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【書評】「戦間期日本の社会集団とネットワーク   デモクラシーと中間団体」猪木武徳編著

November 17, 2008

評者:村井良太(駒澤大学法学部准教授)


本書は、国際日本文化研究センターでの四年におよぶ共同研究の成果であり、社会集団とネットワークに着目し、デモクラシーと中間団体の関係から戦間期日本を考察する論文集である。本書の特徴は、第一に戦間期日本を論じるに際して「大正デモクラシー」概念を出発点としていることである。そこで第二に、「健全なデモクラシーの運営にとって必要不可欠な大前提」としての「自由な結社」に着目する。本書は、個人でも国家でもなく、両者を結びつける「中間団体」やネットワークに注目し、個々の具体的な事例を検討するのである。検討に際しては、「この時期の行政の分権化は不完全なものであった」など、「共通のバックグラウンド」を了解しあいながら進められていることにも注目したい。そして第三にこれもデモクラシーそのものの性質に基づくことであるが、「分野の異なる研究者」が集い、本書で扱われている分野も政治史、経済史、さらには社会史と幅広い。

本書は三部十五章からなる。第一部では、元老・宮中の情報特性、在郷軍人会や黒龍会など、デモクラシーが生み出しつつデモクラシーとすれ違っていく政治領域について、第二部では、怪情報が飛び交う社会や後の戦時期に特徴的に見られた時代精神へと次第に推移していく場といった社会領域について、そして第三部は、経済生活に関わる領域における社会集団とネットワークについて、それぞれ個別のテーマにそって論じられている。

本書に所収されている十五篇の論文は何より一つ一つとして面白い。一例をあげれば、電化に関する啓蒙活動を論じた十四章の伊東章子論文を読んで、戦後日本社会の一つの源流について考えさせられた。とはいえ、より大きな価値は本書全体を通しての含意である。本書の議論は特に結章のような場で総括されているわけではないが、デモクラシーや市場経済に対する中間団体の持つ両義的関係への眼差しという点で共通している。一三章の猪木武徳論文は、宗教とデモクラシーの関係について、「デモクラシーが健全に運営されるための道徳的基盤としての宗教」という位置づけとともに、「デモクラシーの展開にとって宗教が障害になりうるケース」を想定している。それは日本の近代化のスピードの速さにかかわる問題であるとともに、古今東西を通じていかなるデモクラシー社会にも共通する問題である。また、本書所収論文は外交案件それ自体を問いとするものはないが、多くはキャッスル事件や民俗学研究における領域性など外交が小さくない位置を占めている。デモクラシーと外交と中間団体の興味深い三者関係を考察する上でも有意義であろう。

第一次大戦後には社会の大衆化や民主化、国際化など既に現代世界と共通する基本構造が現れ、さらに近年の政治状況を反映して戦間期の日本政治に対する関心は高まっている。このような戦間期日本を問う上で本書のように体系的な研究デザインの下、具体的で実証的な検討を積み上げていく意義は大きい。その上でさらなる希望を述べるとすれば、一つは時期区分の問題である。戦間期は激動期にあたり局面によって大きく時代状況を異にしている。そこで了解事項としてデモクラシーとの関係で何らかの時期区分を仮設し、各々の中間団体やテーマ毎の時期区分間のズレをつきあわせてみることは有意義ではないだろうか。同じく流動的であった政治構造に対しても各中間団体やネットワークはどのような構造を前提として各自の戦略を展開したのだろうか。優れた共同研究の成果に敬意を表するとともに、これを意義深い出発点としてさらに研究が進められていくことを期待したい。

    • 政治外交検証研究会メンバー/駒澤大学法学部教授
    • 村井 良太
    • 村井 良太

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