められるとする憲法改正案が大多数の住民の賛成により可決された。しかし2014年に入りいくつかの市が性的少数者(LGBT)に対する差別を禁止する決議(法的拘束力はない)を可決するなど、態度の変化もみられはじめた 10 。人工妊娠中絶について、州法で実質的に州唯一の妊娠中絶病院(abortion clinic)を閉鎖することができるか否かが争われたが、連邦控訴審が、この法律による閉鎖を違憲としたことも話題となった 11 。また、受胎時から人間(person)と定義することによって、実質的にすべての場合における人工妊娠中絶の禁止を目的とした憲法改正案(Initiative 26)が提案されたが、それは否決された 12, 13

2.共和党予備選挙の結果

2014年6月3日に実施されたミシシッピー州選出連邦上院議員共和党予備選挙では、ティー・パーティー系挑戦者のクリス・マクダニエル候補が49.5% (155,040票)を獲得して一位となり、1979年から現職を務めるベテラン候補サッド・コクランは49.0% (153, 654票)を獲得して次点に終わった(第三の候補であったT. ケアリー候補が1.5% [7,789票]を獲得)。

コクランにとって幸いなことに、第三候補の存在ゆえに、過半数を超える票を獲得した候補者が存在しなかったため、決選投票が行なわれることになった。しかし、長年地元州に連邦予算を持ち帰り、知名度と地盤を固めてきたベテラン議員に対し、ほとんど無名の挑戦者マクダニエルは大変な善戦をしたといえよう。第三の候補が存在しなければ、今回の2013-14年選挙サイクルにおいて、エリック・カンター多数党院内総務落選(彼は共和党予備選挙でティー・パーティー系挑戦者に敗れた)に次ぐ、最大の番狂わせとなるところであった。

これを受けて、6月24日に上位二者による決選投票が行われた。大方の予想では勢いのある挑戦者のマクダニエル有利であったが、コクランが逆転勝利を果たした。決選投票では、コクランが50.9% (191,508票)を獲得し、マクダニエルは49.1% (184,815票)を得るに留まった。その差はわずか6,700票ほどであった(その後の確定数で、2人の差は7,667票となった 14 )。

3.候補者について

サッド・コクラン(Thad Cochran)

コクランはミシシッピー州選出の共和党上院議員であり、現在6期目を努める。決選投票日現在で76歳であった。1972年~1976年に連邦下院議員を務めた後、1978年に上院議員に初当選した。南北戦争後の再建期以来、南部から選出された初の共和党上院議員であった。

現在、上院農業委員会(Agriculture, Nutrition & Forestry Committee)の少数党筆頭委員(ランキングメンバー)である。また、2005年から2007年にかけて上院歳出委員会の委員長および筆頭委員であった。

コクランはイヤーマーク(earmark: 立法の中で、予算を特定のプロジェクトに支出するように指示すること)を通してミシシッピー州に多くの連邦予算をもたらしたことでも知られており、例えば2008年から2010年にかけて757のイヤーマークの提案者(sponsor)あるいは共同提案者(co-sponsor)であった 15 。この数字は同期間におけるどの上院議員のイヤーマーク数よりも多く、ミシシッピー州に26億ドルもの連邦予算をもたらした。

そのためコクランは共和党議員でありながら、「常識ある納税者の会」(Taxpayers for Common Sense)など、小さな政府を目指すより保守的な共和党系団体からたびたび非難されてきた。2014年の共和党予備選挙において挑戦者マクダニエルが一貫して攻撃したのも、この点であった 16

他方で、コクランは2005年にハリケーン・カトリーナがミシシッピー州に甚大な被害をもたらした際、州知事、ルイジアナ州選出の議員と共に尽力し、巨額の災害手当、復興基金への支出を可能とする法案の通過を押し進めた。

