2014年米国中間選挙まで残すところあと2ヶ月強だが、依然として選挙をめぐる政治的状況がはっきりと見えてこない。あえていえば、二つの正反対のベクトルを有する政治力学が拮抗し、今回の選挙の「ナラティブ」を見えにくいものにしている。2010年の中間選挙が、「オバマケア」をめぐる国民の審判的な意味合いをはっきりともっていたことと比較すると、その違いはかなりはっきりとしている。2010年は事実上、ティーパーティー運動誕生の年でもあった。オバマケアに対する渦巻く草の根の不信感に後押しされ、共和党は圧勝した。
しかし、その2年後、オバマ大統領は、ロムニー候補の「弱さ」にも助けられ、かなりはっきりとしたかたちで再選を果たし、むしろ窮地にたたされているのは共和党ではないか、同党は「変容するアメリカ」にまったく適応できてはいないのではないかという「リパブリカン・アイデンティティ・クライシス」が叫ばれた。とりわけ今後ますます力をつけていくであろうマイノリティの間の支持を取り付けられていない状況は、致命的と評された。
こうした状況を受けて、オバマ大統領は、二期目の課題としてかなり大胆な政策目標(銃規制、地球温暖化、不法移民対策など)を掲げてみはしたものの、その多くは二期目の初年度に大方頓挫してしまう。これは共和党が、長期的な視点に立って党の立て直しに取り組むことをほぼ放棄し、「拒否勢力」としてオバマ政権に徹底的に抗すると割り切ったためでもある。米連邦議会は、もともとものごとが決まりにくい仕組みになっており、共和党はこの特性を全面的に活用したともいえる。
二期目の二年目に入るとオバマ大統領の支持率は40パーセント台前半に転落し、ギャラップの最新の調査(8月21日)によれば、外交が36パーセント、経済が35パーセント、全体では44パーセントとかなり厳しい数字がでている。特にオバマ外交については、世界政治の構造が軋んでいるなか、まったくそれに対応できていないとして、「オバマの弱さ」を強く印象づける構図を生み出している。期せずして「ネオコン的言説」の復活という現象も垣間見えるが、一方で国民は「アメリカの介入」についてはきわめて慎重な姿勢を崩していない。
こうした状況の中で行われる今年の中間選挙は、共和党の「ブランド問題」と「オバマ疲れ」という二つの負の力学が拮抗する中で行われる「パッとしない選挙」である。本来ならば、二期目の中間選挙はホワイトハウスにとっては、かなり戦いにくい選挙になるはずである。それもそのはずで6年ともなると、いかに「チェンジ」をスローガンとして掲げた大統領でも代わり映えしなくなってしまう。しかも、オバマ政権下でより深刻になった二極分化に国民は幻滅しきっている。しかし、ほぼどの調査をみても一貫しているのは、共和党の支持率が民主党のそれを大きく下回っていることだ。共和党は、オバマの「弱さ」に攻め入る姿勢を整えているとはいえない。
イデオロギー的な自己認識でいえば、依然として保守派がリベラル派を上回っており、決して「リベラル・ターン」が起きているわけではないが、この数字からは多くの保守派が共和党に不満を抱いていることがうかがえる。一貫して共和党の歩兵と見なされてきた宗教保守派の間でも共和党不信が高まっているといわれる。さらに保守派の間では、明らかにこれまで傍流であったリバタリアン的潮流が勢いを増している。これはランド・ポール上院議員(共和党、ケンタッキー州)への期待と支持というかたちで結実している。任期半ばのポールは今回の中間選挙には出馬しないが、2016年の大統領選挙に向けて(それはもう中間選挙直後から実質的に開始されることになる)、自分にどれほど風が吹いているか感触をさぐることになるだろう。ポールの出馬は、これまでのリバタリアン候補以上に党を裂く可能性がある。一方で、ティーパーティー的な潮流は一段落したかのようにも見えるが(今回の予備選挙では、エリック・カンター院内総務がティーパーティー候補に敗退した例を除けば、すべてのエスタブリッシュメント候補が生き残っている)、共和党自体がかなり保守化したとの見方もある。共和党内のイデオロギー的指標は明らかに錯綜している。
共和党ほど深い亀裂ではないが、民主党の中にも、オバマ政権が期待されたほど十分にリベラルでなかったとして、より戦闘的な姿勢を示すリベラル派が勢いづいている。その筆頭はエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)だ。告発調の演説が得意なウォーレンは、応援演説で引っ張りだこだ。ポールとは異なり、ウォーレン自身は、民主党を裂く意図はないようだが、オバマへの不満、さらには2016年大統領選挙に向けたヒラリー・クリントン・キャンペーンへの不満を集約するような構図になっている。この潮流は思いのほか勢いづく可能性がある。
ワシントンポスト紙のベテラン政治記者のダン・バルツは、今回の選挙の意味はピンポイントしにくいと論じ、敢えていえば「ワシントンの政治的リーダーシップに対する不信感」であると評している。今年の予備選挙は、一般的に投票率の低い過去の中間選挙の年に行われる予備選挙と比較しても、とりわけ低い数字がでているようである。まだ確定的な数字は見かけていないが、州規模の予備選挙が行われた25州の投票率を集計すると、わずか15%程度のようだ。これは過去50年で最も高かった1966年の32パーセントと比較すると17パーセントの下落である(Dan Balz, “Everyone says turnout is key. So why does it keep going down,” Washington Post, July 26, 2014)。予備選挙における投票率の下落は一貫した傾向であり、今回の選挙に限った傾向ではないが、有権者が今回の選挙の意味を特定しにくいと感じていることも、低投票率の一因になっていることだろう。
個別の選挙区では個別の力学が働いているものの、こうした状況をあえて総括すると、オバマ政権への不信感が基調となり、民主党には強い逆風が吹いているが、共和党が必ずしも民主党への不満の受け皿にはなりえていないという構図が浮かび上がってくる。だとすると今回は前回の中間選挙のような、はっきりとしたメッセージが見えてこない選挙になる可能性がある。ただ間違いないのは、オバマ政権への期待が、ほぼ完全にしぼんでしまった中で行われる選挙だということだ。しかし、依然として「その次」のステップがなかなか浮かび上がってこないため、「パッとしない選挙」になりそうな予感が大の選挙である。
ただ、中間選挙はそもそも一般に争点が必ずしもはっきりせず、選挙の結果が出てから事後的に意味付けされることもしばしばである。今回もそうなる可能性がある。両党とも「パッとしない」ことに変わりはないが、構造的には共和党が優勢であることについては大方合意がある。それは、政権二期目の中間選挙は政権与党には不利であること、政権の支持率が低迷していること、さらに民主党の方に改選議席が多いためである。下院はほぼまちがいなく共和党が多数党の地位を維持し、上院でも民主党の多数派体制をひっくりかえす可能性は十分にある。そうなった時に、どのような意味づけがなされるのか。たしかに今回の選挙はなにが争点なのか、必ずしもはっきりしないが、2016年大統領選挙の構図を形成していく上で重要な意味をもつであろうことは間違いないであろう。
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■中山俊宏 慶應義塾大学教授