東京財団上席研究員 福島安紀子
東京財団研究員 西田一平太
第1稿では「積極的平和主義」の旗を掲げる日本政府の対外政策において、対外援助協力の果たし得る役割を理論・実践の観点から検討した。続いて第2稿では、実地調査を行った「アフリカの角」地域などにおいて欧米が行っている安全保障と開発の連携の実態を報告した。それでは日本も安全保障と開発のリンクを更に追求し、ODAから対外援助協力へとスコープを広げるべきなのだろうか。第3稿では、これまでの日本の対外政策議論と平和構築の現場での活動を振返りつつ、日本のアプローチの特徴と課題を明らかにし、「積極的平和主義」の下で今後検討されるべき政策課題について概観する。
1.日本の対外援助協力政策と課題
共通の認識、異なるアプローチ
まず、日本の政府文書において開発援助と安全保障協力の関係はどのように採り上げられているのかを確認したい。援助について日本政府の公式文書ではじめて採り上げられたのは1992年に発表されたODA大綱である。しかしながら、この大綱では援助と安全保障は直接には結びつけられておらず、あくまでも一般的な表現として「開発途上国の安定と発展が世界全体の平和と繁栄にとって不可欠という意味での国際社会の相互依存関係を認識しなければならない」と記載されているにすぎない。
一方防衛大綱への提言として防衛問題懇談会が1994年に発表した報告書(樋口レポート)では安全保障とODAの関係を示唆する表現が盛り込まれた。同年にUNDPが発表した人間開発報告書の中では「人間の安全保障」という概念が示されたが、このレポートには人間の安全保障と言う用語こそ用いられていないが、その考え方が反映されている。
「局地的武力衝突の誘因となるのは、経済的貧困や社会的不満であり、それと関連した国家の統治能力の喪失である。例えば、最貧国を多く持つ地域や資源は豊かだが地域的安定度が極めて低い地域などは、注意が必要である。この点に着目すれば安全保障問題の解決には単に軍事的手段による対応だけではなく、経済・技術援助を含めた多元的な手段を駆使して、総合的に取り組むことがますます必要になってくると思われる」
さらに安全保障の視点からのODAとの連携が盛り込まれた。
「なお、平和維持活動の民生部門や、紛争収拾後の平和建設が、安全保障のための国際協力の重要な分野であることを、ここで、強調しておきたい。この分野では、日本が特に有意義な貢献をすることができるはずである。政府レベルでは、例えば開発援助(ODA)政策をこのために積極的に利用すべきである。また、民間の自発的な参加が、この点ではとくに有意義でもあるので、非政府団体(NGO)の活動が活発になるように、社会全体が真剣に取り組むべきである」
2003年に改訂されたODA大綱においては、基本方針として「人間の安全保障」が明示的にあげられている。そして重要課題として「平和構築」が打ち出されている。
「開発途上地域における紛争を防止するためには、紛争の様々な要因に包括的に対処することが重要であり、そのような取組みの一環として、貧困削減や格差の是正のためのODAを実施する。さらに、予防や紛争下の緊急人道支援とともに、紛争の終結を促進するための支援から、紛争終結後の平和の定着や国づくりのための支援まで、状況の推移に即して平和構築のために二国間および多国間援助を継ぎ目なしに機動的に行う。具体的にはODAを活用し、例えば和平プロセス促進のための支援、難民支援や基礎生活基盤の復旧等の人道・復旧支援、元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)や地雷除去を含む武器の回収および廃棄などの国内の安定と治安の確保のための支援、さらに経済社会開発に加え、政府の行政能力向上も含めた復興支援を行う」
すなわち紛争防止にODAを活用すること、また紛争後の平和構築においてもODAを活用するとの方針が打ち出されたのである。
しかしながら、日本の政策文書の作り方の特色もありODA大綱には何をするかは書いてあるが、日本の安全保障との関連は明記されていない。むしろ安全保障や防衛関連文書に安全保障の側面から援助との連携が記述されている。例えば、その後発表された安全保障の視点からの文書ではいずれも援助と安全保障の関係が明記されている。