近年の議会での点呼投票からは、コクランがそれほど共和党上院議員団の主流にそった投票を行なっていないことが読みとれる。共和党の過半数と民主党の過半数が対峙する政党対峙型投票(Party Vote)では、2割近く政党ラインに沿った投票を行なっていない(2003-2008年の平均はおよそ8%)。これは同州選出の上院議員ロージャー・ウィッカー(Roger Wicker) が平均して9割近く、政党対峙型投票において共和党とともに投票していることと対称的である。同様に、上院内におけるイデオロギー的位置を示すDW-NOMINATEスコアが0.3前後であることもコクラン議員がそれほど政党ラインに沿った投票を行なっていないことを示しているといえよう。「ナショナル・ジャーナル」誌の採点では、2012年において、経済政策ではリベラル度が41%、保守度が58%であり、むしろ中道に近い立場となっている。2012年でみると、リベラル度を示すADAスコアが20%(100%の場合、リベラルなADAの立場と完全に一致)、保守度を示すACUスコアが52%(100%の場合、保守派のACUの立場と完全に一致)であり、このあたりからも、共和党保守派の路線からは一線を画していた様子が覗える 17

実際、第113議会(2013-15)では1.1兆ドルの連邦支出総括法案、第112議会(2011-13)では給与税の暫定的な減税 (payroll tax holiday) 延長を扱う法案に対し、民主党の多数派と共に賛成票を投じている。

コクランはミシシッピー州共和党エスタブリッシュメントの、すなわちヘイリー・バーバー前知事、フィル・ブライアント知事を含む共和党公職者の支持を受けている 18 。決選投票の投票日前日にはジョン・マケイン上院議員も応援演説に駆け付けた。

クリス・マクダニエル(Chris McDaniel)

クリス・マクダニエルはミシシッピー大学ロースクールを卒業後、連邦裁判所でのロークラークを務めた経験を持つ。まだ41歳である。2008年より州上院議員となり、法律事務所のパートーナーも経験した。医療保険改革(Obamacare)の違憲訴訟の弁護団に加わったこともある 19 。宗教は、コクランと同じくプロテスタント教会の一派であるバプティストである。また、2003年から2007年頃にかけてラジオ番組 「右寄りラジオ」(The Right Side Radio)のホストを務めていたこともあるが、番組内での人種差別主義的な発言が「ウォールストリート・ジャーナル」紙のブログに取りあげられたことで話題を呼んだ 20

マクダニエルの政治的なイデオロギーは徹底した保守であり、本予備選挙ではティー・パーティー系の候補とも形容される 21 。具体的には、銃規制反対や伝統的な価値の重視(例えばプロライフ)といった側面に加え、反増税、財政均衡、州の権利といった争点を強く主張する。彼の選挙運動用のウェッブサイトには、「州の上院議員として、連邦政府の侵食から我々の個人の権利を守るために数多くの法案を提案し、支持してきた」と書かれている 。加えて、医療保険改革(Obamacare)には強く反対しており、2013年に州議会上院において、オバマケアのもとでメディケイドが拡大されることを阻止する法案を提出している 23

マクダニエルはティー・パーティー系の団体・個人から、あるいは反ワシントン感情、反現職感情を強くもつ有権者から強い支持を得ているほか、州外の全国的な団体からも支援を得ていた 24

4.選挙戦、余波、そしてその含意

この選挙は早くから全国的な注目を集めていた。マクダニエルの支持者4人が老人ホームに侵入し、寝たきりとなっているコクラン夫人を盗撮したことで逮捕されるという事件も起きた。

大量の政治資金も投入された。決選投票日前後までに少なくとも1億7400万ドルが州外から流れ込んだ。候補者が直接集めた資金だけを見れば、コクラン陣営は最新の報告で450万ドルを集め、マクダニエルは150万ドルであった。しかし、全部で30以上のいわゆるスーパーPACや他の集団が、1億1400万ドルを投入した。これらいわば外部集団の支出先内訳は、マクダニエル支援が730万ドル、コクラン支援が410万ドルである。

