共和党がかなり有利なはずの今年の中間選挙だが、民主党が予想外に粘っている。最終的には共和党が多数派を奪還する可能性の方が高いが、いくつか想定外の状況が発生しており、僅差で共和党が勝利という見方が優勢な状況だ。
焦点はもっぱら多数派がひっくり返る可能性のある上院だが、下院も意外に大事だ。下院の議席数は435議席、現在は233対199で共和党がおさえている。民主党がこの構図を覆す見込みはなく、共和党が議席数を増やすのは確実とされている。少なく見積もって一桁半ば、場合によっては二桁に届くとの見方もある。トスアップ州は、クリスタルボールだと14、クック・ポリティカル・レポートだと17だ(いずれも10/19日現在)。仮に共和党が議席を10以上増やすことになれば、1990年代半ばから2000年代にかけての下院における共和党の多数派よりも安定した多数派ということになる。
こうなると、2016年が民主党にとって有利な年になったとしても下院で多数派の地位を奪還するのは至難のわざということになる。50議席以上の差を覆すには、ちょっとした「風」ではどうにもならないだろう。ということで民主党は、下院でも粘りを見せなければならないが、当然、上院でかろうじてでも多数派を維持することの方に意識を集中させざるをえない。上下両院で少数派というのはなんとしても避けたいところだ。
今回の上院の改選議席数は36、うち民主党の議席は21で共和党が15である。現在の勢力バランスが、民主党と民主党と組むインディペンデントで55議席、共和党が45議席なので、共和党は6議席増やすことができれば、51議席で多数党になる。ファイブ・サーティー・エイトによれば、62.2%の割合で共和党が多数派になると予測している(10/19日現在)。ちなみにファイブ・サーティー・エイトの数字は一番低い数字で、ワシントンポスト紙は95%という数字をはじき出している。トスアップ州の数はクリスタルボールによれば4州、クック・ポリティカル・レポートだと10州だ。現在民主党が保有している議席のうち、元来レッド・ステートであるウェストバージニア州、モンタナ州、サウスダコタ州は難なく奪還可能と位置づけられていたため、クック・ポリティカル・レポートがトスアップ州と分類している10州の中で民主党が保有している7州のうちの3州とれれば、共和党多数派議会の成立ということになる。
共和党にとっては、楽勝のようにも見えるが、個々に見ると予想外の接戦を強いられている。保守王国のカンザス州では、共和党の長老議員(年をとっているだけとの悪評もあるが)のパット・ロバーツが、インディペンデントのグレッグ・オーマンに接戦を強いられている。カンザス州では民主党の候補が出馬を途中断念し、その支持者がオーマン支持にまわったため、想定外の展開になっている。カンザス州で、共和党以外の議員が最後に当選したのは、1932年のことだ(池原麻理子「上院多数党のカギを握るカンザス州」を参照)。
ケンタッキー州では、上院少数派院内総務のミッチ・マコーネルが、齢35歳のアリソン・グライムズ州務長官から挑戦を受けている。さすがにマコーネルがわずかのリードを保っているが、予想外の接戦で注目を集めている州のひとつでもある。あと2008年の大統領選挙のオバマ風にのって当選したレッド・ステートの民主党の上院議員たちも、意外に健闘している。ノースカロライナ州のケイ・ヘーガン、アーカンソー州のマーク・プライヤー、ルイジアナ州のマリー・ランドリューだ。特にヘーガンの健闘振りは民主党としても予想以上だったようだ。アラスカ州のベギッチもかなり脆弱な現職と見られていたが、世論調査の誤差内でどうにか持ちこたえている。さらに共和党の現職のチャンブリス上院議員が引退するジョージア州のオープンシートも接戦だ。ジョージアは、2008年と2012年の大統領選挙において、オバマではなく共和党の候補が勝利をおさめているレッド・ステートだが、州民にとってはなじみ深いサム・ナン上院議員の娘、ミシェル・ナン候補が善戦している。さらに、共和党がすでに事実上奪還したと思われていたサウスダコタ州でも、インディペンデント候補が善戦し、不透明感が増している。ただし、2008年と2012年にオバマに票を投じ、現在は民主党の議席であるアイオワ州とコロラド州では、民主党が厳しい戦いを強いられ、共和党の候補がわずかながらリードを保っている。民主党が多数党の地位を守りたいならば、この二つの州は落とせない。
しかしである。実は州毎に行われている世論調査はあまり当てにならない。ローカル紙の記者は、自社が行う世論調査をベースに記事を書いているが、本人たち自身、あまり当てにならないことを認めている。アラスカ州やサウスダコタ州などの人口が密集していない州の調査ほど、精度は特に低い。唯一精度が高い選挙キャンペーン自身が行っている世論調査は、選挙戦を有利にすすめるためのツールとして、その結果が選択的に開示されることはあるが、通常、外部からはアクセスできない。こうして見ると、基本的な構図は、「共和党が優位を保ちつつも、民主党がどうにかくらいついている」というのが選挙を2週間後に控えての状況といえるだろう。つまり、共和党が勝利をおさめても、民主党がかろうじて多数派を維持しても、どうにか説明がつくような状況であり、結局は当日にならないとわからない、「基本的には共和党が有利な意外な接戦」ということだ。
しかし、今回は、個々の州で起きていることを上回る想定外の事態が発生する可能性がある。それは11月4日の投票日の夜になっても、どちらが多数党になるのかがすぐには明らかにならないという事態が発生しうるからだ。それは、現在接戦が繰り広げられているルイジアナ州とジョージア州では、いずれかの候補が投票総数の50%プラス1票以上得票していなければ、決選投票を行って勝者を確定することになっており、ルイジアナ州では12月6日、ジョージア州では明年1月6日までそれが行われないからだ。ルイジアナ州ではティーパーティー系の候補が、ジョージア州ではリバタリアン党の候補が出馬しており、民主党と共和党の間で接戦が繰り広げられているだけに、わずかの得票でも、決選投票という事態を引き起こす可能性がある。さらに、カンザス州とサウスダコタ州(繰り返しになるが両州とも共和党の強い州である)では、インディペンデントが善戦しており、仮にインディペンデントが勝利した場合、民主党、共和党のいずれとコーカスするのか、現段階では両人とも態度表明をしていないという事実が事態を複雑にしている。また接戦が繰り広げられている州が多いため、再集計というような事態も十分に考えうる。仮にこのような結果になれば、選挙の結果やむを得ないということになろうが、国内外で多くの深刻な事態が発生している時期に、アメリカの連邦議会において、ある種の政治的空白が生じるということになる。できればこのような事態は避けて欲しいものである。