2009年7月1日、日本財団ビル2階大会議室にて 「東京財団政策懇談会 地方議会の改革 ニセ議会基本条例を斬る」 を開催いたしました。
赤川より中間とりまとめとして報告がありました。配布資料は こちら です。
その後、パネルディスカッションと参加者との活発な意見交換が行われました。
パネリストの発言概要は下記のとおりです。
福嶋浩彦上席研究員の配布資料は こちら です。
赤川
本日の政策懇談会のタイトルは「地方議会の改革 ニセ議会基本条例を斬る」です。参加申し込みと一緒に「議会基本条例はわかるけど、何がニセなんだ」というコメントをいくつかいただいております。タイトルがあまりにも週刊誌の中吊り広告のようなセンセーショナルのため、議会基本条例制定に尽力した議員からは、苦労も知らずに批判され、斬られるのは、不愉快だと不参加の連絡もいただきました。
タイトルへのご批判は甘受いたしますが、本会のテーマは議会改革であり、目的はより良い、本物の議会基本条例の制定を提言することです。そのためには、ニセものを指摘しなければいけません。東京財団の「地方議会の改革プロジェクト」では、議会基本条例を議会改革の試みとして高く評価しています。また、今後、より多くの議会が制定していくことを期待し、歓迎し応援するのが基本的スタンスです。
まず、最初のご質問に対しての答えを申しあげます。ニセ基本条例というのは何か。市民と議会の関係に着眼して分析した結果に基づいて判断させていただいております。議会が市民と向き合っているかを分析しました。もう少し具体的に説明しますと、「市民の参加」と「情報公開」です。この二つが条例に明記されているかどうかを検証しました。議会への市民参加を強化する条文がないものは、ニセ基本条例と考えます。
いくつか検証項目を挙げますと、地方自治法で定めている常任・特別委員会以外の委員会を「一般会議」と栗山町では呼びますが、一般会議に準ずる会議の開催の有無。それからもうすでに制度としてはありますが、参考人、聴講会の制度。それから請願者や陳情者が委員会で発言できるのか。それから委員会の公開。議会主催の報告会の開催。さらに各議員の投票結果の公表。これらの項目について、どのように書き込んであるのか、どのような位置づけをしているのかを比較しました。
条文の比較で◎、○、△、×を印せるのですが、制定過程も重要です。これについては、現在ヒアリング調査を実施しています。
地方議会の改革とは、端的に申し上げると、議会と市民の“真剣勝負”を実現することだと考えております。議員の視点で申し上げると、自分の支持者でない市民と、議会主催の正式な場で公開議論をすること、市民の視点で理解をすると、投票していない議員に対して意見を言い、その議員からの反応を得ること。これが真剣勝負の姿なのではないかと思っております。
これから福嶋浩彦上席研究員、前我孫子市長、木下敏之上席研究員、前佐賀市長、中尾修研究員、前栗山町議会事務局長からコメントをいただきます。今回の調査・分析で基本モデルとしたのは、日本初の議会基本条例を制定した栗山町議会基本条例です。
福嶋浩彦上席研究員
前我孫子市長という紹介でしたけど、このテーマで考えれば、元我孫子市議会議員でもありますので、よろしくお願いいたします。
私は、地方議会、自治体議会の改革を考えるときに、あるいは議会基本条例を考えるときに、地方自治体の民主主義とは何か、地方自治体議会とは何かということを、まず明らかにしておく必要があると思います。地方自治体の議会とは、国会の規模を小さくしたものではありません。ここがポイントだと私は思っています。国政は議会中心主義、国会中心主義です。しかし自治体の民主主義は、議会中心主義ではありません。
自治体議会は、憲法でその性格を議事機関と規定しています。議事というのは、会合して相談することですね。国会については、国権の最高機関であり、唯一の立法機関というふうに憲法41条で定めています。
それから、その議員は、国会の場合は43条で、全国民を代表する選挙された議員と書いています。一方、自治体議会は、住民が直接これを選挙するとしか書いていません。つまり選挙された議員ということしか書いていません。これをどう捉えるかについて考えていただきたいのは、憲法の前文の「権力の行使」です。「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動する」と書いてあります。つまり、私たち国民は国会議員を通じて行動すると書いています。そして、国政において、その権力は国民の代表者が権力を行使すると書いてあります。私たちは、私たちが選んだ代表者を通じて行動し、代表者が国政の権力を行使すると書いてあります。
