2014年の中間選挙は、スチュアート・ロセンバーグが予見したとおり(10月7日付けの論考参照)、接戦と評されていた選挙区において軒並み共和党が勝利する展開となった。注目の連邦上院選においては、2012年の大統領選挙でオバマが負けた共和党優位州だけでなく、オバマが勝っているアイオワおよびコロラドでも民主党は敗北した。アメリカの雇用状況は着実に改善しているにも関わらず、多くの有権者は景気回復を実感できていない。激戦各州の出口調査では、回答者の3人に2人くらいは経済の見通しに不安を感じており、4割以上がオバマ大統領に対して強い不支持を表明している。
ここで強調したいのは、オバマ不支持の構造である。2008年大統領選挙の時から、オバマは白人ブルーカラー層に弱いことが指摘されていた * 1 。民主党が歴史的な大敗を喫した2010年中間選挙でも、人口密度が低い地域における白人ブルーカラー層の離反が民主党の敗因だと『ワシントン・ポスト』は分析している * 2 。2012年大統領選挙では、庶民へのアピールが弱いという点でオバマと似たタイプのロムニーが相手だったので、ビン・ラディン殺害および自動車メーカー救済をプレイアップする経済愛国主義路線で乗り切ることができた。しかし、今年の中間選挙において、この白人ブルーカラー票問題が再び民主党を苦しめたことを、今回の論考では明らかにしたい。
世論調査および出口調査にみる非大学卒の白人の動向
近年ギャラップ社は、大統領支持率を毎日調査していて、その結果を人種、学歴、支持政党、イデオロギーなどの主要指標ごとにブレークダウンして公表している。また、様々な角度から調査分析のハイライトを発信しており、11月末のレポートでは、白人労働者層の間でのオバマの支持率低迷が取り上げられている。大学卒の白人のオバマ支持率は41%であるのに対して、非大学卒の白人のオバマ支持率は、これよりも14ポイントも低い27%である。大統領に就任した2009年初頭において、オバマは大学卒でない白人の48%の支持を得ていたのが、2期目の2012年には35%に下がり、それから更に8ポイント下落して今日に至っている * 3 。
2014年の中間選挙の出口調査は、州ごとに白人からの得票率を学歴別にブレークダウンしている。表1は、結果的に全敗したものの、激戦州の中では民主党の勝算が最も高かったコロラド州、アイオワ州およびノース・キャロライナ州における、民主党の白人からの学歴別得票率である。
表1 民主党の白人からの学歴別得票率
出典:CBS放送公式サイトの出口調査データより作成。
元来民主党は労働者を、共和党は資産家や経営者を支持基盤とする政党である。それが最近では、共和党のほうが白人労働者層に強いというねじれが生じていることが、表1からは読み取れる。
郡別得票データにみる学歴および人種ギャップ
白人労働者層の民主党離れは、上院選の激戦州における郡別の得票データからも確認できる。枢要なトレンドについては、複数の角度からアプローチする三角測量的な分析を通じて、確かめることが有用である。
図1 コロラド州における郡別の非大学卒白人の割合および民主党得票数の伸び(2010年-14年)の相関
出典:人口動態データについては、連邦政府統計局公式ページより2011-2013 3-Year American Community Surveyのデータを出力して作成。
次いで、出力できる最新の人口データが古いものの、全ての郡を網羅する2000年国勢調査のデータで分析を行った。人種と学歴を掛け合わせたデータを出力できなかったため、白人に限定せず、郡ごとの非大学卒全般の割合を使用した。上院選が激戦だった州の大学卒でない住民の割合および2010-2014年の得票数の変化について、一定の相関を得られた。図2はノース・キャロライナ州における郡別の大学卒(18歳以上)の割合をX軸とし、Y軸を2010年における同州の連邦上院選の民主党候補の得票数を100とした場合の、2014年における得票の伸びをプロットした散布図である。相関係数は0.59であり、非大学卒の有権者が多い郡ほど民主党候補が得票できていない傾向を示す。他の激戦州については、コロラドが0.69、ジョージアが0.46、アーカンソーが0.53、ケンタッキーが0.51であった。
出典:人口動態データについては、連邦政府統計局公式ページより2000年国勢調査のデータを出力して作成。
激戦州の中では、アイオワ州については、得票と郡の学歴・人種構成の間に相関を見いだせなかった。考えられる理由の一つは、2010年の選挙において、同州の現職の共和党候補は大差で勝っていていることである。全く勝ち目が無い選挙だと、平年と比べて支持層の棄権が増えると考えられる。あるいは候補の資質も原因かもしれない。2014年の民主党候補のブルース・ブレイリーは、『ワシントン・ポスト』のクリス・シリッツァ記者から、勝ち目のあった選挙で大きく負けた、今回の選挙で最もひどかった候補に指名されている * 4 。
学歴・人種ギャップの背景に関する考察
大統領の支持率には様々な要因が絡む。他の論考が提起しているように、ISISのテロやエボラ出血熱への不安も、支持率に響いている可能性がある。とは言え、冒頭で言及したとおり、オバマが白人ブルーカラー層に弱いのは就任時からの構造的問題である。初の黒人大統領に対する深層心理レベルの抵抗も見え隠れはするものの、主たる説明変数として探るべきは経済的な要因だと筆者は考える。雇用状況の改善と、景気回復の実感とのギャップを読み解く鍵と思われるのが、学歴と雇用の関係である。
図3はアメリカにおける2004年以降の10月時点での失業率をプロットしたものである。大学卒以上の失業率は、リーマンショックのピークにおいてすら若干高くなった程度である。景気後退のしわ寄せは、高校卒や高校卒未満の層に集中していることが分かる。雇用状況が改善していても経済への不安が根強いのは、景気が最悪の時期においてブルーカラー層に失業が集中したことへのトラウマなのかもしれない。
出典:米国労働省労働統計局(BLS)のデータベースより出力したデータから作成。
予想される雇用の改善の継続や、シェールガス・シェールオイルがもたらしたエネルギー・コストの低下と製造業の競争力強化が、白人ブルーカラー層の心理にどう作用していくか注目される。
*1 : Ronald Brownstein, "Unifying Rhetoric Aside, Divisions Run Deep In Battleground States:Obama Continues To Face Skepticism From Blue-Collar Voters", National Journal , October 7, 2008,
www.nationaljournal.com/njonline/unifying-rhetoric-aside-divisions-run-deep-in-battleground-states-20081007
* 2 : T.W. Farnam, "GOP's midterm gains concentrated in blue-collar areas", The Washington Post, November 10, 2010,
* 3 : Frank Newport "Obama Approval Drops Among Working-Class Whites", The Gallup Poll,
http://www.gallup.com/poll/179753/obama-approval-drops-among-working-class-whites.aspx?utm_source=alert&utm_medium=email&utm_content=morelink&utm_campaign=syndication
* 4 : Chris Cillizza, "The Worst Candidate of the 2014 Election", The Washington Pos t, online edition, November 11, 2014,
www.washingtonpost.com/blogs/the-fix/wp/2014/11/11/the-worst-candidate-of-the-2014-election/
■細野豊樹 共立女子大学教授