2004年に発表された「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書(荒木レポート)には、安全保障の基本目標としての「国際的安全保障環境の改善による脅威の予防」が記述され、そのために日本が何をすることが出来るのかが書き込まれている。
「かつて日本で国際協力といえば、日本の安全保障に直結する切実な活動であるとの認識が不足していたが、今日世界各地で行われている国際平和構築や人間の安全保障実現に向けた活動は、それ自体が日本の安全保障に直結する活動ととらえるべきである」
すなわちここでは開発援助が国際貢献のみならず、日本の国益につながることが書き込まれた。これを受けて、2004年末に改定された防衛大綱ではODAの戦略的な活用など外交活動との関係が明記された。
「国際的な安全保障環境を改善し、我が国の安全と繁栄の確保に資するため、政府開発援助(ODA)の戦略的な活用を含め外交活動を積極的に推進する。また、地域紛争、大量破壊兵器等の拡散や国際テロなど国際社会の平和と安定が脅かされるような状況は、我が国の平和と安全の確保に密接にかかわる問題であるとの認識の下、国際平和協力活動を外交と一体のものとして主体的・積極的に行っていく」
さらに2010年の「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書では、人間の安全保障の観点から望ましい国際秩序を形成する手段として、ODAの戦略的活用や民間団体との連携が記述されている。
「自由で開かれた国際システム維持のためには、個人の自由と尊厳と言った普遍的、基本的価値が守られなければならない。その意味で、統治能力の欠如した破綻・脆弱国家は国際システムそのものに対する脅威となりうる。こうした国家においては生命・財産の保障といったごく基本的で普遍的な価値が守られていない。個々人の自由と尊厳が守られる社会を実現するためにも、『人間の安全保障』の観点から、より自由で開かれた国際システムの形成が望まれる」
「また、人間の安全保障の観点から、テロや海賊が生まれる社会・経済的な原因にも着目し、その状況を軽減するためにも戦略的なODAの活用を検討し、推進することが必要である。人間の安全保障に関する課題には、非政府組織(NGO)、民間企業による支援等を含め、官民が緊密に連携をとりながら取り組むことが求められる 1 」
現在の安全保障環境に応えられる、より広義の援助が必要
2013年12月に採択された国家安全保障戦略(NSS)においても、外交・防衛とあわせて開発が安全保障戦略の中に含まれていることに注目しておきたい。
「我が国は、これまでODAを活用して、世界の開発問題に積極的に取り組み、国際社会から高い評価を得てきた。開発問題への対応はグローバルな安全保障環境の改善にも資するものであり、国際協調主義に基づく積極的平和主義の一つの要素として今後とも一層強化する必要がある。こうした点を踏まえるとともに、『人間の安全保障』の実現に資するため、ODAを戦略的・効果的に活用し、国際機関やNGOをはじめとする多様なステークホルダーと連携を図りつつ、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向け、貧困削減、国際保健、教育、水等の分野における取組みを強化する」
ここに至って、防衛大綱より上位の政府文書にも戦略的なODAの活用がはっきりと打ち出され、連携する相手も政府内のみならずNGO等も含めたものとして方針が示されている。
このように1990年代からODAと安全保障の関係が徐々に公式文書では認識されている。しかしながら、ODAの関連文書では人間の安全保障は採り上げられているが、日本の安全保障との明示的な関係は示されていない。また、2004年の防衛大綱改定においてODAの戦略的活用が明記されたが、同文書は閣議決定を経たものであるにしても主に防衛を司る防衛省(当時は防衛庁)に対するものであることは注意が必要であろう。すなわち、上記の懇談会の報告書で提言されていることが日本政府全体として政策上反映されているかどうかの判断は難しい。今般、この関係が国家安全保障戦略の中で明示的に示されたことから、現在ODA大綱の改定にむけた作業が行われているが、そのときにこの両者の関連性を明確に打ち出すことが必要であろう。