しかし自治体については、こうした規定はありません。自治体の住民は、選挙で選んだ議員、あるいは長を通じて行動し、権力はその代表者が行使するとは書いていません。これは単に省略されているのでしょうか。憲法95条をみると違うことが分かります。憲法95条は、特別法の制定について規定です。特別法というのは、1自治体だけに適用する法律ですが、それを国会が制定するときは、その自治体の同意を取らなければいけない、とけ憲法は明記しています。戦後、広島、長崎それぞれに個別に適用する法律が設定されました。
これは地方自治の本筋の話ではありません。ただ、この意思決定のしかたが重要です。自治体が同意するときの意思決定のしかたです。地方自治体の権力行使は、住民は選挙で選んだ長や議会を通じて行動するとは、憲法は書いてないだけで、国会と同じように想定をしているとすれば、特別法に対する自治体の同意というのは、長の同意か、議会の同意、あるいは双方の同意でいいはずです。しかし、特別法について自治体の同意のしかたは、住民投票によって過半数の同意が必要と書いています。ですから、権力行使は住民が直接することです。
実は、自治体の意思決定で憲法に出てくるのはここだけです。地方自治法の中で条例の直接請求などが出てきます。住民は直接請求によって、条例案を提案できます。国に対しては、国民が法律案を直接請求するという手続きはありません。
さらにもう少し詳しく見ていくと、憲法51条で、国会議員は、国会の中で行った演説等の、それから評決の結果について、国会外で責任を問われないと明確に憲法で規定をされています。つまり、国会議員の演説がけしからんからリコールだとか、国会の議決が国民の意思に反するとして、議員を罷免や国会解散を国民は要求できません。そういう権限は、国民は持っていません。
ところが自治体では、議会が決めたことがけしからん、議員の言動がおかしいなどの理由で、任期途中でも、住民はその住民の全体意志で、特定の議員をリコールすることができます。クビを切ることができます。議会を解散させることができる。
それから住民は、条例案を提案できます。直接請求です。また、住民は自治体の財務行為を直接追求できます。つまり住民監査請求ができます。納税者訴訟として住民訴訟ができます。納税者の利益に反するということで、私・個人の利益に反するではなくて、納税者の利益に反するということで、訴訟を起こせます。これも国にはない仕組みです。会計検査院に監査請求することはできませんし、国に納税者訴訟を起こすことはできません。
地方自治体の民主主義は、国とはまったく違う仕組みです。つまり国政は国会中心主義、議会中心主義を採っています。しかし自治体の場合には、直接民主制をベースにして二元代表制を入れています。
権力を行使するのは、選挙で選ばれた長と議会、そして住民の直接参加です。この3つが権力行使をします。三者の緊張関係の中で動かしていくことが自治体の民主主義です。
以上を踏まえ、今度は自治体の基本条例で何を定めなければいけないかを考えました。基本条例とは、自治基本条例と議会基本条例、両方を指していますが、首長や議会が自らの権限で決定をするときも、必ず決定過程では、多様な住民と議論をして、いろいろな住民の意見を聞いて、それを踏まえて決めることが核心的な中身です。基本条例の重要な要素は住民参加です。
議会基本条例で一番求められるのは、議会への住民参加の仕組みです。議会が意思決定をするときは、必ず住民参加を行う仕組みを定めるのが、議会基本条例の核心だと思いますね。だからここが抜けているのはニセではないかという定義になっているわけです。
議会基本条例の要素のひとつとして、議会の権限強化があります。二元代表制の下で、議会の首長に対する権限強化が、具体的には議決権の拡大として条例化されています。それはそれで大切です。ただ、あえて順番を付けるなら、まず市民の議会への権限強化のほうが先です。住民の議会への権限強化を図る次に、議会の首長への権限強化が行われる。順番を付けるならそういう順番でなければいけません。住民の議会への権限強化、つまり住民の議会への参加を徹底することで、自然に首長に対する議会の権限も強まるはずです。
