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【書評】野中尚人『さらばガラパゴス政治 決められる日本に作り直す』(日本経済新聞出版社、2013年4月)

July 2, 2013

評者:小宮和夫

日本政治は「ガラパゴス化」し、「坂道を転がり落ちている」。比較政治学の視点から日本政治研究に取り組む野中尚人氏は、日本政治の現状をこのように診断する。
では、なぜ日本政治はガラパゴス化したのか。著者は、これを次のように説明する。他の先進国では、政治の仕組みに関わる改革・改良が当然のごとく進められてきた。これに対し、戦後の日本では、こうした改革・改良がなされてこなかった。そのため、現在の日本は、政治の「進化発展のプロセス」から完全に取り残されている。追い打ちをかけるように、著者は現在の日本政治を「スマートフォンの時代の壁掛け黒電話」という巧みな比喩で喝破する。
本書では、イギリス、フランス、ドイツなど西欧先進国の政治制度との比較を念頭に、日本政治における数多の制度疲労が指摘されている。1990年代の政治改革で、首相の権限は確かに強まった。しかし、日本の首相には、行政機構の組織編成権が付与されていない。また、日本の内閣は予算案や法案を国会に提出した後、それらの審議日程をコントロールしたり、提出法案を修正したりする権限を有していない。このように、西欧の議院内閣制と比較すると、日本の内閣及び首相の権限は「弱い」。逆に、内閣に対して日本の国会は「強すぎる」。これが著者の見立てである。
さらに、長年政権を担当している自民党を例に、党内ガバナンスの問題点が指摘されている。例えば、議員をなるべく平等に処遇し、いろいろな経験を積ませながら、ゆっくりと選抜していく人事システムは「競争と選抜の弱い人事制度だったと考えるべき」だとする。また、かつての派閥中心の人事と国会での質疑は事前に内容を明らかにして行う形式と相まって、国会や国際会議できちんと討論できるリーダーが育ちにくい政治環境であったことも問題視している。
そこで、著者は日本政治を立て直すため、以下のような処方箋を挙げる。まず国会関係では、国会審議への首相・大臣の召集をできるだけ控え、副大臣や政務官で代替できるようにすることや大臣討論制度の創設などは、法改正を要せずに行える。また政府関係では、閣議で討議案件を扱えるようにしたり、閣僚委員会を設置したりする改革が同様に行えるとする。続いて、国会法を改正し、内閣提出法案の審議に政府が相応に関与できる権限を付与する、衆議院の第一院性と参議院の補完性という棲み分けを明確にするなどの改革案が提起される。
本書は、現代の日本政治が抱える制度的・構造的問題点を比較政治学の知見を踏まえ、専門外の読者に分かりやすく提示し、かつその処方箋を施したものである。日本の政治システムを改革していくために必要なのは、印象論ではなく、地に足の着いた具体的な議論である。本書は、国会、内閣、政党の三者に関し幅広く問題点を抽出し、現実的な対応策を打ち出している。本書は、今後の政治改革のあり方を考えるうえでの叩き台として打ってつけの一冊といえる。
国際化がますます進む中、現代国家はその対応に追われている。国際化の進展によって政府の素早い判断を要する案件が経済問題などを中心に増加している。また、日本を取り巻く国際環境に目を転じても、政府の素早い対応が求められている。内政面では、日本は膨大な税制赤字を抱えながら、少子高齢社会に対応していかなければならない。内外の情勢から、日本政治は厳しい舵取りに迫られている。それゆえ、野中氏は意思決定のスピード化と政治運営の効率化を重視し、「決められない政治」から「決められる政治」へと日本政治を転換すべきだというのである。
なお、忘れてならないのは、野中氏は国際化に対応するためには、日本の政治リーダーの討論力の向上が必要不可欠であると主張していることだ。意思決定のスピード化と政治運営の効率化を重視する立場に対し、熟議を重視する立場からは、政府の意思決定の質と国会での議論の質をどのように担保するのか、という反論が予想される。野中氏は、こうした点にも十分自覚的である。ただし、質の高い議論のできる政治家は、国会制度によって育つのではない。政党が自ら党内でそうした政治家を育てていく必要があるのだ。
野中氏が本書で提起したように、議院内閣制や国会の在り方のみならず、政党の党内ガバナンスも含めた統治システム全体を見据え、修正すべき要件の順序立てが的確になされたならば、日本政治は「ガラパゴス化」から脱却し、新たな輝きを見せるであろう。
    • 政治外交検証研究会幹事
    • 小宮 一夫
    • 小宮 一夫

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