コクラン支持者から見ると、コクランは農業、基地、インフラ工事などで州に重要な貢献を行ってきた。共和党がこの11月の中間選挙で圧勝し来年1月から多数党になれば、歳出委員会委員長に就任することも期待されている。他方で、マクダニエル支持者には、現状に強い不満を抱き、変化・変革を望む人が多い。

通常、予備選挙の投票率は低い。共和党でいえば、もっとも保守的な有権者がもっぱら投票する。その意味では、6月24日の決選投票では、徹底的に保守的なマクダニエルの方が有利なはずであった。

ところが、決選投票の結果は、大方の予想を裏切るものであった。決選投票では投票率がむしろ上がり、より多くの人びとが投票した。投票翌日の報道では、3日の共和党予備選挙での投票者数は約319,000人であったが、24日は376,000万人まで膨れ上がっていた。

その理由は、コクラン陣営が、6月3日に投票しなかった共和党員、および同日行われた民主党予備選挙で投票しなかった民主党員に対して、大規模な動員作戦を展開したからである。ミシシッピー州の規則では、共和党予備選挙の決選投票で投票資格のある者は、共和党員と、6月3日に民主党予備選挙で投票しなかった者であった。そこで、コクランがとりわけ重視したのが、アフリカ系アメリカ人に対する働きかけであった。

コクランのこの戦略はすでに投票日前から明白になっていたため、マクダニエル陣営は「コクランが民主党員、とりわけリベラル派民主党員の手助けを借りて当選しようとしている」と批判し、コクランの動きをけん制していた。ちなみに、ここで「リベラル派民主党員」(Liberal Democrats)がアフリカ系アメリカ人を指すことは言うまでもない。人種主義的な選挙戦との批判を避けるために、マクダニエル陣営はこのような間接的な表現を使用した。

黒人側にも呼応する動きが存在した。たとえば、州都ジャクソンのニュー・ホライズン国際教会(the New Horizon Church International)のロニー・C・クルダップ(Ronnie C. Crudup Sr.)牧師はその一人であった。2012年選挙において、出口調査によると黒人票が占める割合は36%であった(投票者の中での割合なので、人口比より小さい)。しかし、彼らは圧倒的に民主党支持であり、同年の共和党予備選挙投票での占有率は2%に過ぎなかった。

クルダップは、コクランは6期にわたってミシシッピー州の黒人の友であり、この困難な選挙戦において黒人が支持するに値する、と述べた。あるいは、マクダニエルがトークショー・ホスト時代に行った反黒人的な発言が、彼らによるコクラン支持のより大きな原因かもしれない。マクダニエルはたとえば、奴隷制に対する賠償を使われるのであれば、自分は税金を納めたくないと述べていた。

コクラン陣営によるアウトリーチ作戦は多様な形態をとっていた。「ミシシッピー州の保守派」(Mississippi Conservatives)と称するスーパーPACは、同団体のために活動する共和党活動家ピート・ペリー(Pete Perry)によれば、クルダップを含むアフリカ系アメリカ人指導者に、決選投票での彼らの投票率を上げることを要請し、資金を提供した。ペリーはニューヨーク・タイムズに対して正確な金額を語ることは拒否したが、その額が5ケタ(すなわち1万ドル以上10万ドル未満)のものであることは認めた。「ミシシッピー州を支持するすべての市民」(All Citizens for Mississippi)は、ジャクソン地域で黒人に読まれている2つの新聞に掲載された広告の費用を支出した。その広告においては、コクランによるアフリカ系アメリカ人に対する貢献が強調されていた。この団体の住所として、クリダップの教会が掲載されていた。コクラン陣営が支出したテレビ広告はコクランが黒人と親しく付き合っている様子を映しており、投票日前、夥しい数の宣伝が地元テレビに氾濫していた 25 。そして、アフリカ系アメリカ人の新聞に掲載された広告は、歴史的に黒人用とされている大学、ジャクソンの黒人居住地域に建設された医療施設、貧困世帯に対する支援である食糧切符制度を含んだ農業法案に対するコクランの貢献を強調していた 26

コクランの戦略には、動員工作を越えた政策的、あるいはイデオロギー的含意も含まれていた。コクラン陣営の幹部には、バーバー前知事や、ミット・ロムニーの戦略を担当したスチュアート・スティーヴンス(Stuart Stevens)が含まれていたが、彼らは、ミシシッピーのように共和党が圧倒的に強い州では共和党が滅多にしないことをしていた。すなわち、彼らは連邦政府を擁護したのであった。バーバーは次のように述べていた。「ミシシッピー州の教育予算の15%以上は、特殊教育予算の全額を含めて、連邦政府から来ている」。「共和党保守派」が特殊教育予算に触れて共和党予備選挙を戦うというのは、いかにも皮肉である。そして彼らは、同州は連邦からの支援なしでも全く問題ないと示唆するマクダニエルの選挙戦をせせら笑ったのであった 27 。彼らにとって、コクランの上院委員会での高いランキングは、州にさまざまな便益をもたらす権力を意味していた。

それに対してマクダニエルの方は、「馴れ合い資本主義」(crony capitalism)に終止符を打つと約束し、貧しいミシシッピー州に流入し、コクラン再選の切り札となっている連邦資金を嘲笑した。「ある種の人びと、あるいは一部の企業は特別の、あるいは選別された待遇をうけることができるという考え方、これは金輪際廃棄されなければならない」とマクダニエルは述べている。

ただし、コクランの選挙戦での動きにはあまり必死さ、やる気、熱意が感じられず、政策についての演説においては混乱も見受けられた。支持者ですらコクランは本当に上院議員として再選されるのに値するのか疑問視する声も上がっていた。他方で、マクダニエルの演説とメッセージは選挙戦が進むにつれて、単なるサウンドバイトからより焦点がはっきりしたものになっていた 28

ティー・パーティー系の全国団体がマクダニエルを支援したのは既述した通りであるが、「経済成長クラブ」(Club for Growth)はとくに力を入れて介入した。同クラブの政治活動委員会(political action committee)はマクダニエル支援のために3100万ドルを献金したが、そのうちの60万ドルはわずか3週間の決選投票期間に献金されていた。さらに同クラブは、個人からの献金40万ドルを束ねて、マクダニエルに流している(bundlingといわれる手法である)。

経済成長クラブの会長クリス・ショコラにとって、このミシシッピー州共和党予備選挙は原則をめぐる闘いであった。バーバーに代表される共和党エスタブリッシュメントの候補であるコクランは、「ぜひ自分に一票を! そうすればあなたはより大きな政府を得ることができる」と言っているが、それに対してマクダニエルは「私はより多くの自由をあなたにもたらす」と主張している、とショコラは分析する 29

開票結果はすでに述べたようにコクランの逆転勝利であったが、マクダニエルは当日夜、開票結果が明らかになっても敗北を認めず、それに挑戦することを早くも示唆していた。実際8月4日、彼は公式に法廷闘争に打って出た。マクダニエルの主張によれば、「何千もの票が無効である証拠が存在する。なぜなら、そのうちの一部は、民主党予備選挙で投票した人が共和党予備選挙決選投票で投票しており、それは州の選挙法に違反するからである」。マクダニエル陣営の弁護士によれば、彼はおよそ25,000票の差で勝利しているはずであった 30 。共和党内でも、ティー・パーティー系の団体は、このマクダニエルの行動を全面的に支持している 31 。ただし、中立的な「クック政治レポート」を引用すれば、「不正投票があったとの証拠は非常に少ない」 32

2014年8月29日、州裁判所判事はマクダニエルによる訴訟を却下した。判事によれば、マクダニエルは1959年のミシシッピー州最高裁判所判決に従い、投票日から20日以内に訴訟を提起しなければならないところ、1か月以上経過してからようやく訴訟を起こしたからである 33 。マクダニエルは州最高裁判所に控訴し、10月2日から審理が開始される予定である 34