ODAの実施組織であるJICAは旧来一定水準以上の治安が確保される状況においてのみ事業を展開してきたが、平和構築支援が強化されるようになった2002年頃を境に、治安状況その他のリスクと事業実施の必要性の双方を慎重に検討しつつ、平和構築に資する開発援助に踏み切っている 2 。
今後は相乗効果を上げる方途として開発援助に留まらず、より広義の援助(対外援助協力)の枠組みの中で、現在の安全保障環境に応えられる総合的な政策を模索する必要があろう。それがまさに積極的平和主義の実現のひとつの道である。
2.日本流「包括的アプローチ」の試み
政策目標と現場における連携
第2稿では欧州連合(EU)や米アフリカ軍、英国の安定化ユニットの取組みの例を紹介した。先進国は変わりつつある国際安全保障環境に対応して、より効果的な対外援助協力のアプローチを模索しており、その中では民軍連携の在り方も試行錯誤が続けられている。軍関係者に尋ねると、いずれも軍事的な勝利だけでは、地域の安定という高次の政治目標を達成できないという認識がある。これらのアプローチは対象地域における政策指針を関係機関が共有するものであり、一般に「包括的アプローチ(comprehensive approach)」「全政府的アプローチ(a whole-of-the-government approach)」あるいは「統合的アプローチ(integrated approach)」と呼称されることが多い。注意が必要なのは、必ずしも民軍両方の機関が一体的に運用されることを示すものではないことである。EUの例にあるように、個別の政策手段による事業は緩やかな連合体として統合されるというやり方もある。一方、米軍の民生協力部隊と米国国際開発庁(USAID)のように、現場での情報共有や相乗効果が認められる分野での事業協力を行うやり方もある。実施方法は組織や事業の性質によって異なるものの、現場の活動が上位の共通した政策目標に基づいていることが重視されている。では、日本はどのようなアプローチなのだろうか。
第1稿で記述した様に日本の政府政策指針において、国際安全保障の現場で自衛隊による国際平和協力活動とODAなどの国際協力がどのように連携し得るのかが明記されたのは2013年12月に策定された国家安全保障戦略がはじめてである。しかし、「国際平和協力懇談会(2002)」の提言などを受け、自衛隊の国際活動にあたっては平和構築分野におけるODAとの現場連携が着実に進められてきている。当初は直接的な連携はなかったものの、次に見るように2003年の自衛隊イラク派遣を機にODAとの連携が始まっている。
自衛隊の海外活動は1991年のペルシャ湾危機に際して掃海艇を派遣したことに始まる。1992年には国際平和協力法が成立するが、このころから国際社会では紛争の予防から紛争後の復興支援までを含む「平和構築」の概念が広まりつつあった。これを受けて日本政府も2000年代初頭には「平和構築」を援助活動の重要政策として位置づけている。この時期においては、国連PKOではカンボジア(1992)・モザンビーク(1993)・ゴラン高原(1996)への派遣があり、テロ特措法に基づいてインド洋に給油派遣(2001)も行われている。これらの活動が行われる際には、外務省も自衛隊の活動に留意しながら人道・平和構築の観点から当該国あるいは周辺国での支援を実施していた。
この二つの領域が直接重なったのが、自衛隊のイラク派遣時(2003)だ。同国の地方都市サマーワに展開した陸上自衛隊が実施した給水・医療支援や公共施設の復旧・整備活動に対して物資供給という形でODAが活用された。続いて2004年には、東ティモールで自衛隊部隊の機材を使った現地政府への技術移転プロジェクトなども行われている。当初「車の両輪」と呼称されたこれらの取組みは、近年ではハイチでの震災対応や南スーダンへの国連ミッションへの参加にあたり「オール・ジャパン」案件として行われている。また、国際災害支援においても、2013年11月の台風30号(ハイエン)で被災したフィリピンに対する官民による対応が「オール・ジャパンの支援態勢」と報じられた。自衛隊の国際活動と援助手段の連携は、その政策有用性に一定の意義が見出されていることに加え、特に人道支援・災害救援(HADR)分野においては国民の理解が得られやすいものとして認識されているといえよう。
「顔が見える援助」としてのアプローチ