危惧していることを申し上げると、議会基本条例の案作りの委員会を非公開で実施している議会があります。これはブラックユーモアみたいな話です。議会基本条例は議会に市民が参加することが目的です。市民参加の仕組みを市民不在で議論していることを意味します。一つの会派や有志議員が議会基本条例案を作って提案して、他の会派と議会で徹底議論する。各会派から代表議員を集めて、密室で議論した結果の全員一致では、住民にはまったくわからないです。住民にとって、そんな議員立法は行わないほうがいいです。だから、議会基本条例の制定過程を公開にすること、住民が参加することが大事です。
人口規模と議会への市民参加がときどき話題に上ります。栗山町は小さな町だからできると人口を言い訳にする議員がいます。しかし、首長は徹底して市民と向き合っています。それが議会にできないのでしょうか。人口100万の政令都市でも可能です。例えば横浜市、中田市長は一生懸命市民参加に時間と労力を使っています。それと同じ程度には議会もやらないといけないと思います。都道府県でも、三重県議会は市民参加に積極的です。大きな政令市でも、市長・行政の側は住民参加が必須となっています。議会は少なくとも、首長と同じ程度か、それ以上にはできるはずです。首長は選挙で選ばれた人間は一人しかいませんが、議会には、選挙で選ばれた議員が何十人かいるわけです。住民との結びつきということで言えば、ずっと首長より結びつける機会は多いはずです。
議会は機関として市民参加をしなくても、個々の議員が日常的な議員活動を通して住民の意向を聞いているので、それを持ち寄って議会で議論することで十分で、議会としての住民参加は不要であるとの考えが、伝統的な考え方としてありました。
しかし、議会への住民参加とは、住民が個々の議員の自宅に行ったり、あるいは会派の控え室に行ったりしてお願いすることではありません。自治体の問題について、議会の正式な場所で、住民が議員と正式に議論をすることです。1票を投じた議員にしか意見を言えない仕組みではないです。1票を入れていない、支持していない議員さんにも主権者として当然意見を言う権利が住民にはあります。あるいは1票を入れてない議員からも議会の報告、考え方を聞く権利があります。それぞれの議員の議会報告会をハシゴする必要がありますか。それは奇異です。議員の支持者が集まっている場所をハシゴするようなことを認めることはできません。今日の配布資料にありますが、議員が議会主催の正式な会議の場で、自分の支持者ではない市民の人と正式に議論することが核心だと思います。
木下さんも私も、いやになるぐらい、何百遍も、何万遍も聞いてきた言葉があります。「周氏はいいけど、早すぎる」「もっと全体の理解を得てから、段階的にやるべきだ」これらは、改革つぶしの常套句です。決して、中身を駄目だとは言わない。でも改革には反対の立場です。
中尾修研究員
3月まで北海道栗山町の議会事務局長を勤めておりまして、4月からこのプロジェクトに参加をさせていただいております中尾修です。よろしくお願いいたします。
議会基本条例に必ず必要なものは、議員が、個人としてではなく、機関として、機関の意志で主権者たる住民との議論が確保されなければならないと考えています。
住民としっかり議論することは大事ですが、何も持たないで“ガチンコ議会報告会”は危険です。議員は市町村の課題と10年のスパンの財政分析を調べなければだめです。住民からの質問に数字の最後の桁まで答える必要はありませんが、概ねの数字や方向性を即答できるデータはないといけません。丸腰で出るリスクは負わないでいただきたい。
議会報告会は、議員の活躍のステージです。まず、議会が提供できる情報を公開して、住民を引き付けることが大事です。議会の政務調査費の使い方、報酬の金額、出動日数、議決案件の明確な説明を報告会の冒頭で行います。
最初は陳情会に必ずなります。住民にとっても初めての経験ですから、2~4回は陳情が多くの時間を占めます。しかし、住民も数回の経験を経て地域経営の視点を持つように変化していきます。地方自治ですから、議員だけが責任を負うのではなく、地域の経営については、そこに住んでいる住民全員の問題として受け止めるようになります。市民としての責務が芽生え始めます。そのような状況になると、住民同士で陳情を制御するようになります。「そんな些細なことを議論する時間がない」って住民が他の住民に発言することになります。