終わりに

本選挙結果は、必ずしも純粋な形でティー・パーティーの勢いの有無を検証できる理想的な事例ではない。高齢で精彩に欠けた選挙戦を展開した7期目を目指す現職候補が、若く、弁舌巧みな新人から挑戦を受けたことは確かである。

それにしても、一人当たり所得が最下位であり、連邦からの補助金に極度に依存しているミシシッピー州においてすら、補助金獲得の実績を誇る現職に対する挑戦者が登場し、その挑戦者が一度は現職を上回る得票をしたことは注目に値しよう。

そして、ミシシッピー州の予備選挙決選投票についての規定ゆえに、劣勢となった現職が民主党の固い支持者である黒人の支持を求めた点で、本選挙はまことに異例であった。しかし、ここで炙り出された共和党内の路線対立、すなわちときに特殊教育までをも含む連邦政府支出を肯定するエスタブリッシュメント派とそれらの価値を正面から否定するティー・パーティー系の対立は、原理原則をめぐるものであり、極めて深刻であるといってよかろう。

同時に注目すべき点は、ティー・パーティー系候補にすぐに全国団体から資金援助が提供されており、彼らの政治的インフラストラクチャーがかなり高度に整備されていることであろう。

ちなみに、11月の本選挙であるが、民主党側はやや保守的といわれる元連邦下院議員トラヴィス・チャイルダース(Travis Childers)が予備選挙で勝利を収め、公認候補に指名されている。やや保守的とはいえ、きわめて保守的なミシシッピー州において、共和党公認候補コクランの優位は動かないであろう。かりに知名度で劣るマクダニエルが指名されていたとしても、予備選挙における規律の取れた選挙戦から見る限り、共和党有利の構図に変化はなかったであろうと考えられる。


