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日中政策勉強会レポート「東シナ海をめぐる国際関係」

October 3, 2011

ゲスト・スピーカー:佐藤考一 桜美林大学教授

9月25日、26日と尖閣諸島海域を中国の調査船が航行し、海上保安庁が警告を発するというニュースが相次いで報道された。また、昨年秋の中国漁船衝突事件での船長保釈が「政治判断」だったかどうかについて国会が揺れている。

東京財団で毎月開催している日中政策勉強会では、7月23日・24日、長野県上諏訪にて夏季合宿を行い、講師として、桜美林大学の佐藤考一教授、経団連の青山周氏、高原明生・東京財団上席研究員、そしてコメンテーターにNHK経済キャスターの飯田香織氏を迎え、議員、省庁関係者、党スタッフ、議員秘書等が積極的に意見交換を行った。

佐藤教授の「東シナ海をめぐる国際関係」についての講演内容は、今後のそして昨年の尖閣をめぐる問題を考える上で重要な示唆を与えるものだった。以下、研究会での講演内容をレポートする。

(1)石油・天然ガス資源および水産資源

尖閣列島問題が問題となるのは、そこに資源があると考えられているからだ。石油・天然ガス資源について、最初に騒ぎになったのは1969年5月、国連極東経済委員会のレポートが出た時である。このレポートを受けて、1970年代、日本の石油会社が探査・採掘をしたいと政府に申請したが、政府は中国を刺激してはいけないと却下した。日本の年間石油消費量は、少ない数字だと18億バーレル。多くて23億、24億バーレルぐらいだといわれている。94年に経済産業省が行った試算では、東シナ海の中間線の日本側全体で、原油換算で日本の消費量の2年分ぐらいは出るとの結果が出されている。中国側の調べで既に出ることが確認されている天然ガス田の採掘可能量は、日本の試算によると、石油換算で日本の年間消費量の10%前後とされている *1

2004年以降、政府は探査を許可したが、今度は石油会社のほうがあまり採掘に積極的でないという状況が続いている。それは、小さな油田・ガス田が見つかってしばらく出ても直ぐに枯れてしまうようであれば、やっても価値がない。また、石油は、確実にあることがわかっている場合でも掘って当たることは少ないので、出るかもしれないがコスト的に引き合わないというケースが多いからだ *2

東シナのもう一つの資源に水産資源がある。東シナ海と黄海で漁獲量はだいたい年間920万トンぐらいで中国が800万トン、韓国が100万トン、日本は20万トンとなっている。中国側の漁獲量が非常に多い。しかし、獲れる限界まで獲っているというのが現状だ。

(2)東シナ海紛争の歴史的経緯

中国には古い時代から尖閣列島について領有権を持っているという議論がある。その中で明代の「航海日誌」について、述べる(以下、緑間栄『尖閣列島』ひるぎ社、から引用)。結論からいえば、「航海日誌」は私物で公式の記録ではないということが1つ。それから島の名前が書いてある文章や島が描いてある地図、絵地図はかなりあるが、沿岸航行でどこまで行ったらどの島が見えたという記録なので、領有権を持っていたかどうかの証拠にはならない。また、明代の船が琉球へ使いを遣わす時、水先案内人として琉球人を雇っていると書いてある。尖閣の島が見えたときに琉球人が「ふるさとが近い」と言って喜んだという。こうした記述で中国が古来より領有権を持っているという議論はいささか怪しいということになる。

1884年に石垣島の実業家・古賀辰四郎氏が、初めて尖閣列島に上陸する。この後政府に働きかけ日本が領土編入をした後、古賀氏が尖閣諸島を借り受けて、鰹節を作り、漁業、ウミガメ漁などで事業を展開した。日清戦争後の1896年に日本政府は古賀氏に尖閣列島を貸与しているが、中華民国がこの時期文句を言った形跡はない。1920年に尖閣列島で中国漁民が難破して漂流してきたのを石垣島の島民が助けたところ感謝状まで贈っている。

その後1953年1月8日付『人民日報』で尖閣列島の問題が扱われているが、前原元外相も指摘した通り、琉球列島の一部として尖閣列島が報道されており、尖閣を含む琉球の人々がアメリカ軍の基地があることに反対しているという書き方である。その後、国連の探査があって、1969年の11月に日米首脳会談で沖縄返還が公表されると、資源があるということと地域のパワーバランスに変化が生まれたことで、中国は領土の問題を提起してきた。このパターンは南シナ海と似ている。ベトナムからアメリカ軍が退去した直後に、中国は南シナ海(1974年:パラセル諸島)に進攻している。地域のパワーバランスが変わるときに中国は動くのである。

(3)活発化する中国の領海侵犯

2004年11月10日の領海侵犯事件が発端となった部分が大きい。これは漢級原潜が日本の領海を突っ切り、石垣島と多良間島の間の日本の領海に入った事件で、政府は原潜を追尾していた自衛隊に攻撃命令を出さなかった。小泉総理が海上警備行動を発動したのは8時45分。漢級原潜がもういなくなった後だった。中国が海軍の行動の活発化、盛んに日本の沖縄の海を突っ切るようになったのは、この事件での経緯が関係あったかもしれない。中国はこの事件で日本は何もしてこないと感じたかもしれない。

