中国18全大会を受けて ―社会政策の領域に関して
法政大学客員学術研究員
及川 淳子
18全大会が閉幕し、習近平総書記を中心とする新指導部が発足した。退陣した胡錦濤は「和諧社会(調和の取れた社会)」を目指したが、貧富の格差はむしろ拡大し、腐敗の蔓延など、社会の不正や不公平に対する庶民の不満は深刻だ。指導部は危機感に満ちているといえよう。
ここでは、まず11月8日の開幕式で胡錦濤が発表した政治報告から、社会政策に関する総括と今後の政策方針を概観する。その上で、15日の第18期中央委員会第1回全体会議終了後の内外記者会見における習近平の発言について、注目点を指摘しておきたい。
胡錦濤は政治報告において生活水準の向上など過去十年間の成果を強調したが、同時に「発展における不均衡、不調和、持続可能ではない問題」など困難が多いことも認めた *1 。2020年までに「全面的な小康社会(ややゆとりのある社会)」を実現するために、社会の調和と安定を保証する社会建設の重点に位置づけられたのが「民生の保障と改善」である *2 。国民の生活に直結する具体的な政策として提起されたのは、(1)教育、(2)就業、(3)所得、(4)社会保障、(5)健康、(6)社会管理、の6項目だ。それぞれ課題と努力目標が明記されたが、これら6項目は2007年の17全大会報告と同様であり、新鮮味はない。むしろ、社会政策が難題であることをさらに印象づけたといえる。
18全大会では、2020年までに国内総生産(GDP)と国民一人あたりの収入を2010年比で倍増するという計画が発表された *3 。しかし、社会の様々な不満が解消され、庶民が日々の暮らしの中で豊かさを実感できなければ、新指導部が評価を得ることは困難だろう。
総書記に就任した習近平も民生重視の姿勢を表明し、内外記者会見では「素晴らしい生活に対する人民の憧れこそが、我々の努力目標だ」と強調した *4 。「民生の保障と改善」は、新指導部も引き続き重視する政策であり、各分野での問題解決が期待されている。
胡錦濤・温家宝体制は、社会主義の経済建設・政治建設・文化建設・社会建設という「四位一体」の改革を目指したが、今回はさらに生態文明建設を加えて「五味一体」の改革として提起された。「科学的発展観」に基づき、エネルギーや資源の節約と環境保護に根ざした持続可能な発展を目指すという方針である。経済成長のひずみを民生や環境の面でどのように解決していくのか、新指導部の具体的な政策に注目したい。
*1 「胡錦濤在中国共産党第十八次全国代表大会上的報告 一、過去五年的工作和十年的基本総結」新華社、2012年11月17日。
*2 同報告「七、在改善民生和創新管理中加強社会建設」。
*3 同報告「三、全面建成小康社会和全面深化改革開放的目標」。
*4 「新一届中共中央政治局常委中外記者見面会」人民網、2012年11月15日。