*1. http://quickfacts.census.gov/qfd/download_data.html
*2. http://www.bls.gov/web/laus/laumstrk.htm
*3. また、Social Science Research CouncilによるMeasure of Americaの2013-2014レポートでは、アメリカ人間開発指標(AHDI)においてもミシシッピー州は最下位である (pp.16-18)。
[Report] http://ssrc-static.s3.amazonaws.com/moa/MOA-III-June-18-FINAL.pdf
http://www.worldlifeexpectancy.com/usa/mississippi-life-expectancy
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_U.S._states_by_life_expectancy
*4. これは教育関連の指標(学校教師の給与水準、公立学校への歳出、高校のドロップアウト率など)を組み合わせて計算された指標である。
http://www.morganquitno.com/edfact06.htm#FACTORS
ちなみに50位はアリゾナ州である。また、Statistical Research Center at the American Institute of Physicsによって開発されたScience and Engineering Readiness Index (SERI)にでは50位。この指標は、高校生がどれだけ物理と数学においてどれだけ優れているかを公開データ(National Assessment of Educational Progress reportなど)から作成したものである。
http://www.aps.org/units/fed/newsletters/summer2011/white-cottle.cfm
http://www.aip.org/statistics/physics-trends/seri-science-and-engineering-readiness-index
*5. http://quickfacts.census.gov/qfd/states/28000.html
*6. Michael Barone and Chuck McCutcheon, The Almanac of American Politics 2014 (The University of Chicago Press, Chicago, 2013), p.934.
*7. 『日本経済新聞』2014年8月18日。
*8. ミシシッピー州における本サーベイ回答者のうち、共和党支持者の割合はおよそ29.2%、民主党は33.8%である(標本数479)。
*9. Shor and McCarty. 2011. ``Ideological Mapping of American Legislatures.’’ American Political Science Review 105(3): 530-551.
*10.
http://www.clarionledger.com/story/dailyledes/2014/05/07/mississippi-lgbt/8816713/
The Clarion-Ledger はミシシッピーで最も発行部数の多い新聞である。
*11. http://nyti.ms/1toN2fo
*12. http://www.nytimes.com/2011/11/09/us/politics/votes-across-the-nation-could-serve-as-a-political-barometer.html?smid=pl-share
*13. この事例を扱った最近の研究によれば、本住民投票に際し、直前の世論調査/直後の世論調査において正確に投票結果を再現出来なかったことが指摘されている。すなわち、住民投票に賛成か反対か(あるいはどのように投票したのか)を直接尋ねた場合、賛成(あるいはYesと投票した)と回答する人が実際の結果以上に得られた。この事実から、依然としてミシシッピーにおいて「人工妊娠中絶に賛成すること」が社会的に望ましくない、あるいは「中絶に反対すること」が社会的に望ましいと考え、その規範に従い回答している人が多数存在すると読み取ることができる。B. Rosenfeld, K. Imai, and J. Shapiro. 2014. “An Empirical Validation Study of Popular Survey Methodologies for Sensitive Questions,” Working Paper, http://imai.princeton.edu/research/validate.html
*14. “Mississippi: Judge Dismisses Challenge to Senate Runoff,” The New York Times , Aug. 29, 2014.
*15. http://www.taxpayer.net/library/article/earmark-data
*16. 2011年以降議会はearmarkのモラトリアムを決定し、その効力は現在まで有効であるため、現在earmarkは存在しない。
*17. Michael Barone and Chuck McCutcheon, The Almanac of American Politics 2014 (The University of Chicago Press, Chicago, 2013), p.940.
*18. The Clarion Ledger , June 24, 2014.
*19. https://mcdaniel2014.com/about-chris/#educational-history
*20. http://blogs.wsj.com/washwire/2014/04/10/miss-senate-hopeful-chris-mcdaniel-riffed-on-mamacita-reparations/ ; http://nyti.ms/1kP9Gq1
*21. http://nyti.ms/V2Ke9K ; http://nyti.ms/1hst4pA
*22. https://mcdaniel2014.com/about-chris/#biography
*23. Senate Bill No. 2662.
http://billstatus.ls.state.ms.us/documents/2013/pdf/SB/2600-2699/SB2662IN.pdf 関連した法案として、Senate Bill N. 2775.
http://billstatus.ls.state.ms.us/documents/2013/pdf/SB/2700-2799/SB2775IN.pdf
*24. The Clarion Ledger , June 24, 2014
*25. “GOP Senator Courts Blacks in Mississippi Primary Race,” The New York Times , June 21, 2014.
*26. “Cochran’s Plan to Draw Black Democrats Tipped Scale,” The Washington Post , June 26, 2014.
*27. E.J. Dionne Jr., “Cochran’s Democratic Triumph,” The Washington Post , June 26, 2014.
*28. “Miss. GOP Runoff Costly, Competitive,” Chicago Tribune , June 22, 2014.
*29. Dan Balz, “Club for Growth Disappointed about Cochran Election But Won’t Retreat,” June 26, 2014, The Washington Post .
*30. “Mississippi: Cochran Victory is Challenged,” The New York Times , August 5, 2014, http://www.nytimes.com/2014/08/05/us/mississippi-cochran-victory-is-challenged.html?_r=0 .
*31. “Will the Republican Party of Mississippi Follow its Own Rules?” Richard Vigueries’s Conservative HQ , http://www.conservativehq.com/article/17934-will-republican-party-mississippi-follow-its-own-rules .
*32. “Cook Political Report,” August 17, 2014, at
http://cookpolitical.com/senate/race/1935 .
*33. “Mississippi: Judge Dismisses Challenge to Senate Runoff,” The New York Times , Aug. 29, 2014.
*34. “Mississippi High Court to Hear Challenge of US Senate Race Outcome,” Reuters , Sept. 10, 2014, http://www.reuters.com/article/2014/09/10/us-usa-election-mississippi-idUSKBN0H503E20140910

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    • アメリカ政治
    • アメリカ政治外交史
    • 現代アメリカの政党政治
    • 政策形成過程
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