(4)中国の海軍力

アメリカの水上艦艇はほとんどガスタービンを使っており、日本は75.5%がガスタービンだ。ところが中国は9.2%でほとんどが旧式のディーゼルエンジンである。ガスタービンは罐焚きを始めて90分で出航できるのに対し、ディーゼルだと4時間かかる(以下、防衛省関係者からの佐藤教授のヒアリングによる)。さらに、前進後退、左右に方向を変える運動の効率から言うと、ガスタービンだと数分以内で前進後退入れ替えができる。それに対して旧式のディーゼルでは10分以上かかる。船の数についても、中国は相当持っているが旧式の船が多い。

空母の保有について、中国は大国のシンボルとして空母が欲しいということのほうが強い。ちなみに全通飛行甲板型の船を空母とすると、東アジアではもう珍しくなく、タイはチャクリ・ナルエベトという小型の空母、韓国は独島(どくと)という強襲揚力艦。日本はヘリコプター護衛艦が2隻ある。中国が空母を持つことにあまり神経質になることはない。

(5)有事シナリオ

今後起こりうる有事シナリオは3つある。1番目が尖閣単独占領。海上民兵による占領とよくいうが、人民解放軍が占拠する可能性は大きくない。尖閣列島では魚釣島が最大だが、島自体が小さく傾斜地で、戦略的価値は低いからだ。ただ民間団体が上陸して五星紅旗を振るというのはあり得るだろう。

2番目として艦載ヘリなどの挑発から偶発的な衝突に至るというシナリオ。2001年4月海南島の近辺で米国偵察機と中国のジェット機がぶつかるという事故があった。こういうことは今後も起こりうる。最近では、中国の艦載ヘリが中国の軍艦から飛んできて日本の自衛隊の護衛艦の周りを飛ぶという事件が去年、今年と続けてあった。2010年の4月には「あさゆき」という護衛艦の水平90メートル、垂直50メートルまで近づき、周りを2周して帰った(以下、『朝雲新聞』2010年4月29日、『中国/台湾海軍ハンドブック』海人社、2003年、および防衛省関係者からの佐藤教授のヒアリングによる)。艦載ヘリはかなりスピードが出る。時速140ノット、キロにすると259キロ。秒速72メートル。90メートルまで近づいたということは、2秒足らずで衝突するということ。ヘリの場合は風の影響をかなり受けるのでかなり危なかったと言える。

3つ目は台湾。台湾進攻作戦のときに台湾を支援するためにアメリカ軍が使うであろう可能性のある島、要するに飛行場のある島を中国軍が占領する可能性がある *3

(6)尖閣列島に対するアメリカの対応

72年の沖縄返還の直前に「沖縄返還に伴い尖閣列島の施政権は日本に返還するが主権については中立の立場を取る。このアメリカの方針は不変だ」と言っている。昨年の尖閣での巡視船への衝突事件があった時、ジェフリー・ベイダー国家安全保障会議アジア担当上級部長は「長く保持されてきたアメリカの立場は、第一に、尖閣列島の主権について日中のどちらの側にも立たない。第二に、日米安全保障条約は日本によって管理されているすべて、全域に及ぶ。尖閣列島は72年の沖縄返還以来日本によって管理されてきたという認識にある」と述べている。

(7)東シナ海問題に対する日本政府への提言

安全保障政策対話はもちろんのこと、南シナ海で日米豪が演習をやったが、東シナ海でも宮古水道、石垣水道の近辺で日米、さらにはオーストラリア、インドなどと演習をやってみるのが大事ではないか。

さらに、日米中あるいは日中の間で海上安全委員会とでもいうものをつくるべきである。軍艦の共通の行動ルールというものを作ることで偶発的な衝突を予防できる。問題が生じた場合の協議の場にもできる。海上安全委員会の下、捜索救難の合同訓練をいっしょにやるのもいい。

次に海の現場から官邸までの緊急事態の訓練をやるべきである。国内海洋法令も整備していくべきだ。海洋基本法と貨物検査法だけでは、接続水域から先をどう守るのかはっきりしない。それに合わせて大隈海峡など国際海峡の見直しもしなければならない。その際、南シナ海紛争の当事者たちの研究の応用をやっていく必要がある。特に沖ノ鳥島の地位については研究が必要であろう。

最後に経済協力、ODAの側面では海洋汚染防止などお互いにとって前向きな分野での協力をしていくことが重要である。共同漁業水域を設定する必要も出てくるだろうし、お互いにとって水産資源の増殖の協力もしていくべきである。

(文責:大沼瑞穂 東京財団研究員)



*1 日本政府資料、および『読売新聞』2004年8月25日、『朝日新聞』2010年6月1日。以下、事実関係の引用・参照資料については、原則として レジュメ (PDF:176KB)に記載
*2 石井彰・藤和彦『世界を動かす石油戦略』ちくま新書
*3 本件について、たとえば藤井久「西表島を奪回せよ」『軍事研究』2005年3月号、を参照。但し、2005年4月に「国共和解」が成立している。

    • 元東京財団研究員
    • 大沼 瑞穂
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