2014年8月現在は国内の不安定化を受けて活動が中断しているが、最も新しい取組みである南スーダン国連PKOの現場では、二つの試みが展開されてきた。ひとつは現地支援調整所の設立であり、その目的は国連特別代表の率いるミッション司令部や活動協力を行う他国軍との連絡調整、そして外務省・JICAをはじめとした文民機関との連携である。国連PKOの案件を実施する施設部隊とは別個に設けられ、企画・調整機能に特化している点が特徴的である。このような形態はハイチ派遣時からであるが、これによって、地域情勢の把握やほかの支援実施機関との調整がしやすくなり、より幅広い視点から案件形成に取りかかれる。第二の試みはまさに「オール・ジャパン」案件の実施である。現地支援調整所と外務省・JICAは週1回、定例会議を行い、互いの情勢認識の共有や案件の形成から進捗確認等を実施してきた。ここで出てきた案件はミッション司令部の承認を得て実行に移されるが、例えば「ジュバ市ナバリ地区コミュニティ道路整備事業」はその好例である。
同事業は、ジュバ市内の荒れたコミュニティ道路(約1.7km)の路面を簡易舗装により補修するとともに雨季の雨水を集める大型側溝を整備するものである。この案件の実施においては自衛隊が工事の実施を行うが、そのための資材は外務省から草の根無償資金協力(8000万円)を受けた地元の州政府により提供される。また、ジュバ市のマスタープランを作成しているJICAは設計段階から技術協力を行い、国外から調達する物資については日系資材業者が協力している。日本関係者が手を取り合って行う事業として、まさに「オール・ジャパン」案件なのである。
このような事業は日本の「顔が見える」援助として一定の意義がある。一方で、現場主導で実施可能なことを行ったに過ぎないという批判もあろう。実際、これらの案件は南スーダンの安定と発展の全体像を踏まえた上で、平和の定着のために他の案件とともに戦略的な観点から立案されたものとは、必ずしも言い難いのも事実だ。「オール・ジャパン」案件は援助サイドと防衛サイドの技術的連携事業としては画期的ではある。しかし、その呼称から想起されるのは日本人関係者の連携というものに留まり 3 、日本政府が南スーダンPKOで有する外交・安全保障目標にどのように位置づけられるのかは明らかではない。また、案件形成時に日本関係機関での事前協議が求められるため、自衛隊部隊に対して指図する立場の国連ミッション司令部においては、そのプロセスや優先順位の付け方において問題視される可能性がある。今後は、現場での技術的な協力事案を越えて、自衛隊の国際平和活動と援助を日本政府の政策としてどのように連携させるかも問われてくる。
3.日本の政策議論の今後と検討すべき点
「ODAの軍事利用」ではない
2014年3月、外務省は「政府開発援助(ODA)大綱見直しに対する有識者懇談会」の設置と2014年中に閣議決定を行う方針を公表した。これは前述の国家安全保障戦略に基づくものであり、見直しの背景として「国際平和協力における要請」が挙げられている。具体的には「紛争後の平和構築等の国際平和協力におけるシームレスな支援の必要性から、ODAの戦略的活用と、非ODAの協力(PKO等)との連携の必要性が高まっている」とされる。
第二次安倍政権が進める集団的自衛権をめぐる議論や防衛装備品移転三原則(2014年4月閣議決定)と相まって、一部の報道ではこれが「ODAの軍事利用」を招くと批判されている。日本政府はこのような誤った認識を正す必要がある。平和構築を含め国際安全保障の文脈においては、安全保障と開発援助の領域が重なることに異論は出ない。ますます複雑化する安全保障上の課題、特に持続的な平和と安定の確保のためには分野横断的なアプローチが必要であるという点についても意見は収斂している。例えばソマリア沖の海賊対処がそうであるように、究極的に海賊をなくすためには、根源的な問題に取組み、対象国・地域の安定確保が求められる。つまり、軍や警察などによる制度的な治安強化手段の確立を補完するために、法の統治の確保・地域社会の再興・経済復興などを通じた社会のレジリエンスを高めることが必要である。これらは安全保障的な観点に立脚するものの、ODAを軍事機構に対して使うものではない。
日本の政策議論の今後