それから議会報告会開催にあたっての技術的な方法ですが、大事なことを紹介します。抽選で3班に分けることです。議員の支持基盤や会派で分けては、議会報告会にはなりません。もう一つ、テーマを決めないで本当に“ガチンコ”で開催します。議会報告会に集まっている住民が日々感じていることを率直に発言することが重要です。発言内容のレベルの高さは問題ではなく、自治に参加することが重要です。
栗山町の場合は、議会基本条例なるものを最初から制定に走ったわけではありません。議会報告会を続けた結果、住民から制度化を望む声がでました。報告会の実施に関する条例の検討段階で、議会改革を網羅した条例を議会基本条例の形にしようと動いたのが経緯です。いまヒアリング調査実施中ですが、多くの市町村議会では、「条例先行型」と思われる議会基本条例があります。それはそれで十分けっこうだと思います。しかし、議会基本条例が終わり、エンドではなくて、それが出発で、そこから議会改革が始まるということですから、条例先行型の議会の議員は、大変な思いをされると予想されます。
議会事務局長時代から議会改革の必要性を訴えています。それは住民から選挙で選ばれた議員が悪口を言われる状況を黙って見過ごすことができなかったからです。反転攻勢のアクションを起こすお手伝いをしようと考えました。厳しい選挙を勝ち抜いてきた議員の多くは、闘争本能があるはずです。議員の資質を考えると、売られたケンカは買ってやるくらいの気概があって当然と考えました。
木下敏之上席研究員
佐賀市長を退任して、もうすぐ4年になります。主に関心を寄せていることは、人口動態と地方自治体の財政についてです。人口、とくに税金を納めてくれる働く世代が減っていきます。だから自治体に入ってくる税金が減ります。一方では、高齢者の数がどんどん増えていきますので、出ていくお金が増えていきます。多くの地方自治体は、サービスを減らすのか、それとも税金を上げるのか、それとも公務員の給料をうんと下げて、当分しのぐのかという、大変厳しい選択を迫られてきます。すでに迫られている市町村もあります。
そのような地方自治体の姿を想像すると、首長のマニフェストを金科玉条のごとく扱うことが、本当に安心できるか考えてください。これから財政状況はどんどん悪くなっていきます。首長がマニフェストを掲げて当選しという理由だけではなく、やはり毎年、毎年、正式の場で住民に、これから財政やサービスについて問いかけする必要があります。これを怠ると、自治体の方向を誤ることを危惧しています。誤るとは、住民が考えていることと違うことを実施してしまうことです。住民が望んでもいないサービスを承諾していないコストで実施することにつながります。
私が市長に就任するまでは、市長と住民の意見交換会は、完全な歌舞伎のような状況でした。小学校の校区が全部で19ありまして、4年間の市長の任期の間に1回それぞれの校区で開催します。だから年間に、4~5回、住民のところに市長が行くことになります。事前に自治会と細かくすり合わせしていました。だれが何の質問をするか。そして市長はどのように答えるかを全部決めた上で開催していた。場合によっては部長全員連れてきたらしいです。飛び入りの質問は許さないというスタイルだった。
それを私はいかんだろうと考え、毎年19小学校校区で「市長と語る会」を開催しました。もちろん勉強はしていきますけど、部長は一切連れていかない。私と秘書課長か係長は付いてきましたが。質問はフリー。最初2時間あるとしたら、30~40分は行政説明にあて、残りは質問と意見交換の時間にしました。
当初は陳情の連続です。どこそこの道路の穴が開いたままだとか、道幅が狭いとかですね。ここの川が全然きれいにならんとか、下水道が未だ整備されないとか、陳情の連続でした。一つひとつ答えたわけですが、19の小学校校区全部回ると、市が抱える重要な課題がいくつか浮かび上がってきます。ある種、体感温度、現場感覚として課題が見えてきました。市民へのアンケート調査では見えない、目に見えない住民の意思というのが伝わってきました。これは市の行政を執行していく上で、自信になりました。根拠と言ってもいいです。そういった市民の意思が感じる体験は、地方議会でも試みることをお勧めします。
「地方議会の改革 ニセ議会基本条例を斬る」動画レポート
※この動画は2009年7月1日に実施された実施された東京財団政策懇談会より一部抜粋してお届けしています。
[1]木下敏之上席研究員 (05:49)
[2]福嶋浩彦上席研究員 (10:34)
[3]中尾修研究員 (04:03)