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海外自治体調査報告:「スウェーデンの基礎的自治体(コミューン)の実態(2)」

April 10, 2008

基礎的自治体(コミューン)の姿(2)

民営化の目的

わが国は自治体の公的施設やサービスの民営化が定着しつつある。スウェーデンでもいくつかの自治体で民営化が実施されているが、その民営化の目的は行政コストの削減だけではない。顧客である市民の選択肢の拡大が目的であり、究極的にはサービスの質を向上させることにある。その達成に民営化が最良と考えられた場合のみ実施する。民営化することはあくまでも手段であり、目的ではない。


民営化への障害

民営化を行うことで生じる問題のひとつにそこで働く職員の雇用の確保がある。スウェーデンでも同様である。ダンドリード(Danderyd)のグンナー・オーム(Gunnar Oom)市長(Kommunalrad)にそのことをたずねた。「野党議員だけでなく、教職は大反対だったよ」と当時を振り返り少し誇らしげな笑みを浮かべながら語った。15年前に中学校の民営化を手がけたときは、教職員が強い抵抗をしたという。公立学校では経営破綻することはないが、民営化されると経営者のミスマネージメントによる倒産も想定される。それを危惧した教職員が民営化反対と唱えた。その数は40人中36人であった。

しかし、市長だけでなく与党議員の説明で一年後には、その比率が逆転したという。説明に際して、まず基礎的自治体(コミューン)は形態を問わず、小中学校教育を提供する法的義務があり、またその財源も国に頼ることなく、住民の税金で潤沢にある事実を明確にした。市が学校に配分する学生ひとりあたりの年間予算は、公立民間問わず10万クローネ(約180万円)である。

その財源を効果的に活用する競争させると、顧客(学生)の獲得競争がおきる。そうなると、住民が学校を選択するようになる。広域で活動する民間団体は、欧州各地で実施されている先駆的なアイディアの情報が入手しやすい。そのアイディアを用いることで教育の質だけでなく、教員の仕事の質も向上できる。社会全体の質が向上するのである。民営化に最初反対していた教職員も今はいろいろな手法で教育できる喜びを覚えた。


社会全体の利益

スウェーデンなど高福祉高負担の国の住民は、納税金額に見合うサービスを受益しているから納得していると解釈がたびたび行われている。そのようなコスト偏重の議論だけでは、人の尊厳に関わる改革は成功しない。政治家が明確な目的を打ち出し、そこに到達する手法を論理的に示すことが不可欠である。また、改革の対象者は当事者意識だけではなく、公共の一部を担っている主体者として参加することで改革に対する理解が深まる。当事者の納得を重んじるわが国では一見ドライすぎて受け入れにくいだろう。しかし、社会全体の総合的な視点から見ると、合理的であり人道的でもある人に優しい制度である。

文責:赤川貴大

本稿を簡潔にまとめたレポートが、4月10日付『埼玉新聞』に掲載されました。

    • 元東京財団研究員・政策プロデューサー
    • 赤川 貴大
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