これまで、日本の連携アプローチは基本的に現場主導で実施されてきた。これが政策レベルで方針として枠組みが整備されることにより、平時からの関係者の情報共有も可能となり、実際のオペレーションでの協力もより円滑になるであろう。もちろんそれは、現地での互いの活動をむやみに拘束しないことを前提とする。つまり、場当たり的な連携ではなく、予め包括的な連携の在り方について協議を重ね、情報を共有し、制度を整えておいた方がよいという考え方である。課題がますます複雑化し、分野横断的になる中では、対処もまた様々な糸を撚り合わせて対応策を打ち出していかねばならず、そのためには包括的アプローチは成果をあげるポテンシャルをもつ。
また、近年、諸外国においては紛争の再発防止と平和の定着、あるいは地域における不安定化を抑止するといった観点から、戦略上重要視される国の軍事機構に対する能力構築(いわゆる「キャパビル」)支援を強化している。日本においても、アジア太平洋の情勢変化に能動的に対応する必要性、また自衛隊の保有する能力を防衛協力の一環として活用しようという観点から能力構築支援の有用性が認められ、今次の国家安全保障戦略ならびに防衛大綱では能力構築支援事業の実施を強化する旨が盛り込まれた。これはODAの戦略的活用とも関係し、各国から関心を集めている。自衛隊はまた、国際平和協力の現場において「外国の住民その他の関係者の理解および協力を確保するため」に民生協力を実施することができる。この分野をどのように拡充するかについても検討されるべきであろう。
第3稿においては、国家安全保障戦略が策定されるまで日本政府の政策文書において開発援助と安全保障が必ずしも一体的に捉えられてこなかった経緯を振返り、現場で試行錯誤されてきた「オール・ジャパン」での連携実態についての考察を行った。今後、自衛隊の国際活動の領域が広がるにつれて、ODAとの連携は国連PKOや人道支援・災害救援だけでなく幅広いものとなっていくことが見込まれる。「ODA大綱見直しに関する有識者懇談会」報告書においても戦略性の確保と省庁・政府機関の連携の強化が触れられているが、自衛隊の国際活動とODAのより効果的な連携を図るためには政策・現場の両方において相互の意思疎通がしやすい環境を整えることが必要である。そのためには、まず政策の司令塔となる国家安全保障会議(NSC)に国際安全保障協力を専任とする部署を設置するなどの機能強化が求められよう。省庁ならびにJICAなど政府機関が情報を共有し、国家目標達成に向けた計画を検討するのである。また現場においては、外務省からの出向として派遣自衛隊部隊を外交面で補佐するポストも求められよう。現地大使館との連絡調整に加え、現地での軍事的なプレゼンスを代表する司令官に対して、情勢分析等のアドバイスを提供するものである。これらに加え、第三者的な観点から「オール・ジャパン」の取組みを検討する有識者懇談会があってもよい。
第1稿から第3稿までの本レポートは東京財団の「対外援助協力」プロジェクトの中間報告である。国家安全保障戦略が示す通り、今もって世界有数の先進国である日本が果たせる国際的な役割は大きい。また先進国・途上国を問わず、これまで培ってきた開発分野での知見や先端技術の応用、あるいは自衛隊の有する最新の装備体系や運用能力に対する国際社会の期待は高い。これらは日本の有する重要な資産であるが、欧米と同様に今後はより効率的で効果の高い政策の実施が求められてこよう。援助と安全保障政策の連携は今の時代において必然であり、「対外援助協力」という分野横断的な視点に立った政策の検討が必要とされている。
1. 対外援助協力プロジェクト第4回研究会(2013年8月19日)における田中明彦JICA理事長の講演を参考とした。
2. 戸田隆夫「平和構築支援における開発援助の役割と課題」大坪滋・木村宏恒・伊東早苗(編)『国際開発学入門』勁草書房 2009 485-496頁
3. 当該事業に関わらず、「オール・ジャパン」という呼称そのものの是非についても検討の余地があるかもしれない。この呼称は「日本人同士、一緒にがんばってやろう(やっている)」という一体感や状態を表すものとして有意である一方、たとえば連携的活動によって日本の存在感を演出するなど、本来は政策手段である連携自体そのものが目的化する恐れもある。また、連携事業に含まれない日本人の外部者あるいは外国人に対して排他的な印象を与えかねず、幅広い連携の妨げとなる可能性も否定できない。「オール・ジャパン」が何を意味するのか、概念形成が求められる。