⇒ 第3回テーマ 「医療と食のための生命操作」
⇒ 開催日時 :2010年12月6日(月)15:00-17:00
⇒ 開催場所 :日本財団ビル3F 東京財団内会議室
⇒ 概要説明(ねらい)
私たちが食べる牛肉や豚肉。その牛や豚の生命はどうやって誕生しているのでしょうか。体外受精、遺伝子組み換えから体細胞クローニング技術まで、動物の生命を操作する発生工学は、様々な実用化に向けて確実な進歩を遂げています。そのなかには、動物のなかで移植用の人の臓器を育てる、異種間再生医療も実現に向けて動き出しています。今回のサロンでは、発生工学の専門家、長嶋比呂志氏をお迎えし、遺伝子操作、クローン技術研究についての最新状況を伺いながら、その課題、将来の展望について、ぬで島研究員と議論します。
⇒ 議論の展開
◆今年のノーベル医学生理学賞(体外受精でエドワーズ)をどうみるか
・体外受精には倫理面での批判もあるが、体外受精とは人工的な場を提供するもの。出産できないことは「受精における障害」であり、体外受精はその手当をするための手段であるという考えもある。
・牛の体外受精では、日本が世界をリードしている。牛では100%が人工授精または体外受精。
◆クローン技術は畜産で受け入れられるのか
・高い死産率と安全性は関係ない?
・EUでは、「クローン牛を大規模につくることは、実験動物の福祉の観点から認められない」としている(EU科学技術倫理委員会報告書、2008年1月)。日本では、どう考えられているか。
・「実験動物」を食肉市場に出してよいか?畜産においては、実験で使った動物は、実験動物ではなく、産業動物としてみなしており、生命科学とは感覚が違うのではないか。
・消費者の視点にたって、倫理面、経済面でのメリット、デメリットについて、きちんと整理したうえで、議論していくべきである。
◆人の臓器を動物の体の中で育てる研究:異種再生医療による動物-人キメラづくりは受け入れられるか
・人の要素を含むブタ、つまりいわば若干ヒト化した動物をつくることになる。脳がキメラ化するおそれもある。どこまで人の要素を含むブタが許されるだろうか。
◆医療と食を巡る生命操作で、いま一番危惧される点とは
・科学技術が日常的に入りこんできた今、これまで共通して持っていたような倫理観、道徳観だけでは片付かない問題が多くなってきた。改めて倫理観、道徳観について考える場が求められている。
・医療でも食でも、当事者である国民への情報開示が極端に少ないこと、情報共有や議論の場がもたれないことが当たり前となっている。このままでは、いつのまにか適用されてしまう危険性がある。
⇒ スピーカー紹介
長嶋比呂志
明治大学農学部生命科学科教授。専門は、発生・生殖工学、動物繁殖学。2007年に世界初となる体細胞クローン技術を用いたクローンブタの反復生産によるクローンブタ第4世代づくりに成功。共著に『シリーズ21世紀の農学 遺伝子組換え作物の研究』(養賢堂 2007年)、『動物発生工学』(朝倉書店 2002年)など。
ぬで島次郎(東京財団研究員)
⇒ スピーカーからのコメント
私は大学の授業で、学生が様々な生命操作や先端医療の是非について自ら判断する際には、まずその技術内容を正確に理解することが肝要であることを強調しています。今回の議論の中で、生命倫理観の民族(宗教)間差の紹介をきっかけに、生命倫理観の教育にも話が及びました。「生命倫理全体主義」のような方向に陥ることなく、国民の中に「落ち着いた」生命倫理観を醸成するには、生命操作の内容についての正確で客観的な教育、それも初等・中等教育段階からの教育が今後益々重要なのではないかと思いました。
⇒ 参加者のコメント
・共生、共に生きるという言葉がある。人は一人では生きていけないという意味と、人だけではこの地球は成り立たないという、多くの意味を内包した言葉だ。生命倫理を考える上でも「共生」が一つのキーワードではないだろうか。自分の命を考えることは他人の命を考えることである。そして、この地球に生きる生き物の命のことまで考える、そんな生命倫理であってほしいと思う。(30代 男性)