海外自治体調査報告:「スウェーデンの基礎的自治体(コミューン)の実態(3)」 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

海外自治体調査報告:「スウェーデンの基礎的自治体(コミューン)の実態(3)」

April 15, 2008

基礎的自治体(コミューン)の姿(3)

政治家の役割

わが国でも市民の政治参加の必要性がたびたび主張されている。スウェーデンでは当然のごとく実施されている。しかし、その内容は異なる。住民は要求を権限と財源を持っている責任者と直接向き合う。

例えば、学校内の問題は教職員と協議されて、学校長の裁量で処理される。教育分野の委員会に所属する議員が学校の教育現場に出向いて、執行委員会や議会で判断が下ることは稀である。

住民がよろず相談所のごとく、市役所や市議会議員に国や県の仕事について注文をだしたり、陳情したりすることはない。責任者にメールや電話で直接要望を届ける。必要ならば当事者で会合を持つことはあるが、そこに政治家は介入しない。政治家の役割は目標を設定して予算を配分して円滑に運営できる人員を配置することだ。その後の諸問題の解決には関与せず、然るべき人間が対処する。


現場の権限

校長はどの教科書を使用するかどころか、教科書の使用の有無も含めた大きな権限を有している。ソデルタリア(Sodertalje)の文教委員長のトーマス・ヨハンソン(Thomas Johansson)議員は、「市は教師を雇うことはできません。これは校長の権限であり、行政は介入できません。ただし、校長は市で雇います」と市ができることとできないことを明確に説明した。


党員の活動

では、住民がその目標に不満のときはどうするのか。究極的には、4年に一度の選挙で政権を代えることができる。政治理念やイデオロギーに裏付けされた各党の政策は、明確な優先順位があり争点も分かりやすい。

選挙と選挙の間の4年間は、党支部主催の会議で発言することができる。ダンドリード市では、与党穏健党は月に2~3回議員と党員が政策について議論する場を設けている。そのときのテーマによるが、50名~150名の参加があるという。

各党は校長の許可の下、高校に出向き高校生を対象に民主主義や政治の重要性を理解させる運動を日常的に行っており、十代の頃から身近に政治や政治家に接しており、住民も議論自体が慣れ親しんだ習慣となっている。国、県、市の仕事が明確に定められている上に、住民もどの仕事がどの行政機関に属するかを熟知している。例えば、老人養護は市の仕事であるが、医療は県の仕事である。老人施設内で病気やけがになったときは、県の病院が責任を持って対応する。


住民を中心に国・県・市が向き合う

まずは権限、財源、人間をワンセットとして国・県・市の中で完結することが肝要である。つまり、住民を時計の中心に例えると、2時、6時、10時の位置に国・県・市がYの字に位置しているような関係が望ましい。役割を明確にして迅速で的確な行政が執行されることが社会全体のコストを下げ、行政の質を向上させることにつながる。役割を明確にすることは責任が明確になることである。責任を持たせるには権限と財源を保障しなければ仕事を全うすることはできない。行政や議会の制度比較を行い、実現可能な制度を導入する前に行うべきは、国・県・市の仕事を明確にして、財政規模に見合った仕事の分量を定めることである。


文責:赤川貴大

本稿を簡潔にまとめたレポートが、4月11日付『埼玉新聞』に掲載されました。

    • 元東京財団研究員・政策プロデューサー
    • 赤川 貴大
    • 赤川 貴大

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム