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2014年アメリカ中間選挙 update 4:2014年中間選挙概括(中山俊宏)

December 11, 2014

共和党の圧勝だった、しかも予想をはるかに超えた勝利だった。上院、下院、州知事、州議会と、すべてのレベルで共和党は確実にその勢力を伸長させた。たしかに、もともと今回の選挙は共和党に有利な選挙ではあった。しかし、選挙が近づくとともに、多くの選挙で接戦が伝えられ、民主党が負け幅を最低限にくいとめるのではないかとの見方が優勢であった。しかし、実際にはその正反対になった(個々の敗因については、他のコラムが詳細に論じているので、参照されたい)。

ではその結果から何を読み取るべきなのか。読み誤りようがないのは、オバマ大統領への失望感が非常に大きなファクターだったことだ。個々の選挙ではそれぞれ別個の力学が作用してはいたが、「オバマ不信」が民主党の可能性を大きく拘束していた。しかし、オバマ大統領のなにがそんなにダメだったのだろうか。政権二期目の大統領が中間選挙で苦戦を強いられるのはよく知られたことだ。オバマケアに対する評価は真っ二つに分かれていたものの、ティーパーティー運動を発生させた触媒となった2010年の中間選挙の時ほど大きな争点ではなかった。景気は、緩やかにではあるが確実に回復基調にあった。景気回復への期待感は高まっており、失業率も確実に下がっていた。さらに2000年代の介入主義に疲れきっていた国民の期待に応え、退却の方向に舵を切っていた。オバマ政権は、国民の期待に概ね応えてはいたということになる。

中間選挙で、2008年と12年の選挙でオバマ大統領を勝利に導いた「オバマ・コアリッション」を再動員するのはもともと至難の技ではあった。2010年にはこれに失敗し、今回またそれを繰り返してしまった。オバマ・コアリッションを構成するエスニック・マイノリティー、若者、独身女性を、中間選挙で投票所に向かわせるのは容易なことではない。民主党は、人口動態でいえばその圧倒的優位がここ数年語られていた。しかし、それはこの層を動員できればの話である。今回の選挙では、この層に依存することの脆弱性も露呈してしまった。今後、オバマなきあとのオバマ・コアリッションをどのように維持・発展させていくことができるのか。民主党にとっては大きな課題となろう。

共和党はどうか。2012年の敗北を受けて共和党は、より多様な党の在り方を模索しつつあった。しかし、今回の選挙結果で、当面は白人票を固めればなんとかなるという状況への依存度を高めてしまったかもしれない。また今回の共和党の勝利は具体的な代替ビジョンがあってのことではない。それはもっぱら「オバマ不信」に乗りかかるかたちでの勝利だった。国民が共和党に統治のためのマンデートを与えたという状況を読み取ることは難しい。

今回の選挙で議会のバランスは大きく変わった。しかし、アメリカ政治が大きく変わることを期待することはできない。相変わらずの政治的分断と不毛な党派論争が喜劇的に増幅していくことが容易に想像できる。それが大統領選挙の騒乱と相まって、政治的興奮と政治的アパシーが併存するような不健全な状態が当分は続くであろう。

フランシス・フクヤマは、フォーリンアフェアズ誌2014年9/10月号に掲載された巻頭論文で、アメリカ政治を覆う閉塞感につき論じ、その論文を締めくくる文章の中で、なんらかの「外在的なショック」がない限り、アメリカ政治を覆っている状況は変わらないだろうとの悲観的見解を提示している。その外在的なショックがなんなのかについては、フクヤマは踏み込んだ議論はしていない。しかし、そう論評せざるを得ないような閉塞感がアメリカ政治を覆っている状況を否定すること難しいだろう。投票率も、ここ72年で最低の36.3パーセントだった。しかし、9.11テロ攻撃でも、リーマンショックでも十分でないとしたなら、他にどのような外在的なショックがありうるだろうか。

フクヤマの議論もそうだが、ここ数年目立つのはアメリカの統治制度それ自体がある種のクライシスに陥っているのではとの議論だ。いくつか具体的な処方箋も提示されている。予備選を長期間にわたって行うのではなく、すべての予備選を同一日に実施する。下院の任期を4年にし、大統領選挙のサイクルと一致させる。上院における一票の格差を問題視する声も高まっている。いずれも実現は難しいだろう。しかし、オバマ大統領の挫折は、一人のリーダーが、政治の在り方そのものを変えられるという政治に対するロマンティックな期待、もしくはメシア的希望が打ち砕かれたことをも意味する。それはアメリカ国民が大統領に期待するものを変えた可能性もある。制度的改変をめぐる議論が、このような状況を背景に語られているという側面も否定できないだろう。

いずれにしてもオバマ政権はあと2年は続く。しかし、2015年夏には大統領選挙に向けた動きが本格的に動きだし、オバマ政権の姿は霞みはじめていくだろう。失望の8年の後、アメリカ国民は次の大統領になにを期待するのか。これまでアメリカの歴史上、二期続いた政権が三つ続いたことは今回が初めてだそうだ。また二期続いた政権の後を同じ党の大統領が引き継いだ例も、戦後にはレーガン/ブッシュ・シニアのケースしかない。その意味で国民はやはり変化を求めるだろう。これはヒラリー・クリントンにとっては高いハードルである。共和党の方も、近年にはない混戦状態である。2012年も騒々しかったが、それはフリンジ候補が騒ぎ立てていたからであったが、今回は違う。大統領候補として十分に活躍できる経歴をもった候補が数多くいる。この人数の中から一人に絞り込んでいくのは容易なことではないだろう。

肝心のオバマ大統領の選挙後の動きを見ていると、「重力の魔」から解放されたような清々しささえ漂わせている。今回の選挙は、オバマ大統領にとっては、直接自分がかかわる選挙としては最後の選挙だった。根底においては非政治的な気質を有するオバマ大統領は、本当にある種の清々しさを感じているのかもしれない。選挙という重力の魔から解放されたオバマ大統領が、最後の二年をどのように乗り切るのか。ある意味、見物ではある。

■中山俊宏 慶應義塾大学教授

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
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